第九話 依頼


 一度奥に引っ込んだアフネスが飲み物を持って戻ってきた。


「ヤス。時間は大丈夫かい?」


「あぁ別に遅れても問題ない。ギルドからは30分くらいはかかると言われたからな」


「わかった。これでも飲んで待っていてくれ」


「いいよ。あっ!アフネス。リーゼにやった短剣は、俺がリーゼにあげた物だからな。宝飾品も同じで料金は必要ないからな!」


「はいはい。わかった、わかった。無理に渡そうとはしない。その代わり、リーゼのことを頼むからね」


「わかっている」


「・・・。それなら・・・。いい・・・」


 アフネスはなにかを言い掛けて辞めた。ヤスにそこまでのことリーゼの事情を背負わせるのは間違っていると思ったのだ。


 ヤスもあえて何も聞かなかった。

 アフネスに問い返せば教えてくるとは思っていたのだが、聞いても何もしてやれない可能性がある。そんな事を聞いてもしょうがないと思ったのだ。それに、アフネスなら必要になれば教えてくれるだろうし話してくれると思っている。


 少しの沈黙の後・・・。アフネスは立ち上がって、奥に戻っていった。

 リーゼのアフネスを呼ぶ声が奥から聞こえた。


(それにしても、リーゼはなにか秘密があるのだろう。姫様だって事は確定だけど、この町からでた事がないとか・・・隠していたのだろう?それに、元締めがアフネスとなると、ロブアンもなにか別の役割があるのだろうな。そして、漁師の大半がエルフ族かハーフエルフだったのも気になった。リーゼの奴はそんな事言っていなかった。もしかしたらこの町に何か秘密があるのかもしれない)


 20分ほどしてからリーゼがアフネスと一緒に戻ってきた


「ほぉ・・・。馬子にも衣装とはよく言ったものだな」


 リーゼが着てきたのは普段着ではない。肩を出したドレスだ。確かに、場所で行くのなら不釣り合いだが、アーティファクトで移動して今日中に到着できるのなら別に問題は無いだろう。


(途中で着替えるような事があったらどうするのだろう?最悪は、FITの中で着替えさせればいいかな)


「”まごにもいしょう”?」


「あぁ気にするな。すごく綺麗で可愛いって意味だ」


 本当の意味を告げると怒られそうだと思ったヤスはとっさに誤魔化した。

 それが正解だったことは、リーゼの顔を見ればすぐに解る。


 ニコニコ顔で、照れているのが解る。


「さて、アフネス。それで?リーゼに案内させるのはいいが、領都ではどうしたらいい?リーゼを一人で歩かせるのは・・・。危険だよな。いろいろな意味で」


 ヤスは、チラリとまだ照れているリーゼを見る。

 素直に可愛いとは思う。後10年とは言わない。5年後ならどうなっているかわからない。でも今はまだヤスにとっては近所の可愛い女の子程度でしかない。

 ヤスは”そう近所の女の子と”思い込もうとしている。


「そうだね。ヤス。頼まれてくれるか?」


「それは、この前の食料と調味料を集めてくれると言った事への報酬という事でいいのか?」


「ん?あぁそうだな。ヤス。リーゼを領都でギルドまで連れて行って欲しい。その後は、ギルドに居る連絡員が対応してくれるはずだ」


「わかった。丁度、俺もギルドに行く用事があるから丁度いい。他には?」


「そうだな。領都から帰ってくるときも、リーゼを連れて帰ってきてくれ。リーゼが領都を見て回りたいといい出したら一緒に居てやってほしい」


「わかった。それは、領都をリーゼに案内させる事でいいのか?」


「いいが、リーゼは領都のことを知らないぞ?」


「俺よりは詳しいだろう?それに、リーゼならギルドに居る連絡員に聞く事もできるだろう。俺が聞いたら怪しすぎるからな」


「僕!ヤスを案内するよ!」


 照れから復活したリーゼが食いついてきた。


「お!リーゼ。頼むな」


「うん!でも、どこに行きたいの?」


「そもそも、領都に何があるのかわからないからな。行ってから考えるけど、食料や香辛料や調味料が欲しいかな。あとは、実際に武器や防具を見ておきたい」


「それなら市場に行けばいいよね?」


「市場ならギルドで場所を聞けば解る」


 アフネスが教えてくれたことにより、リーゼに市場を案内してもらう事が確定した。


「そうだ、アフネス。領都で1泊する事になると思うけど、おすすめの宿はあるか?」


「あ!それなら僕が泊まる予定だった場所でいいよね?」


 ヤスは、自分が言い出した事だが1泊で終わらない予感を持っていた。

 リーゼの用事を詳しく聞いていないのだ。手紙を届ける事になっているのは知っているのだが、返事を貰ってくる必要があるような場合には一日で終わるとは思えない。


「なぁアフネス。リーゼが本当にすべき予定は別にあるよな?」


 眉を少しだけ動かして冷静を取り戻すアフネスだが、ヤスが言った事は間違いではない。

 リーゼに持たせる手紙は、以前なら”領都”で問題はなかった。しかし、ヤスが神殿を攻略してしまった事実ができたために、”領都”に居る連絡員では判断ができない事象が起きてしまっている。そのために、王都に行って”エルフの里の連絡員”に連絡を付けなければならない。


