第21話 私達の狩り
それから一月ほどしてトスカさんから念話で連絡があった。あれからトスカさんとラトスさんは砂漠の近くに滞在して地竜退治を続けてくれていたらしい。
<< あの
<< 本当にありがとうございました。それで残った地竜はすべて退治できたんですか? >>
<< ああ、そのはずだよ。砂漠から脱出した地竜の居場所は地表が高温になっているのですぐに分かったしね。場所が分かれば、湖の水を瞬間移動でぶっかければ砂から這い出して来るからね、後はイルちゃんがやったのと同じ方法で湖まで引きずりこんだわけ。思ったより簡単だったよ。と言う訳で後はお願いね。>>
<< お願いって? >>
<< もちろん、遊牧民へのアナウンスだよ、北の砂漠が安全になったっていうね。せっかく地竜を退治したんだから、活用してもらわないと。>>
<< トスカさんからアナウンスしてくれないんですか? >>
<< あー、綺麗な娘さん達が僕を待ってるんでね、そっちはイルの方で頼むよ。それに僕達じゃ連絡する伝手が無いんだよ、その点は同じ遊牧民のイルちゃんの方が詳しいだろう。>>
言われてみればその通りだ。私にはどうすれば良いか分からないが、長老に相談したら何とかなるかも。
<< 分かりました、アナウンスの件は私の方でやってみます。ありがとうございました。ラトスさんにもよろしくお伝え下さい。>>
<< 了解。まあ、近い内にまた会うことになるだろうけど、それじゃあね。>>
トスカさんは最後に気になることを言って念話を切った。又会うことになる? 近い内に? なんで? すごく不安なんですけど...。
それから母さんと兄さんに相談して、もう一度北の砂漠の様子を見に行くことにした。地竜はすべて退治されたから安全と言うと母さんも許可してくれた。砂漠の上空に瞬間移動して周辺を見ると、トスカさんの言った通り砂漠は湖に覆われていた。ただ海水の注入はすでに止まっている。魔晶石に充填されていた魔力が切れたのだ。湖は徐々に小さくなりつつあり、水が引いた後には沢山の草が芽生えていた。これなら間違いなく放牧地として使えるだろう。早く北の同胞達に伝えてあげたい。私は希望に満ちて帰途に付いた。トスカさんとラトスさんが狩り残した地竜を1匹見つけたので、こっそり退治しておいたのは内緒だ。たぶんあれが最後の一匹だと思う。
居住地に戻るとすぐに、兄さんと共に長老に相談に行く。事情を聴いた長老は喜んで協力してくれることになった。長老に太陽神ギル様から「北の砂漠の脅威が除かれた」と神託があったことにして、他の部族に伝令を回すのだ。北の同胞達とは断絶状態だが、そこはやり方次第だ。まず南の部族に神託の話を伝え、噂に成った時点で北の部族の捕虜を解放する。そうすれば何もしなくても、解放された捕虜達が北の部族にこの神託を伝えてくれるだろう。後は北の部族の誰かが砂漠まで確認に行けば完了だ。現地に行けば神託が正しいことが一目瞭然だろうから。これにより、北の部族はもちろん助かるが、南の部族としても北から攻められる心配がなくなるのでメリットはある。さすがは長老である。
今日は久しぶりにアマルとカライと一緒に自分達の馬に乗って遠乗りに出かけた。地竜騒ぎのお蔭でなかなか出かけられなかったのだ。私の愛馬ラダルは長い間乗ってやらなかったからか、走るのが楽しくて仕方が無い様だ。アマルとカライの馬、シランとクーロも同様だ。3人でいつもより少し遠くまで駆けた。目的地は居住地の近くにある高台。ここからは周りが一望できる。到着すると馬を降り、水を飲みながら少し休んだ。ここからは放牧地で草を食んでいるヤギルが遠くに見える。この季節はさまざまな色の花が咲いていて、草原が色々な色に染まった様だ。少し目を移すと居住地とそこに点々と白い天幕が張られているのが見える。
「綺麗だね。」
とアマルが言う。
「うん」
と私が応じる。カライが「又、始まった」と言いたげな顔をする。ごめん、カライ。でもなんだか心が浮ついてしかたがない。
「鹿よ!」
とカライが小声で叫んだ。カライの指さす方を見ると小型の鹿が30メートルほど離れた場所で草を食んでいる。こちらに気付いていないのか、まったく警戒している様子が無い。チャンスだ。
私達は以前から考えていた作戦を実行することにした。まず、私とカライが鹿と反対の方向に静かに下がる。そっとだ、ここで気付かれたらおしまいだ。そして大きく遠回りをして鹿の後に回った。アマルが弓を構える。アマルの弓は私とカライが持っている子供用の弓より一回り大きい。練習の成果があって少し大きな弓が引ける様になったのだ。そうっと鹿に近づいた私とカライは同時に、
「ワァ〜〜〜〜」
と精一杯大きな声を出しながら鹿に向かって駆ける。驚いた鹿は、狙い通り私達と反対方向に駆けだした。鹿が向かった方向には、アマルが弓を引き絞って待ち構えている。ヒュッという音と共に矢が放たれ、見事に鹿の首に突き刺さった。更に2本目の矢が鹿の心臓を射抜くと、鹿はバタッと倒れた。途端に私達の歓声があたりを満たす。初めての大きな獲物だ!
