第20話 地竜退治 - 3
他の人達はどうだろうか。探査魔法をで状況を確認するとトスカさんが一番砂漠の周辺に近いところに居る。
<< 女王を仕留めました。これからトスカさんのお手伝いに向かいます。>>
と念話で宣言して、トスカさんの傍に瞬間移動した。
<< まじかよ、本当に女王を殺せたのか? >>
とトスカさんが聞いてくる。さっきの私と同様に苦戦している様だ。
<< 中央の湖に放り込んだら何とかなりました。>>
と報告すると同時に、土魔法で女王の身体の下にある砂をコントロールして、砂漠の中央に向かって滑らせる。コツが分かったからかさっきより速い。女王が必死になって身体をくねらせるが効果は無い。ダメだと分かったからか、女王は動きを止め強力な火のブレスを放ってきた。防御結界では防げないと判断した私は瞬間移動で避ける。だが女王は転移した先にすぐにブレスを放ってくる。再度瞬間移動で避けるが、その間土魔法による砂のコントロールが止まり、再び女王が前進し出す。
<< おとりは任せろ。>>
と、トスカさんが言ったと思ったら、女王の目の前に転移して電撃を浴びせ、次の瞬間には瞬間移動で姿を消す。女王がブレスを放ったときにはトスカさんは居ない。これを数回繰り返すと、女王は完全にトスカさんにターゲットを絞った。その隙に私は土魔法を再開する。女王は再び後退を始め、そのスピードが徐々に増す。パニックに成った女王が闇雲にブレスを放つが、時すでに遅く、女王の身体は湖に突入した。先ほどと同じく水蒸気爆発が起きる。それに構わず私は女王の身体をさらに湖の中央に送り込む。
体温が下がり赤黒く色の変わった女王の頭部にトスカさんが雷を落とすと、女王の頭部が吹き飛んだ。これで2匹目だ。後は簡単だった。なにせ3匹目には3人掛かり、4匹目には4人掛かりで攻撃できるのだ。あっという間に3匹目、4匹目を退治できた。
女王をすべて退治した私達は、魔法陣を運んできた船に転移して休憩を取る。さすがに魔力を使い過ぎて限界だ。普通の地竜は残っているが、今は対応できない。
<< 恐れ入ったよ、今回の一番手柄はイルだ。大人は頭が固いね、女王に攻撃する方法を考えるばかりで、地面を滑らせるなんて考えもしなかった。>>
とララさんが言う。たまたま思い付いただけだと言いたいが、今はその気力がない。完全に魔力枯渇状態だ。私は行儀悪く床に横になっていた。それを見たララさんが何か言うと。船員さんが優しくソファーに運んでくれる。残りの3人が何か話をしているが、私はそのまま眠りに落ちた。
目が覚めると既に暗くなっていた。私はあわてて飛び起きた。ララさん達は同じ部屋のテーブルにすわって夕食を食べていた様だが、私はパニックだ。こんなに長く寝るつもりじゃなかった。
「母さんが心配しているので帰ります。」
とあわてて言うと、ララさんが止めるのも構わず瞬間移動した。いま何時だろう? とにかく急がないと、母さんの心が壊れたら後悔してもしきれない。自分達の天幕の前に転移するとあわてて中に駆けこんだ。天幕の中では兄さんと母さんが待っていた。私を見るなり母さんが立ち上がる。顔が怖い。母さんは私に走り寄ると、パシッと私の頬を叩いた。私はびっくりして後ずさったが、次の瞬間には母さんにきつく抱きしめられていた。
「イル、心配したのよ。悪い子ね。」
と言いつつ私を抱きしめる。頭に落ちる水滴は母さんの涙だろうか。
「ごめんなさい。」
と言うのが精一杯だった。母さんの心は壊れていない。それを確信した私は安心して母さんに抱き着いて泣きじゃくった。だって私は6歳の女の子なのだ。
その夜はいつもの様に母さんと一緒の寝床で寝た。帰ってから、母さんにはお腹は空いてないか、怪我はしてないかとか聞かれただけだけで、今日の出来事については一切質問されなかった。でも、明日には私から話そうと思う。いつまでも秘密にしていたのでは私の心が持ちそうにない。
次の朝目を覚ました私は、母さんと兄さんに、父さんが死んだときから昨日の出来事まですべてを話した。兄さんには前々から話をしていたから驚きはしないだろうが、母さんにはショックだったろう。小さな子供だと思っていた私が、父の仇として何十人もの人を殺し、昨日は地竜を退治してきたのだ。今度こそ嫌われたり、怖がられたりしても仕方が無いと覚悟をしていた。だが、私に投げかけられたのは優しい言葉だった。
「頑張ったわね、イル。父さんの仇を取ってくれてありがとう。」
そう言いながら母さんは私の頭を撫でてくれる。
「母さんは私が怖くないの?」
と恐る恐る聞いてみる。
「馬鹿ね、こんな可愛い娘が怖いわけないでしょう。」
と言って母さんは私を抱きしめてくれた。泣き顔を見られるのが恥ずかしかった私は、母さんの胸に顔を埋める。
「イルは昨日父さんの本当の仇を打ったんだ。父さんを殺したのは北の奴らだけど、奴らが南に攻めてくる原因を作ったのは地竜だ。だから父さんの本当の仇は地竜さ。お前は俺達家族の誇りだよ。」
とヤラン兄さんが言ってくれる。私はこの日、この家族の一員として生まれて本当に良かったと思った。私はトルク—ド族のラナイとマイラの娘、アイラとヤランの妹だ。このことを一生の誇りとすると心の中で誓った。
だが、私はまだ大きな問題を抱えている。アマルとカライだ。兄さんの話ではアマルは私が瞬間移動で消えるところをまともに見てしまったらしい。誤魔化し様もないのでふたりには私が急用で魔法を使って出かけたことと、詳しい説明は後でするのでこの事は誰にも話さない様に頼んだとのこと。
さて、それならふたりに説明しなければならない。でも、問題はどこまで話すかだ。特にアマルには将来結婚するのなら隠し事はしたくない。でも正直に話したら嫌われたり、怖がられたりしないだろうか。色々考えたが開き直ることにした。隠し事をしたまま結婚はしたくない。カライとだって親友なら秘密は無しだ。私はいつもの様に遊びに来たふたりに天幕に入ってもらって、今までのことを包み隠さず打ち明けた。ふたりは驚いたが、それだけだった。カライは話を聞き終わると、
「分かったわ。でもそんなことより、今日は何して遊ぶか決めない? これ以上お話していたら遊ぶ時間が無くなっちゃう。」
と返してきた。いくらなんでも、魔法や竜退治の話より遊びの方が大事と言われるとは思わなかった。たぶん、「そんなこと気にしていないよ、今まで通り友達だよ」というカライなりの表現だったのかもしれない。
「アマル、まだ私と結婚してくれる?」
私はアマルに恐る恐る尋ねた、
「もちろん、だって竜退治だよ、伝説の英雄みたいにかっこいいよ。」
とヤラン兄さんに向けていた様なキラキラした目を向けてくる。いや、それ女の子への褒め言葉になってないから。でも嫌われなくて良かった。私は思わず立ち上がると、アマルのほっぺにキスをして、「好きだよ」と言った。我に返って周りを見ると、カライが真っ赤になっていた。
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