第16話 魔導士の集い - 2

 ララ王女はそう言うと、亜空間からテーブルとイス、それにお茶のセットを取り出し、ポットに茶葉をいれて沸かしてあった湯を注ぐ。しばらくしてお茶がカップに注がれると良い香りが漂った。ララ王女に促されて椅子に座ると、さっきから影の薄かったラトスさんも席に付く。私もお茶請けにと母さんの焼いてくれたナンとチーズを取り出した。兄さんに言われていざと言うときの為の食糧として携帯しているのだ。


「よければ食べて下さい。」


と言ってララ王女とラトスさんの前差し出す。王宮暮らしに慣れているであろうふたりには遊牧民の食べ物なんて喉を通らないかもと心配したが、ふたりはしばらく観察した後ナンをちぎって口に入れた。


「なんとも素朴な味じゃが、不思議と美味いのお。」


とラトスさんが言う。当然だ母さんが焼いてくれたナンなのだ、不味いはずがない。


ナンは好評だったが、チーズはあまり手が付けられない。やはり遊牧民のチーズは王宮の物とは違って癖があるようだ。作り方の違いだろうか。


「そう言えば、ララ王女がラトスさんのことを東の魔導士と呼んでましたけど、ラトスさんは魔導士を引退されたんですよね。」


と私が疑問を口にすると、ラトスさんの代わりにララ王女が答える。


「その話は無しさ、私が現役なのにひとりだけ楽をしようなんて許さないさ。トワール王国の魔導士としては引退だけど、東の魔導士は続けてもらうよ。」


「まあ、そういう訳だ。」


とラトスさん。要するにララさんにダメと言われたということか。かわいそうに。


「それでイルよ、地竜退治には強力してもらえるのかのお。」


とラトスさんが不安そうに尋ねてくる。


「もちろん協力します。この前は断って申し訳ありませんでした。実は先日北の砂漠まで行って地竜をこの目で見て、これは放って置けないと痛感したところです。」


と言ってから、自分の体験をふたりに説明する。ふたりは目を合わせて頷き合っている。なんだろう?


「それは大変な体験をしたのお。それにしてもひとりで北の砂漠まで行くとは、家族が心配しなかったかの? 」


「兄さんには断りましたけど、母さんには黙って出かけました。でも朝出かけて昼過ぎには帰ってきましたからバレませんでした。」


「ちょっと待て、草原の南の居住地から北の砂漠まで半日ちょっとで往復したと言うのか???」


「はい、そうですけど?」


と言うと、ララ王女が突然大きな声で笑い始めた。


「ハッハッハ、ラトスよ、お手柄じゃぞ。よくぞこの子を見つけたものじゃ! まさに1000年にひとりの逸材かもしれん。」


「ララ王女様とラトスさんはどうして地竜を退治してくれるんですか。」


北の砂漠はトワール王国にも近いから、ラトスさんとしては故郷を守る為かもしれないが、ララ女王のハルマン王国は砂漠からずいぶん離れている。放って置いても影響を受けないかもしれないのだ。


「ララでよい。魔導士はある意味、人の枠を超えた存在だよ、身分なんて気にしなくて良いさ。」


それって、魔導士は人より上の存在という意味だろうか? 大切な家族や将来を約束したアマルがいる私としては賛同できないが、ここは話を合わせる。


「ララさんはどうして私達を助けてくれるんですか? 」


ララさんは一瞬ラトスさんの方に視線を向けてから、おもむろに答えた。


「まあ、話を聞いて信じるかどうかは勝手だけどね、昔、私とこのじじいは神様に頼まれたのさ、神様が留守の間この世界を守ってくれってね。その為に特別な力も頂いた。もっとも、神様はいつまで経っても帰って来ないけどね。いくら魔法で寿命を延ばすことが出来るといっても限度があるさ、帰ってきたらきっちり文句を言ってやるつもりだよ。」


「神様ですか? どんな方ですか? 」


「すごい美人じゃったよ、今もはっきりと覚えておる。スタイルも抜群での、今だにあれほどの女にはあったことは無いわい。」


「とまあ、じじいが鼻の下を伸ばすほどには美しい女神様だったさ。」


と言いながらララさんは蔑むようにラトスさんを見る。


女神様か、そういえば私も前世で女神様にお会いして魂のコントロールの方法を教えてもらった。名前はおろか顔すら思い出せないけど、この世界に神様がいることには確信がある。


「信じます。それでおふたりは魔導士になられたのですね。」


「そう、女神様から力を貰ってね。だけどイルちゃんと南の魔導士は違う。神様にあってもいないのに、人を超える力を持っている。これはすごい事なんだ。」


私はそんなに特別な存在だったのか? ぼんやりとした前世の記憶があるだけの普通の子供だと思っていたのに。魔法だって前世の記憶があるからちょっと魔力の使い方が上手いだけで、同程度の魔法が使える人なんて本当は結構いるんじゃないかと思っていた。

きっと皆魔力遮断結界で自分の魔力を隠しているだけだと。


「そんなの嫌です!!! 私は普通の子供がいいです! 」


気が付くと叫んでいた。なぜだか分からない。なんだか一族の皆と別れなければならない様な気がして不安になったのかもしれない。

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