stage34.慙愧




 動物園には、併合して遊園地も隣接されていた。


「やーっぱ、ここは行かなきゃ、でしょ!」


「……俺は乗り物が苦手だ」


 足取り軽く弾ませて、少し遠くに見える遊具を指差し響咲久遠きょうさくくおんに顔を向ける滝沢有夢留たきざわあむるの言葉に、ボソリと彼は口にした。


「えーっ! 久遠は乗り物に乗ったことあるの?」


「いや、ないが……」


「じゃあじゃあ乗ってみようよ! 乗ってみないと苦手か面白いか判んないじゃん!」


「まぁ……それは一理あるが……」


「よっし! じゃあ決まり! さぁ、行こ行こ♪」


 有夢留はガッツポーズをすると、足取りの重い久遠の腕を引っ張った。




「ぅわああああぁぁぁぁぁーっ!!」


「――!!」


 絶叫する有夢留の隣で、久遠は言葉を失っていた。

 只今この二人が乗っているのはジェットコースター。

 絶叫を上げていた有夢留だったが、それは決して恐怖から来るものではない。

 楽しさMAXから来る叫びだった。


「面白いねー久遠! ほら、手放し!!」


 有夢留は満面の笑顔で、レール音に負けないくらいの声で言うと、バーから手を放して見せる。


「……!!」

 

 しかし久遠は何も答えずにがっちりとバーを強く掴み、下を向いている。


「どうしたの久遠? あ、次回転来るよ! ――ヒャーッホォォーウゥ!!」


「――!!」


「次はねじれレールだ! ぅわっはー!!」


 そしてコースターの後半まで来た。


「あ、もうすぐ係員が言ってたカメラがあるよ! ねーねー久遠! 一緒にピースしよう!」


 こうして有夢留はカメラの前で両手ピースのポーズを撮って見せた。

 コースターはやがてスピードを落としていくと、乗り降り場で停止した。


「あー、最っ高に面白かった! また後で乗ろう久遠!」


 有夢留はコースターから降りながら言った。


「……」


 久遠は冴えない表情で少しよろめきながら、コースターから降りる。


「そんじゃ、写真取りに行こう!」


 久遠の様子もお構いなしに、有夢留は足取り軽く、写真を撮りに行った。



「おぉー、バッチリ僕のピースポーズが写っている! ……――ちょっと久遠、顔写ってないじゃん」


「……」


「あれ? どうしたの久遠。元気ないね」


「……俺はいつもこんなだ」


 久遠は虚勢を張ることしかできなかった。


「次、あの車みたいなのに乗ろう!」


「……ゴーカートか。いいぞ」


「僕が運転していい?」


「ああ」


 少なくともコースターよりマシだと久遠は思った。

 こうして今度は、ゴーカートに乗った。

 思いの他コントロールが上手い有夢留は、嬉しそうに口を開く。


「これなら僕、将来簡単に車の免許取れそうだね」


「まぁ、まだ4年後の話だけどな」


「4年後かー。先が長いなぁ」


「今はこいつで我慢しろ」


 そうこうしながら遊園地を満喫(特に有夢留が)していると、チラチラとすれ違う人達がこちらを見てくるのに気付く。

 それらに耳を澄ましてみると。


「ねーねー、あの女の子、すごく可愛くない?」


「二人ともハーフかな?」


 どうやら憧憬の眼差しだと分かる。


「……僕、女の子に間違われちゃってる」


 言いながら有夢留は苦笑する。


「スカートでも穿いて来れば良かったな」


「!? っもう! 久遠のイジワル!!」


 久遠の言葉に、有夢留は軽く彼の腕を叩いた。


「そろそろ帰るか」


「え? じゃあ最後にもう一回ジェットコースターに……」


「乗らん!!」


 珍しく強い口調で拒否してきた久遠に、少し驚いてから有夢留はようやく気付く。


「へぇ~、久遠、コースター怖かったんだ!?」


「な……っ、べ、別に……!」


「クスクス。すっごく動揺してるし! バレバレ」


「うっ、うるさい!」


 有夢留にからかわれて、久遠はプイと顔を背けた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る