青春ツンデレ野郎の運命の赤い糸は、物理的に離れられない
黒鉄メイド
第0話 運命の赤い糸で、物理的に離れられない二人
『運命の赤い糸』というものをご存じだろうか?
運命の相手との間に結ばれる特別な縁のことであり、縁結びの象徴としても知られている。
運命の赤い糸で繋がった二人は、将来結ばれて幸せになれる。
とても素敵な話だ。誰もが羨む理想と言えるだろう。
だがしかし、それは二人の仲がよかった場合の話である!
「ぐ、群青くん……っ! 離れてくださいよ……っ!」
「僕だって好き好んで近づいてるわけじゃねぇよ!」
険悪同士な二人をそんなもので繋げたら、ラブラブなシチュエーションとはほど遠い、チェーンデスマッチに早変わりする。
ガシガシガシ。
先ほどから、僕と、僕の右隣を歩く彼女は互いに距離を取るため、肘をぶつけ合いつつ、牽制しあっていた。
彼女の名前は、
持ち前の美しい黒髪は、朝日を浴びるごとに青色や水色の光りを反射させ、コバルトブルーの大きくてぱっちりとした瞳が特徴的美少女だ。
それだけなら、可愛らしい印象を受ける彼女だが、ほのかに色めく桜色の唇はとても色っぽく、相手を意識させるには十分な異性としての魅力も同時に兼ね備えていた。
そのあまりにも現実離れした存在感から、碧空春は別名、『青春の象徴』として呼ばれている。
曰く、夏にやっている飲料水メーカーのCMに出てくるような美少女。
曰く、学園生活を一緒に送りたい、理想の美少女。
曰く、青春という要素を具現化させたような美少女。
それが、碧空春という美少女だ。
僕が求める理想の青春像を形にしたような彼女の存在を知った時から、僕は彼女に心を奪われた。
正直に白状すれば、一目惚れだった。初恋だったんだ――だがそれも、今や昔の話。
昨日の出来事がきっかけで、彼女に対しての理想は脆く崩れ去ったのだ。
それに、碧空の方も何故か僕のことを嫌っているし、僕らの関係性は最悪と言ってもいい。
お互いに離れたいと思っているのは同じはずなのに、僕らには距離を離せない理由があった。
それは。
「でも、仕方ないだろうが、赤い糸がこんなに短いんだからな!!」
僕が左手を挙げると、自然と隣の碧空の右手も持ち上がる。
僕の左小指には赤い指輪のような輪っかがはまっており、その輪っかからは赤い糸が伸び、彼女の右小指の赤い輪っかと繋がっている。
糸の長さは、わずか10cm。手と手がふれ合う位に近い。
何を隠そう。僕と碧空は昨日、運命の赤い糸で結ばれてしまったのだ。
しかもこの糸、なんと距離的な制限がある。
だから、僕らがどんなに離れたくても、糸で繋がれているので離れられなかった。
といっても、この糸にも一応長さを変える方法や、糸の長さ関係なく距離をとる方法はある。……あるのだが、問題はその方法にあった。
僕らの運命の赤い糸は、お互いの想いによって糸の長さが変化する。
相手を嫌えば、“シュルシュル”と糸が伸び、距離が広がる。
逆に、相手のことを好意的に思ったり、意識すればするほど、糸の長さは“キュッキュッ”と短くなっていき、物理的な距離も近くなる。離れられなくなってしまう。
いわば二人の好感度を可視化したものと言ってもいいだろう。
つまりだ――僕らが離れたくても離れられない原因は、お互いに意識しているからなんだ。それも、好意的に……。
「「……」」
キュッ。
また糸が短くなった。現在の僕らの距離9cm。
今糸が短くなったのは、僕の所為じゃない。断じて違う。
僕は彼女のことなんて全く、これっぽっちも意識なんかしていない。
例え意識したとしても、それは女子と一緒に並んで歩く行為そのものに対して。
健全な男子高校生なら、誰だって意識してしまう。自然現象の一つだ。
決して、碧空が赤面で俯きつつ、「あぅ……あぅ……」という姿が可愛くてときめいてしまったわけじゃない。
ということは――。
「おい碧空……いくら今朝のことがあったからって、僕のこと意識しすぎじゃないか?」
今糸が短くなったのは、碧空が僕を意識したということ!
なんだよ。僕のことが好きならそう言えよな?
でも、碧空が僕のことを好きか……ふふふっ……て、危っなっ!? 乗り気になるな、僕! いくら碧空の容姿がいいからって、中身が地雷だったのは昨日思い知っただろうが!
僕の指摘に、碧空は息を呑んで目を泳がせて、耳まで一気に顔を真っ赤に染めた。
「い、意識なんかしてませんよ! 今糸が短くなったのは群青くんの方でしょ? どうせさっき私をベッドに押し倒した時のことでも考えてたんでしょ? そうなんでしょ!? やっぱり群青くんはセクハラ野郎ですよ!! このおっぱい星人!!」
うっ!?
キュッ。
糸の長さ8cm。
碧空は胸を隠すように、両手で自分の身体を押さえた。
いや、確かに碧空を押し倒す結果になったけど、あれは成り行きでそうなっただけで全くの誤解だ!
「てか、いい加減その呼びから止めろよ! あの時の発言は誤解だって、何度も言っただろうが!?」
「いいえ! 私はちゃんと聞きました! 間違えありません!」
「くぅ……っ! そもそも、碧空が僕の家に不法侵入者してきたのが悪いんだぞ! 意識してたのはどっちだよ!」
僕のツッコミに対し、碧空は――ボン!――と音をたてて、耳まで一気に顔を赤くした。
キュッ。
また糸が短くなった。5cm。
もう手と手が触れあってもおかしくない距離だ。
「あ、あ、あ、あれは……ぐ、群青くんが部屋の窓をちゃんと閉めてればよかったじゃないですか!! そ、それに元はと言えば全部、群青くんが悪いんですよっ! 私を……こんな風にしたのは……っ」
「なんでそうなるんだよ!? どうして碧空はそこまで僕のことが嫌いなんだよ! 昨日まで面識なんてなかっただろう!? そんなことばっかり言われたら、流石の僕も泣くぞ!?」
「それは……うぅ……ひ、秘密ですよ秘密! 言えるわけないじゃないですか……っ!」
ご覧の通り。
いくら『運命の赤い糸』なんていう素敵な名前だろうが、一度こじれてしまった仲を修復することは不可能なのだ。
では、何故僕こと
どうしてここまで仲がこじれてしまったのか?
事の発端は、昨日の放課後まで遡る――。
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