騎士の称号

みやしろん

1.『  』

 この国では遥か昔から、生き物と生き物を戦わせてどちらが勝つか賭けるという行為は禁止されています。

 しかし人は常にスリルと興奮を求め、かつては社会の裏で密かにその賭博が行われていました。

 それから月日は流れ、万人にこの賭博を楽しませようと考えたある人は、やがてロボットとロボットを戦わせる『闘機試合』という新しい方法を考え出したのです。

 人はロボットの人並外れた性能のぶつかり合いに間もなくのめり込んでいきました。人間では成し得なかった迫力に酔いしれたのです。

 大企業もこぞって参入しました。より強いロボットを製造することによって企業力を見せつけようとしたのでしょう。今では『金持ちの道楽』と皮肉られるほど、闘機のほとんどが企業製品です。

 ──そして私はそれら企業の中でもトップクラスのシェアを誇る電気工業製品開発製造会社フェディルトグループに造られた闘機。

 遥か過去の西洋鎧姿に剣を持ってることから闘剣士フェンサーと呼ばれています。無敗を誇っているため、キングと呼ぶ者もいます。











「全く大したヤツさ、コイツは」

 私のメンテナンスを担当している男性スタッフが、私の頭部を叩きながら笑いました。

「俺達の日々の研究の甲斐があるってもんよ」

 フェエディルトでは闘機試合専用の部門が設置されていて、ここ一年は日夜、私の性能アップのために努力しています。ですがスタッフが言うには、しばらくは今現在の性能だけで勝ち進めるようです。

「今度のボーナスが楽しみだよな」

「そうそう。社長ってば前回のボーナス、今までの倍くれたからなー」

「前は家のローン全額払いきったからなぁ。今度は高級車でも買うか」

 現社長は歴代の社長の中でも一番闘機試合にのめり込んでいる人物のようで、暇があればこの闘機開発部へ足を運ぶほどの熱の入れようなのです。

「そういえば、今日のフェンサーの試合を社長の娘が見に来ていたって本当か?」

「ん? あぁ、本当だよ。社長が連れていったんだそうだ。娘にも闘機病を伝染させるつもりかね」

「でも跡継ぎは長男だろ?」

「家族なら誰にでも夢中にさせたいんだろうさ。でなけりゃぁ娘を将来こっちに入れるとか」

「でも娘って勉強できないんじゃなかったか?」

「ま、将来なんて先の話だろうけどね。なんせ娘はまだ十だ」

「うんうん。ふぁーあ......俺もう眠いよ。先に失礼していいか?」

「仕方ないな。んじゃ、残りの仕事は明日っつーことで」

「はーい、おつかれー」

 あくびをしたスタッフは手早く帰り支度を整えてメンテナンスルームから出ていき、残ったもう一人のスタッフは笑みを浮かべつつ方をすくめてパソコンの前に座りました。明日仕事を終わらせると言いながらも、そのつもりはないようです。

 その時でした。来客を知らせるチャイムが施設全体に響き渡りました。

「誰だ? こんな時間に」

 時間は既に夜中二時を回っています。社長さえもこんな遅くには来ません。スタッフが訝しいむのも当然です。

「......あっ!? 社長の娘じゃねぇか!!」

 私の位置からは見えませんが、監視カメラと繋がれたモニターに映っていたのはお嬢様だったようです。

「一人か? なんで......」

 スタッフは慌てた様子でルームを出ていきました。

 しかしその後スタッフは戻らず、代わりにお嬢様一人がルームにやってきました。

 お嬢様は寒くないよう、ブラウンのコートを着込んで黒のマフラーを巻いていました。コートと同じ色の長い髪は真ん中で分けられ、両の耳の上で結ばれています。年齢はちょうど十。名前は......

「フィルトお嬢様」

 私は上体を起こして呼びかけました。

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