第八話 お迎え
ヤスは、夜中にのどが渇いて起きてしまった。
(そうか、少し乾燥しているのだな)
枕元に置いたエミリアで時間を確認した。
「エミリア。飲み物を用意できるか?」
”了”
ローテーブルに水が入ったコップが用意される。
(これはこれで便利だけど、メイドさんとか、可愛い奥さんに用意してもらえたらもっといい・・・)
ヤスはくだらないことを考えながら用意された少しだけ冷たくなっている水を飲み干して、再度時間を確認してからベッドに潜り込んだ。
「エミリア。5時になったら起こしてくれ」
”了”
ヤスが布団に入る。
月が優しく神殿を照らしている。まだ起きる時間ではない。
ヤスは布団の中で二度寝という素晴らしい
しかし、遠足前の子供の様に楽しみすぎて寝られない
ユーラットでは、リーゼがすでに起き出して、ヤスが”いつ”来るのかと
アフネスが呆れていい加減にしないとヤスと一緒に行かせないと怒った。渋々だが自分の部屋に戻ってベッドに横になった。横になるだけで寝られるわけではない。ヤスが二度寝を楽しんでいる時にもリーゼは布団の中でモゾモゾしていた。
ヤスが裏門に現れるまでリーゼはワクワクした気持ちを抑える事ができなかった。
領都までの道は知っていた。実際には、ほぼ一本道で太い道を進めば到着できる。リーゼの道案内はほぼ必要ない。ヤスとしては、リーゼが道案内だということもだがこの世界の常識を知っているリーゼを必要としていたのだ。
リーゼは、初めてユーラットの町以外に行く事が楽しみでたまらないのだ。
それも、アーティファクトに乗って行くのだ。それを楽しみにするなと言う方が無理な相談かもしれない。
ウトウトしては起き出して窓から外を確認する。
そんなことをリーゼは朝日が登るまで繰り返していた。朝日が登ってもうすぐヤスが
ヤスはエミリアに5時ピッタリに起こされた。
いい加減な性格で大雑把な性格をしているヤスだが、目覚まし時計には従うのだ。
(さて、行くか!)
朝はどうするかと思って三階に降りると、セバスが食事を用意して待っていた。
「ご主人さま。マルス様にお聞きして、ご主人さまでも食べられる物を用意致しました」
「お。ありがとう」
セバスが用意した朝食はこちらの世界ではスタンダードな物だったが、ヤスには少し”味”の面で不満が残った。今後に期待する事にした。
「行ってくる。セバス。神殿やマルスのことを頼む」
「はい。ご主人さま」
セバスは地下一階まで着いてきて、ヤスがFITに乗って、駐車スペースから出ていくまで見送った。
それから小走りで最下層を目指すのだった。まだ分体が作る事ができるほどの魔力が貯まっていなかったのだが、マルスからヤスが夜中に起き出してしまったと連絡を受けて、様子を見に来たのだ。途中で湧き出していた魔物を数体倒して戦闘にも問題がないことを確認していた。
食事も、マルスから聞いたて味の概念がまだわからない事から眷属を呼び出して研究する必要があると考えている。
セバスは、最下層に着いてから魔力を温存する形態に戻った。
ヤスのために・・・。自分を眷属にしてくれたマスターの為に・・・。
そんな事になっているとは知らないヤスは今回も快調に跳ばしていた。
ユーラットの裏門が見えてきた。
いつもの位置にFITを停めて裏門から入る。宿にはよらずに、ギルドに顔を出す。
今日もドーリスが受付に座っていて、ヤスを見るとすぐにダーホスの所に通してくれた。
「ヤス殿!」
「悪い。早かったか?」
「いえ、大丈夫です。書類は準備できています」
「それで悪いけど、剣を2本と弓を1つと魔法発動媒体を3つと男性用の防具を3組と女性用の防具を3組ほど選んでほしいけどいいか?」
「構いませんがどうされるのですか?」
「なぁに、少しな。それは買い取りから外したい。頼めるか?」
「構いませんが、武器はいいのですが、防具はどういう組み合わせで?」
「組み合わせ?」
ダーホスは、息を大きく吐き出しながら防具の説明をヤスにした。
軽装なのか重装備なのかでだいぶ違ってくるうえに、パーティーの組み合わせでも違ってくると説明された。
「うーん。面倒だな。男女で軽装から重装備までいいものを6組選んでくれ」
「はぁ・・・。まぁいいですよ。剣はどうします?」
「そうだな・・・。ダーホスが、パーティーを組んだときに使いたい武器を選んでくれればいい」
「・・・。わかりました。私が欲しいと思えるような物を、先程の組み合わせで選べばいいですか?」
「あぁそれでいい。防具もその基準でいい」
「わかった。書類を修正する必要があるので、30分後にまた来てくれ」
「わかった。リーゼを呼びに行ってくる」
ヤスは、ギルドを出て宿屋に向かった。
宿屋では、リーゼが”裏門”の方を見てソワソワしていた。ヤスが後ろから近づいているのに気が付かないリーゼの後ろから声を掛ける事にした。
「リーゼ!」
びっくりして振り向いたリーゼの顔の前で軽く手を叩くヤス。猫騙しだったのだが、それが思いのほか成功してしまった。リーゼは驚いてよろけて転びそうになったので、慌ててヤスが手を伸ばして抱き寄せる格好になった。
「ヤス!ひどいよ!すぐに宿屋に来てよ!僕、朝から待っていたよ!」
腕の中に収まりながら文句を言うリーゼの頭を軽くなでながら。
「悪い。悪い。ダーホスに頼み事があってギルドに行っていた。30分くらいでギルドの準備も終わるけど、リーゼはその格好でいいのか?」
「ふぇ?」
可愛らしい反応だったが、自分の格好を思い出して赤くなりつつある。
リーザは、待ちきれないのと、ヤスがいつ来るのかわからないから、寝間着に近い格好で外に出ていたのだ。エルフ族の習慣なのか家や安心できる場所で寝るときの格好をしていたのだ。どんな格好だったのかは、リーゼの名誉の為に内緒にしておこう。リーザが今の格好を思い出して、それもヤスの腕の中に収まっている状況を考えれば、顔が赤くなって白くて綺麗な首筋まで赤くなってしまうのはしょうがない事だろう。
「リーゼ!!あっヤス。リーゼを迎えに?そのまま連れて行くかい?」
「俺としては構わないけど、流石にその格好じゃ領都についてもアーティファクトから降ろせないぞ?」
「私としては、そのまま神殿に連れて行ってもらっても構わないのだけどな」
「それは魅力的な話だけど、まだまだ若いな。あと10年後に頼むよ」
「わかった。わかった。リーゼ。ほら、いつまでもヤスに抱かれていないで、着替えて出かけられる格好になりな。そうだ、ヤス!朝ごはんは?」
「朝は神殿で食べてきた。飲み物だけもらえるか?」
「はいよ」
ヤスは少しだけ安堵した。
アフネスは首筋がまだ赤いリーゼを連れて奥に入っていく、ヤスは椅子に座って待っている事にした。
真面目な表情をしているが、考えている事はかなり失礼な事だった。
(リーゼの奴・・・。小さいながらもしっかりと弾力が有ったな。生意気にも雌の匂いをさせていたな。小さいながらも確かな感触もあったな。小さいながらも)
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