第27話 フィッティングルームとお勧めと

 お昼を食べ終わった私たちは、来てすぐに毬乃が見てくれていたランジェリーショップまで、ゆっくり向かう。

 お店に行ってからも首にメジャーをかけた優しそうな店員さんに毬乃が声をかけてくれた。


 店員さんに奥の方のフィッティングルームと言うカーテンで覆われたところに連れて行かれる。試着室とは違うのかな。

 毬乃も来るかと思ったら手をひらひらと振ってお見送りされた。

 急に一人になって私は不安になってしまう。

「怖くないわよ。胸のサイズを測るだけだから。お友達に見られても良かった?」

 顔に出ていたのか優しい笑顔で店員さんは話してくれる。

「いっ、一緒じゃなくて平気です」

 一緒にフィッティングルームに入ってカーテンを閉じた店員さんは首のメジャーを外して私を見る。

「お友達から、お客様が初めてブラジャーを買うって聞いたわ。できればきちんとサイズを計りたいから……ブラウスを脱げるかな?」

「ぬっ脱ぐんですか?」

「サイズを測る時はできるだけ素肌に近い方が良いの。裸は抵抗があるでしょうから下着の上から計らせて欲しいのだけれど」

 どうしよう、恥ずかしい。でもお母さんもサイズを計ってもらいなって言っていたし。

「…分かりました」

 私がブラウスを脱ぐと店員さんが受け取って丁寧にハンガーにかけてくれる。

「それじゃトップから計るからリラックスして真っ直ぐ立ってね。顔は正面を向いて。あっ、メジャーを通すから腕は横に伸ばして」

 店員さんの指示に従って手を横に広げて真っ直ぐ立つように気をつける。

「はい、腕は下ろして良いわ。貴方、姿勢が綺麗ね」

 背中を回してメジャーを一周させると店員さんが言ってくれたので手を下ろした。ずっと上げてなきゃいけなかったら手がぷるぷるして真っ直ぐ立ってられなかった。

「うあ…」

 メジャーが動いて胸をこすられて私の身体が動くと店員さんはクスっと笑う。

「おませさんね。トップバストは胸の一番高いところを計るから、くすぐったくても我慢してね」

 メジャーの位置が止まって私の横や背中を確認している。

「あらぁ。もっと早く来れば良かったのに。苦しくなかった?」

「ちょっと」

 きついかなと思っても体重が増えたかなーぐらいにしか思ってなかった。もっと太れってお母さんから言われていたし身長と比べても軽いから気にしてもいなかった。

「次はアンダーバストね。これは胸のふくらみのすぐ下を計るの」

 店員さんは何をするか説明してくれる。もしかしたら安心させるために話してくれているのかもしれない。

 メジャーがまた動かされて止まる。身体をするする動くメジャーがくすぐったい。

「ついでに計っちゃおうか」

 何を計るのか聞く前に店員さんは、私の腰のあたりとお尻にメジャーを動かした。

「ちーえー、まだー?」

 カーテンの向こうから毬乃の声。

「はーい、ちょっと待ってね」

 私の代わりに店員さんが答えて手書きのメモを渡してくれる。

「そのメモに貴方のサイズが書いてあるわ。そのサイズと同じ下着を選ぶと良いわ。多少の違いもあるから試着して確かめてね。それと、うちは上下おそろいで買うとお得よ。お疲れ様」

「あっ、ありがとうございました」

 フィッティングルームを出ようとする店員さんに私は頭を下げる。

「あと、うちでサイズを測ったからって無理に買わなくて良いからね。せっかく初めての買い物なんだから精一杯楽しんでちょうだい。その方が私も嬉しいわ」

 優しい笑顔で店員さんは手を振って外から見えないようにカーテンを動かして出て行った。

「サイズ分かったー?」

 入れ替わりに毬乃が顔を出した。ちゃんと気を使って外から見えないようにしてくれている。

「うん。メモもらったよ。毬乃が言ってたみたいに上下おそろいがいいって」

「じゃあさ。早く上着て見に行こう。ちえに似合いそうなの見つけといた」

 ブラウスを着て毬乃に連れて行かれたところにあったのは私にはヒモにしか見えない下着? だった。

「これ着れないよね。身体に結わくの? それ以前にこれが私に似合うって本気?」

「だめかー。んじゃ次行ってみよー」

 次のは後ろの壁がが透けて見えた。近くで店員さんが笑っているのが聞こえる。

「毬乃…私、本気で怒っていいの?」

 毬乃を見ないで透け透けを見ながら私は聞いた。

「ウソ、ウソです。もうふざけないから怒らないで。ちゃんと、ちえに似合うの見つけてあるから」

 後ろから両肩をつかんだ毬乃は、向きを変えて私を可愛い下着があるコーナーまで押していった。

「こちらです、ちえさま」

 変に緊張した毬乃が手にしているのはシンプルで飾りが無いのに可愛いパステルグリーンの上下だった。ちょっとだけ気になるのは、ショーツがおへそから何センチか下と言うこと。

「でも…可愛い…」

「でしょでしょ。わたしはちゃーんとちえのことわかってるんだから!」

 自慢げに毬乃は声を大きくする。最初からここに連れて来てくれればいいのに。

 他にも毬乃は候補を考えてくれていて、さっきの店員さんに教えてもらって試着してみた。

 それと初めてだからブラジャーの付け方も教えてくれた。胸の形の整え方はお母さんに教えてもらっていたから教え方が上手だと褒めてもらった。

 店員さんにカップの中に手を入れられた時にうちで毬乃がどうしてあんな風になったか、ちょっとだけ分かった気がしたのは内緒。

 毬乃のお勧めを試着して、お小遣いと相談しながら七セットを買った。お母さんは最低一週間分は買って来いって多めにお小遣いをくれていたので余裕を持って買い物ができた。残った分は、ちゃんとお母さんに返す予定。

 レジは、ずっと助けてくれた店員さんで、楽しんで買い物をしていたことを喜んでくれた。

「あら、透け透けは買わないの?」

 って聞かれて思わず店員さんの顔を見てしまった。もちろん冗談だったけれど毬乃が後ろで笑い出した。原因は毬乃なのに。

 店員さんにお見送りされてお店を出た私たちは、広場みたいになったところに行って一休み。

 ベンチに座ってアイスを食べた。選んでくれたから私が買ってあげるって言うと毬乃は一番大きいサイズのアイスを三種類で三段にした。私は中くらいのを一つ。

「そんなに食べてお腹こわさない?」

「だいじょぶ、だいじょぶー」

 お昼のお店で寒いって言ってた。今だって私のカーディガンを着たままなのに身体を冷やさないか心配。

「あーさむー」

 アイスを食べ終わった毬乃は、やっぱりそんなことを言いながら両手を組みながら身体をさすっている。

「まだ電車の時間大丈夫かなー」

 身体をさすりながら毬乃は帰りの時間を気にして聞いてくる。

 バスの時間を考えてもまだ余裕がある。

「時間は大丈夫だけど、どこか行きたいところでもあるの?」

「んー。ここは誰も知ってる人がいないじゃん。ちえと二人でいる時間がもう少し欲しいだけ」

 毬乃の言葉がうれしかった私は、ベンチから立ち上がって手を差し出す。

「時間ぎりぎりまで遊んじゃおう」

「おっけー」

 手をつないで私たちは広場から歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る