第28話 もう一人の守護者
痛みに目を覚ます。ここはどこだろう。
どうやらベッドに寝かされているようだ。
体のいたるところが包帯で覆われていた。
「ようやく気がついたか、死ななくて何よりだ」
声がする方を見ると、フィリアが座っていた。
起き上がろうとすると彼女に止められる。
「まだ寝ていたまえ。傷が酷い。治るまでは安静にすることだね」
珍しく優しい言葉をかけてくれる彼女。
「ここはどこだ?」
あの後どうなったのだろう。
彼女に抱えられたところまでは覚えている。
「ここはハジの町のギルドの一室さ。アリアに治療してもらうために、怪我で動けない君をここまで連れてきたのさ」
いつの間にかハジの町まで戻ってきたようだ。
ドアがノックされ、アリアが中にはいってきた。
「気がついたようね。良かった、ここへ運ばれてきたときはどうなるかと思ったけど。魔法が効いたみたいね」
こちらを見ると、嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「ありがとうアリア、君のおかげで彼は死なずに済みそうだ」
そうだったのか。だったら俺もお礼を言わなければ。
「アリアさん、ありがとうございます」
頭を下げようとしたのだが、思うように動かせない。相当重傷みたいだ。
「気がついて早速で悪いが、話を聞かせてもらおうか。まさかあんな雑魚にやられたわけじゃないだろう?」
俺は彼女に洞窟での出来事を説明した。
「外の三人を呼びに行こうとしたときに、ダルクスってやつが現れてそいつにやられたんだ。まるで刃が立たなかったよ」
ダルクスという名前を聞いたフィリアの顔が険しくなる。
「ダルクス、そいつは本当にそう名乗ったのかい?」
彼女だけでなく、アリアも驚いているようだった。
「間違いない、俺の先輩だとかなんか変なことを言っていたな」
フィリアの表情が暗くなる。アリアもなにか知っているようだった。
「フィリア、ダルクスって・・・」
何か言いかけたアリアをフィリアが手で制止する。
「そうか、あいつが生きていたとはね。僕の失態だな」
生きていた?どういうことだろう。
「フィリア、何か知っているなら教えてくれ。あいつはいったい何者なんだ?」
だが返答はない。しばらくの間沈黙が続く。
「あまり過去のことを話すのは好きじゃないんだけどね。あいつが生きているなら、君には話しておかなければならないだろうね」
決心したのか、フィリアが話を聞かせてくれた。
「ダルクスというのは君の前の僕の守護者さ。以前僕が殺したはずだったんだが、どうやら生き延びていたようだね」
前の守護者・・・。
『久々だったからうまくいくか心配だったけど』以前彼女がそう言っていたことを思い出す。
「殺したはずって、何があったんだ?」
守護者を殺そうとするなんて過去にどんなことがあったというのか。
「昔僕とアリア、そしてそのダルクスの3人でパーティーを組んでいた。3人ともドラゴン級だったし、当時は英雄と呼ばれるような活躍を何度もしたよ。だけど、そんななかダルクスの奴がおかしくなってね。行き過ぎた暴力を振るうようになって、ついには依頼とは全く関係ない一般人を殺してしまったのさ」
その先についてはアリアが話してくれた。
「私とフィリアは彼に改心するように呼び掛けたのだけど、彼は聞く耳を持たなかった。とうとうギルドから危険人物認定されて、彼を殺すように依頼があった。それで私とフィリアが協力して彼を殺したの」
そんなことがあったのか。道理で俺が勝てないわけだ。
守護者としての経験も冒険者としての経験も彼のほうが上なのだから敵うわけがない。
「あいつが生きていると分かった以上、僕を狙っているのもあいつで間違いないだろうね。アリア、ギルドの本部に報告を入れてくれないかい?あいつは責任をもって僕が殺すとね。ほかの冒険者は絶対に手を出さないようにしてくれ」
わかったわと告げてアリアは部屋を出ていく。
守護者の俺が全力で挑んでこのざまなのだ。冒険者など相手にならないだろう。
「というわけで、僕はあいつを探しに行くけど君は傷を治すことに専念するんだね。まぁ君なら2日も寝れば全快さ」
立ち上がり部屋を出ていこうとするフィリア。
慌てて彼女を呼び止める。
「ちょっと待ってくれよ。まさか一人で行く気か」
ドアノブに手をかけたまま彼女はこちらを振り向かない。
「あいつが生きているのは僕の責任だ。君が無理をする必要はないさ。ここで大人しく他の依頼を受けるんだね」
どうやら本気で一人で行くつもりらしい。
そんなこと許せるわけがなかった。
「フィリア、昨日の宿での話覚えてるよな?俺はどこまでもお前について行くって言ったはずだ。それとも俺と一緒にいるのは嫌になったのか?」
彼女がこちらを振り向く。
見たことがない、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「君は僕のせいで2度も死にかけたんだぞ?それでもまだ僕について来るっていうのかい」
ボロボロの体を無理矢理起こす。
全身が悲鳴を上げていたが、今はそれどころではない。
「俺が村で死にかけたのは奴らのせいだ。俺が今回死にかけたのは俺が弱かったからだ。フィリアは2回も俺の命を救ってくれたんだよ!」
このまま彼女を行かせてはいけない。
一生会えないような、そんな予感がしたからだ。
「君は今度こそ本当に死んでしまうかもしれない。それでも君はまだついてくるつもりかい?」
聞かれるまでもない。俺の答えはすでに決まっている。
「当たり前だ。俺はお前の守護者だぞ。もっと強くなって、今度はあいつにだって勝ってみせる」
フィリアはそんな俺を見て口元をおさえてクスクスと笑い出した。何か変なことでもいっただろうか?
「主人に助けられたくせに俺は守護者だ!とはね。分かったよ、僕の負けだ。一緒に来てもらおうか。君からは借金もまだ返してもらってないからね」
ようやく説得できたのか、フィリアは戻ってきて椅子に座った。
いつもの彼女に戻ったようだ。さきほどまでの暗い雰囲気は無くなっていた。
「しかしまぁ君も物好きだね。大抵の人間は僕からは逃げていくというのに、そんなに僕のことが好きなのかい?」
茶化すようにして顔をのぞき込んでくるフィリア。
そう言えば、どうして俺はここまでムキになっているのだろう。
以前ならば、さっさと諦めていたはずだが。
少しだけ悩んですぐにその答えは出た。
何て事はない、ただ単に彼女のことが好きなのだ。
不器用だけど優しいフィリア。知らない内に彼女に惚れてしまったらしい。
自覚してしまうと急に恥ずかしくなってきた。
恐らく顔は赤くなっているだろうが、包帯のおかげで彼女は気づいていないようだ。
「まぁ今はゆっくり休むと良い。僕は君が寝ている間に、情報を集めておくよ」
返事を待つのに飽きたのだろう部屋を出ていってしまった。
「早く治んないかなぁ」
目を閉じ眠りにつく。早く傷を治して奴を追わなければ。
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