「アマル! やったね!」
と言って私はアマルに抱き着いた。カライは傍であきれ顔だ。アマルは私が抱擁を解くと、仕留めた鹿の傍によりじっと見下ろした。しばらくして振り返ったアマルの目には涙が滲んでいる。嬉し泣きというやつだ。
「ありがとう。ふたりのお蔭だよ。」
と涙声で言う。3人で話し合い、鹿の肉は3人で山分けし、皮は仕留めたアマルに進呈することになった。だが、問題はこの鹿をどうやって居住地まで持って帰るかだ。私達の馬は仔馬だから、この鹿を乗せると人が乗れそうにない。ここで解体して持って帰るにも、解体用のナイフを持っていない。馬を2頭横に並べ鹿の足を2本ずつそれぞれの馬の鞍に縛りつけて運んで見るが、2頭の走る歩調が合わないと難しく、この状態で居住地まで走らせるのは難しそうだ。ここはちょっと遠すぎる、もっと居住地に近い場所なら運べたのにと考えてピンときた。そうだ、このふたりの前なら魔法が使える。私は亜空間から杖を取り出し、
「魔法で運ぶよ。」
と言う。ふたりはキョトンとしている。私は瞬間移動の魔法を使って、馬3頭と仕留めた鹿、それにアマルにカライに私の3人を居住地から2キロメートルくらいの地点まで転移させた。一瞬で景色が切り替わったから、アマルとカライは驚いて周りを見渡しているが、しばらくして、この場所が居住地近くの見覚えのある場所だと気付いて安心した様だ。
「ここからなら、さっきの様に2頭の間に鹿を吊るしてゆっくり行けば何とかならないかな。」
と私が言うとふたりも同意した。ここからなら、歩いても居住地まで30分もかからない。馬を走らせる必要が無いなら、なんとかなるだろう。
「それにしても、魔法って便利よね。」
とカライが言う。
「そうね。でも大っぴらに使うと王国に連れて行かれるからめったに使えないの、今日は特別よ。内緒にしてね。」
と私が言うと、ふたりは頷いてくれた。
居住地に入る時、今日の見張り役のランさんが私達の獲物を見て目を丸くして褒めてくれた。運ぶのには魔法を使ったけど、仕留めたのはアマルの実力だ。だから後ろ暗いことは無い。居住地の中に入ると私達は凱旋気分でアマルの天幕に向かう。アマルのお父さんに解体してもらって、私とカライは分け前の肉を貰って帰る予定だ。
アマルの天幕に着くと大騒ぎになった。家族全員が天幕から出てきて私達を褒めてくれた。アマルもお父さんに頭を撫でられながら嬉しそうだ。アマルが褒められると私まで嬉しくなる。アマルのお父さんが慣れた手付きで鹿を解体してくれ、分け前の肉を貰った私とカライは意気揚々と自分達の天幕に引き返す。今日の夕食は鹿肉のご馳走だ!
その日の夕食では、私の持って帰った鹿肉が振る舞われ、私は皆に褒められた。
「アマルの奴、6歳でこんな大物を仕留めるなんてすごいじゃないか。きっと良い狩人になるな。」
とヤラン兄さんが言うと、私まで誇らしくなる。私の未来の夫は立派な狩人なのだ。
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