 アフネスは最初ヤスに頼んでエルフの里までリーゼを運んでもらおうかと思ったのだが時期尚早だと判断した。

 ヤスならエルフの里までかなり早く到達できる。それだけではなくアーティファクトを見せれば神殿を攻略したという説明に真実味をもたせる事ができる。しかしエルフ族以外の者が里に入って”何もされない”可能性のほうが低い。それに、リーゼが一緒だと余計に気分を悪くしてしまう可能性が高い。今の状態でも実勢だけで考えれば連れて行くには十分なのだが、連れて行ったためにヤスが敵対してしまう可能性がある。アフネスはそれだけは避けなければならないと考えている。


「あるのだが、それは別の者の仕事だから大丈夫だ」


「返事を待たなくてもいいのか?」


「問題ない」


「それなら・・・。別に、いいかな。4-5日待つようなら自分で行った方が早いと思っていただけだし、それ以上待つようなら一旦帰ってこようと思っただけだからな」


 ヤスは手紙を出したら返事を貰ってくる物だと考えていた。アフネスは手紙が届かないことも考えているために返事を待つような事は考えていない。返事が必要な連絡事項なら連絡員が”エルフの里”に赴くことになる。そうなると、内容によっては3ヶ月や4ヶ月くらいは余裕でかかってしまうだろう。


「大丈夫だ。疲れもあるだろうから、領都での一泊は頼みたい」


「わかった」


 ヤスは出された物を飲み干して席から立ち上がった。


「ヤス。行くのか?」


「そろそろいい時間だろう?リーゼの準備も終わっている見たいだからな。そうだ!アフネス。途中で食べる飯とか用意できるか?リーゼなら持っていけるだろう?簡単に食べられる物でいいから頼めるか?」


「わかった用意しよう。ギルドの帰りに寄ってくれ」


「頼む。4食分・・・。いや、安全を見ると5食分あれば大丈夫だと思う」


「わかった、6食分用意する」


「いくらだ?」


「そうだな。飲み物込みで、銀貨1枚でどうだ?」


「わかった」


 ヤスはポケットから銀貨を取り出してアフネスに渡す。


「リーゼ!」


 ヤスの後に付いていこうとしたリーゼをアフネスが呼び止める。手伝わせるようだ。リーゼはヤスに助けを求めるような目線を送るが、ヤスは気が付かないフリをして宿を出てギルドに向かった。


「ドーリス。準備はどうだ?」


「はい。できています。書類はこれです」


 3通の封書を受け取る。封書には宛名と簡単な内容が書かれている。それと、重要度を示すマークが付けられていて、ヤスが見てもわからないのだがギルド職員が見れば解る様になっている。


 領都のギルドマスター宛てが二通。

 ヤスが持ってきた武器・防具・宝石類の買い取り依頼に関する事だ。鑑定だけなら、ユーラットのギルドでもできたのだが、値段を積み上げていくと支払いができない事が判明した。領都ではユーラットで買い取りを行う場合と違って、冒険者ギルドで一括になってしまう。武器や防具は問題ないのだが宝石や宝飾品は安くなってしまうので、ヤスと敵対したくないダーホスは、注意書きで冒険者ギルドのマスターに伝える事にしたのだ。商業ギルドを巻き込んで買い取りをして欲しい事を追記したのだ。

 もう一通は、冒険者ギルドから領主に渡してもらう”神殿”に関しての報告書だ。最重要のマークを押している事から問題なく領主に届くだろう。ヤスが神殿を攻略した事や手中におさめている事を綴った書類だ。それに合わせてヤスの人となりをダーホスなりに感じたことを書いてある。


 最後の一通は、武器と防具と宝石類の目録になっている。もちろん、ヤスが持ち帰る12組の防具と10種類の武器は外してある。

 武器がヤスの指定よりも多くなっているのは、ダーホスが甲乙つけがたいと思った物が多かったからだ。そして、ヤスが使わないと言えば、ダーホスが買い取ろうと考えていたのだ。


 ヤスは封書を受け取ってから、ダーホスが居るギルドの倉庫に向かった。

 倉庫では、武器と防具の最終確認が行われていた。


「ヤス殿」


「わるいな。こっちがダーホスがいいと認めたものか?」


「そうだ。俺が現役なら使いたいと思う物を選んでおいた」


「助かる」


 それでも全部で100点以上ある。ヤスはダーホスから説明を受けながら一点一点確認しながら収納していく。


「これで全部だ」


「あぁ」


「ヤス殿。すぐに向かうのか?」


「そのつもりだ。リーゼも待っているからな」


「わかった。これを持っていってくれ」


「これは?」


 ヤスは、ダーホスから書簡を受け取る。


「領都のギルドマスターへの紹介状だ」


「お。ありがとう。それじゃ行ってくる」


「頼む」


「依頼を受けたからな!」


 手を振りながら、倉庫を出て宿に向かう。

 宿ではすでに準備が終わったリーゼが表まで出てきて待っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る