stage36.相愛
「どうしたの久遠……?」
そんな有夢留の手を優しく取って、口を開く
「俺とお前なんかちっとも似ていない……! 俺は自分より不幸なお前を見つけたことで、お前に優しくするふりをして自分の過去の傷を慰めていたんだ……!」
これに有夢留はゆっくりと首を横に振った。
「久遠……! 違うよ久遠! そんなんじゃない! 久遠は優しいよ本当に! ウソでここまで傷付いてる僕を簡単に癒せやしない! 僕はいっぱい久遠に癒されたんだ! だからお願い久遠、もう泣かないで……!」
「アム……」
久遠は有夢留の手を握ったまま、潤んだ瞳で彼を見つめる。
「ねぇ久遠。僕にも夢があるんだよ。それは天使になりたいことなんだ。天使ってすごく優しいでしょ? 僕ね、自分と同じように苦しんでいる子供や大人や動物とかを、その優しさで助けていきたいって思ってるんだ。だから久遠も僕が助けてあげるから……だから泣かないで」
「アム……」
「いっそ僕、久遠だけの天使になるよ……!!」
有夢留は泣き出しそうな微笑を浮かべて言った。
これに久遠は冷静になって言い返した。
「天使なんかならなくていい。お前はずっとアムとして生きろ」
「?」
キョトンとする有夢留。
「もう死ぬことなんて考えるな。俺がお前を守ってやるから」
これにクスッと小さく有夢留は笑う。
「ヤダなぁ何言ってんの久遠」
「……あ?」
「僕、別に天使に生まれ変わりたいなんて言ってないよ。天使みたいに生きる意味でそう言ったんだよ」
有夢留の言葉に、久遠は目を瞬かせると、プイッとそっぽ向いた。
「……フ、フン! 紛らわしい! お前もう少し表現力身につけろ!」
ペン! っと握っていた有夢留の手を振り払う。
「アハハ! じゃあ久遠教えてよ。医者の勉強してるでしょ」
「じゃあ学校に通え。どうせ通っていないんだろう」
「……うん! だったら僕も医者を目指すよ! そして久遠、一緒に働こう!」
「じゃあ俺が一時的なお前の保護者になろう。だから帰ったら、お前の父が犯した罪を警察に知らせよう。そうしたら逮捕されてお前の周囲もしばらく騒がしくなるが大丈夫だな?」
「うん。そうしたらずっと久遠と一緒にいられるね♡」
「アホ! いつかはお前も自立して頑張らねばならないんだ! 俺もいつまでも男と一緒に住む気はない」
「でもそれまでは一緒だよね?」
「フン。だからと言ってお互いの心の傷を舐めあう気はないからな」
「じゃあ今だけ」
有夢留は言うと、膝でピョコンとベッドの上で体を弾ませる。
「何がだ!」
「僕は久遠のこと大好きだよ」
そう言った有夢留は、艶然に微笑みかけてきた。
「バ! バカモノ! 俺は男を相手にする趣味はない!」
思いがけない展開に、久遠は少しだけ頬を赤らめると、顔を背ける。
「今だけだよ! 僕だって今まで男の人に犯されてきたけど、普通に女の子を好きになれる心は忘れてないよ。ただ問題は……子孫繁栄出来ないことだけど」
「? どういう意味だ」
「さっき全裸を見せた時、気付かなかった? 僕の股間」
「……普通全裸を見たからと言って股間を凝視したりはしないだろう」
「そうだよね。うん、僕ね。物心ついた時に睾丸ごと性器、パパから取られちゃってるんだ」
「何だと……!?」
久遠は驚愕の表情を見せる。
「でも大丈夫! 男だって意思は自分の中に残してあるから!」
有夢留は言うと、力拳を握る素振りを見せる。
「それよりも久遠、今じゃないと久遠のことだから多分もう素直になってくれないでしょ?」
「それよりもってお前……う、む、ま、まぁな……」
久遠は有夢留の話題の切り替えに付いて行けず、戸惑う。
「久遠……好きだよ」
真顔で言ってきた有夢留の言葉に、久遠は溜め息を吐いた。
「俺も人としてお前のことは嫌いじゃない。だが勘違いするな! 俺は断じて……!!」
「分かってるよしつこいなぁ!」
言うと有夢留は久遠の胸元をドンと叩いた。
「うっ!」
「今だけでいいから。もう二度と言ったりしないから。――キスして」
「なっ!」
「それ以上求めないってば! もう! いーじゃんキスの一つや二つくらい! こんなの親子だってしてるよ! 何こだわってるのさバカじゃないの!?」
「ぐっっ! 言わせておけばこのクソガキ! 別にたかがキス如きでこだわってはいない! 見ろ!!」
売り文句に買い文句で咄嗟に久遠は、グイと有夢留の胸倉を掴んで引き寄せると、久遠はその口唇に素早くキスをした。
「フン! どうだクソガキ!!」
「……僕を離さないでね久遠……」
突然大人っぽくなる有夢留に、思わず我を忘れて見惚れる久遠。
「……好きだ……アム」
久遠は改めて、優しく有夢留にキスをするのだった。
まるで求め合うように、互いに、何度も、何度も……。
「僕は生まれ変わっても久遠に逢いに行くから、その時は必ず僕を受け止めてね……!」
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