魔法少女ランちゃんがゆく!
@yuuuun229
第1話 運命とは
「あなた、不幸になりますよ。」
そう彼女は小さく、しかし、よく聞こえる低い声で、まっすぐ俺の目を捉え、ゆっくりと告げた。
「不幸になっちゃうとかど、どうしよう俺!
麻美ちゃん」
俺は、ドラマとかでよく聞くような言葉を聞いて、内心なんだか余計に冷めてしまっていた。
だけど、俺はそんな冷めている心の中とは裏腹に、ちょっと声を荒上げるようにして、わざと不安を大げさに強調させた。
駅のすぐ隣にある馴染むようにそびえ立つ商業施設の地下一階。
最近流行りの占い師がいるとかなんとかで、俺は麻美に無理やり連れてこられ、ここにいた。
実際に会った雑誌にも載った有名な占い師は、大学生くらいにしか見えない若い派手な見た目に分類される方で、長い明るい茶色の髪色の女で、なぜかピンク色を基調にしたレースがたくさんついたフリフリのゴスロリ服を着ていた。
これが、占い師?という思うくらい、よくテレビとかに出てくるような貫禄のあるおっせかいな感じがある女占い師達のような印象は全く感じなかった。
これ、絶対、顔とかだけで雑誌に載ったんじゃないの。
そう思うくらい若い占い師は、目鼻立ちがハッキリとして、整ったどこかの地下アイドルにでも、いてもおかしくない様な可愛らしい外見だった。
そんな彼女は俺達をみると丸く弧を描くようにして、6枚のカードを並べ、自分で引くのでなく左手前のカードを俺に引かせた。
タロットトカード占いというやつらしい。
俺が引いたカードは、可愛らしい羽の生えた妖精みたいな絵が描かれたカードだった。
「不幸になりますて、それはやばすぎぃ」
俺の隣に座る麻美は心配そうな声だけれども、どこか楽しそうな感じがするのは気のせいだろうか。
この占いスペースは3箇所に区切られていて、その一つがここ、行列の絶えない占い師ラン子の館ブースだ。
全体的にピンクとかヒラヒラのTHE・女の子な雰囲気のブースなのに、なぜか名前はすごく昭和っぽいし、ハッキリ言えば当たらないというか詐欺っぽさがある。
そんな占い師ラン子はそんな俺らを見て、不敵に笑う。
「大丈夫ですよ。ハル、あなたには私がいますから」
彼女が何気なく放った一言に俺は、背筋がピンと張る。
「…………なんで、なまえ、」
ジッと俺は、目の前に座る占い師を長く見つめた。
「そんな事より、まずはそうね。
このタロットカードは神の使いを表すのカード。この逆位置は、不幸の使い魔、悪魔の訪れを表しているの。
でもね、心配しないで」
俺のそんな態度は目に入らなかったようで、淡々と説明する彼女は座っている回る椅子をくるりと回し、俺達に背を向けた。
そして、何やらゴソゴソと後ろから小さなキラキラの装飾が付いたピンクの箱を取り出して、クルリとまた向き直し、その箱から青色のお守りを取り出した。
「はい、どうぞ、泉 春馬くん。」
ラン子はイタズラっ子がイタズラをしている時のようなニヤニヤと笑み浮かべ、ゆっくり、ハッキリ、正確に俺の名前を口にした。
泉 春馬 17歳。
この女の前で口にしたはずのない名前をなぜ、フルネームで知っているんだろうか。
不幸になるとかそんな事より、今のこの状況が意味不明すぎて怖かった。
差し出された手から仕方なく受け取ったお守りは、この近くの神社の学業成就のお守りだった。
不幸になる俺になぜ、これ?、意味不明すぎる。
「あの、これは?」
「お守りよ。あなたをとんでもなーい不幸から守ってくれるから肌身離さず持ち歩くのよ。そして、これが一番大事な事。
あなたにもし、不幸が訪れたら助けてって、このお守りに願うの。そうすれば、不幸から逃れるための逃げ道を授けてくれるわ。
これはひみつの特別サービスだからね」
と、ニコッと笑うラン子。
可愛いけど、もはや俺には不気味に感じる笑顔だった。
隣にいる麻美をどう思ってるのだろうかと伺って見れば、麻美はどこか感心した様子だった。
「良かったね、ハルっ。これで不幸から逃れられるんでしょ。
しかもお、すごっくない?ハルの名前まで当てちゃうなんてさ〜」
いや、もはや、俺は変な壺でも買わされたようなそんな気分なんだけど、麻美さん。
すっかり全て占いのおかげだと思い込んでしまっている。
「だなあらラン子さんまじリスペクト。ホント麻美に連れてきてもらって良かったかも」
俺は頭のネジが足りていない麻美のために、思った事と反対な言葉を口に出してしまった。
ホントならこの状況に、ため息でもつきたいし、何ならもう帰りたい。
6枚中5枚が白く間の模様の描かれた裏面のままで並べられた状態のタロットカードに自然と視線を落とす。
でも、本当になんで俺の名前を?
