6 真実と裏切り

冷たい風が、ひゅぅっと吹き抜ける。


「あ、あの・・・」


千里は目をキョロキョロさせながら言った。


「これ・・・」


チョコレートを差し出す千里。修也は、そのチョコを無表情に見た。


「・・・千里、だっけ。」


「あ・・・はい。」


千里は目をキラキラさせながら修也を見る。


「お前・・・今日の弁当の時間、優花とかって奴等に、知奈のこと言ってただろ。」


「えぇ?」


びくっとしたように震え、それでも尚平静な千里。


「それで、優花に『あんなブスが恋実る訳ないよねー』『優花、告っちゃいなよ!』とか、そそのかしてたよな。」


「え・・・え・・・?」


キョトキョトとする千里。落ち着きが無い。


修也は言葉を続ける。


「それなのに、優花の悪い噂を流して――俺は聞いてたぜ。お前の魂胆、バレバレだ。」


「・・・」


千里は無言になった。顔は、青ざめている。


「・・・・・・そうまでして、俺に想って欲しいか?」


千里は尚も無言だ。


「友達を裏切って・・・傷つけて・・・俺に想って欲しいか?」


「そうよ!」


急に、千里が叫んだ。


「あたしは・・・あんたのことが好き。とっても。


 それなのに、誰もあたしの気持ちに気付かないで、ぬけぬけと『修也が好き』なんて言って・・・


 大体、あたしは優花も知奈も嫌いなの。だから、傷つけてやろうと思ったのよ・・・」


千里は、恐ろしい笑顔を見せた。


「もう少しで、全て上手くいくのよ。そう、あんたがあたしのことを好きになれば。


 知ってると思うけど、あたしは令嬢よ。あの竜産グループの。


 今ここであたしの事を好きになったら、あんたのことを婚約者候補として紹介してあげ」


パン、と音がはじけた。修也が、千里を叩いた音だった。


その音と同時に、知奈はバッと物陰から身を出した。


知奈の目には、涙が滲んでいた。裏切られていたことを、ハッキリと悟った瞬間に流した涙だった。


「・・・知奈。」



「・・・千里・・・・・・」


知奈は、涙を流しながらも千里の名を呼んだ。


なかなか一言が言い出せず、しんとした空気が張り詰めた。


「・・・何よ。」


千里の鋭い声は、知奈の知っている千里のそれでは無かった。


「何よっ、何か言いたいことあるわけ?さっさと言いなさいよ!」


やっぱり、言えないよ、こんなこと――諦めかけたその時、ふいに声が聞こえた気がした。


『頑張って!』



「・・・千里、それは、愛じゃないよ。」


千里は、知奈を睨みつける。


「それは・・・執着だよ。」


千里は何も言わない。


「そんな・・・そんなことの為に、人の心を傷つけるなんて・・・」


再び、知奈は涙を流す。



静かな裏庭。


男と女と女の三角形の中に、もう一度冷たい風が吹いた。

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