俺は冷静に考えを巡らし始めた。
このブースに入る前に聞こえたのか?
いや、このブースに入るには30分ほど並んだし、何なら対応しているお客さんもいるだろうし、なのに…なんでフルネームを?
占いって人の名前まで見えるのか、いやそんな事があるはずがない。
ハルだけならまだ、麻美が呼んでいるのを聞いたのかなとも思えた。しかし、泉 春馬と彼女はハッキリ名前を言っていた。
俺とは正反対に満足気なラン子は、可愛い笑みを浮かべたまま、こう言った。
「ハル、あなたは不幸から逃れられない運命よ。けど、このお守りに願う事で助けがくるから心配しないで。
今日はちなみに、料金はいらないからね」
そして小声で、これもひみつの特別サービスよっとふっくらとしたピンクの唇を魅力的に動かした。
「ええ、いいの! うれしいね〜」
当初の目的である相性占いはやってもらわずに、15分経ったのに麻美はなぜかそれで十分そうなので、俺もその言葉に一応頷いた。
「では、ご来店ありがとうございました。
つぎは相性占いでも占いに来てね〜」
本当にこれが占いなのか、俺は判断をつけることができないままだった。
そんな不思議な占いの館を後にして俺と麻美は駅へ向かう。
「ねえなんか凄かったけど、ほんとに、当たるのかな〜」
「当たりそうになったら守ってね、あさみん」
「ええ〜、それはあのお守りに念じてって、言ってたじゃんラン子ちゃん先生がさあ」
繋いだ手をわざとらしくブランブラン揺らす麻美は、可愛らしく俺はそんな何気ない行動に少し癒され自然と笑顔になる。
しかし、たった1枚引いたカードだけで、不幸が訪れるかなんて分かるのかよ。タロットカードて、そんな占いだっけ。
「そうだった。んー、ホントにそれも当たればいいけどね」
繋いだ手とは反対の手で、ポケットに入れたお守りを取り出す。
あの神社のお守りは買った事はないけど、普通のお守りに見えた。
これがまだ健康祈願とかならいいのにな。なんど、学業?
俺は解決しない疑問を残したまま、あの占い師の話を無かった事にしようとしていた。
「ふふ、めっずらしいじゃん。なんかハルがそんな不安そうな感じ〜」
きちょーうだとかうざったらしく伸ばしながら言い、麻美が笑う。
「あのね、俺だって……あ、」
俺は慌てて繋いでいた手を振りほどく。
高校が多い駅の改札はまだ人通りが多く、そんな改札の前にある柱にもたれかかるようにして立っていたのは、俺らの学校じゃ有名な男だった。
「……鷹良先輩、」
甘くいつも語尾が伸ばした調子になりがちな麻美らしくない、淡々とした声。
たしかに、あの占い師の言う通り、俺は淡々と不幸が訪れる可能性を大いに感じていた。
「何してんだよ、こんなとこで2人仲良く、なあ、泉」
「えっと、嫌だな。
たまたま帰り道で会っだだけですよ。
俺、麻美とは同じクラスですからね。あ、でも俺らって方向違うよね、線の。
......じゃあ、ここら辺で失礼しよっかな。またね、あさみん」
何でもないかのような調子で、ささっと背を向けて歩き出そうとした瞬間、俺は地面に蹴飛ばされていた。
そんな俺達を見て麻美がやめてっと高い声で叫ぶ。いきなりすぎてどうにかついた手が痛い。
起き上がろうとすると背中を押し潰される。重たさを感じつつどうにか見上げれば、鷹良先輩の取り巻きの1人が俺の上に座っていた。あーあ、こんな駅の改札の前じゃ、周りからも注目され、好機と心配が混ざった変な視線を感じる。
体重をかけられ、地面に着いた手や足、重くのしかかかった背中が痛い。
「どうする、鷹良、」
取り巻きAは、ニヤニヤしてこの状況を楽しんでいる。
麻美は俺とそんな鷹良の前に立ち、行って何やら必死に抗議というか説明をしている様子だった。
あーあ、麻美の言葉なんて信じるんじゃなかった。麻美とは高2から同じクラスだった。 一応、1年の頃から学年でも、トップ3に入ると噂されるくらい美人な容姿の麻美の事は知っていた。
同じクラスになると、自然と仲良くなった。だけど当時から、麻美には俺らの2個上のドン的な存在だった鷹良と付き合っていたのも、有名だった。
そんな喧嘩っ早いと有名なボクシング部の鷹良と別れたという事で、デートに誘われ、俺は、来るもの拒まずの精神でなんの抵抗も、疑いもせず受け入れてしまった。
「おい、離してやれよ」
そう言いながら相変わらずガタイの良い鷹良が、立ちはだかっていた麻美を無視し、近づいてくる。
取り巻きの重みがなくなり、俺もゆっくりと体の痛みを感じつつ、立ち上がる。
「いやあ、久しぶりなのになかなかパンチのあるご挨拶っすねほんとに」
首元を持たれ、グイッと強い馬鹿力で近づけられた顔。鷹良とは身長も同じくらいなのですごく近くなる感じがする。
「調子乗ってんなよ、泉」
元々目がキリッとしていて細い、鷹良の目がもっと細くなる。
「だぁいじょーぶ、大丈夫っすよ、センパイ。
俺、奪うより、愛されたいタイプなんで。人のモノには、まーったく興味ありませんから」
ニッと笑う。強がりでもなんでもなく、それは事実で、そんなこと言っても通じなさそうだったが、一応、俺は冗談みたいに本心を伝えてみる。
視線と視線が嫌でもぶつかる。
捕まれていた首元を思いっきり離されたと思った瞬間、頬に強い痛みが走る。どうにか倒れる事なく、柱にしがみつくようにして体勢を整える。
その時、こっちですと知らない人の声とともに駅員らしき人達が走ってくるのが視線の端に映った。
「次はないからな泉。行くぞっ」
痛みに駆られつつ、俺は連れて行かれる麻美と逃げるよに去っていく鷹良達を見つめる。
俺は大きくため息を吐く。
「君、大丈夫か」
近づいてくる声に、俺は精一杯痛みをこらえがむしゃらに走り出す。
警察沙汰になるなんて、面倒なことこの上ない。追いかけてくる足跡を感じつつ、俺は懸命に走り、先ほどまでいた商業施設の駐車場に腰を下ろした。
息が切れ、痛みを感じる頬をケータイのカメラ機能を使って見れば、赤く腫れている。
うわ、俺、不良少年みたいだな。腕にもいくつか擦り傷ができている。あの、ボクシング野郎、大学生にもなって鍛えた体してたからな。
......ホントに不幸が、っと思った時だった、目の前に人影ができているのに気づき目線をあげる。
「あ、……」
唇が切れていて、血の味がした。
「ねえ、なんで呼ばないの。あなたバカなのハル」
そこには、ピンクのフリフリの格好のままの占い師のラン子が立っていた。
「ケガしちゃったのね、やっぱり」
しゃがみこみ、俺の頬を優しく触るラン子は先ほどまでとは少し雰囲気が違う感じがして、俺は不覚にも緊張してしまった。
「ラン子ちゃんの言うとおり、俺、不幸になっちゃったね」
俺は力なく笑う。意味もなく疑って悪かったかもしれない。彼女は本当によく当たる占い師だったのかもしれない、なんてこんな状況では、らしくない事を思ってしまう。
「当たり前でしょ、私、占い師だもん。それより、ケガどうにかしなきゃ。来て」
俺はこの日まで、占いや幽霊とか運命とかほんな裏付けのないものなんて信じてなかった。
だけど、この出会いだけは運命だったのかもしれない、そう思うような出会いになるとは、この時の俺は知らなかったし、そんな事微塵も感じていなかった。
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