stage17.電話
「今のあたしは異常なまで性欲に満ちてるの。こうなったら久遠お兄ちゃんでもいいわ」
そう言いながら
「悪いが私は子供には興味はないし、そういう下品な子も嫌いでね」
「ふっざけんな! そうやって気取ったってどうせ男なんて、性の誘惑に弱いくせに! 下品なのは男の方よ!!」
「君の兄はもうこの寮にはいない」
「!? 何で!?」
「君を探す為に大学を辞めたんだ」
「……そんな……お兄ちゃんに会わせてよ! お兄ちゃん、あんなに医者になりたがってたのよ!」
「君はさっき私が、彼が苦しく辛い思いをしていると言った時、自分の体で慰めると言ったな。そんな君に、彼はショックを受けるんじゃないか?」
「そんなの逢ってみなきゃ分かんないでしょ!?」
麻衣未の言葉に、久遠は溜め息を吐くと頷いた。
「……いいだろう。私が早川と会わせる手引きをしよう。だが後は責任持たん。しかし予想はつくだろう? 今の状況を説明すれば、早川は間違いなく君を裏社会から助け出そうとする。それはつまり、君の兄の命を危険に晒すという事だ。そこを考えて慎重に行動する事だな」
「いいわ。じゃあ、いつにしてくれるの?」
「……ちなみに君は
「ええ。うちのリーダーの一人よ。どうして久遠お兄ちゃんが知ってるの?」
「彼は君の兄と私が通っている大学の教授兼医者だ。私も滝沢が裏の住人であることをつい最近、奴の息子から内密に聞かされてね」
「
「ああ。あの子が君の事を私に知らせてくれてね。君の事を心配しての事の様だ。だから実は私は状況を知っていたが、君の気持ちも汲んで君に判断を任せようと敢えて、行動せずに様子を窺っていた。しかしこうやって君の方から来てくれた」
「そうだったの……」
「よって私は早川と連絡がつき次第、個人授業を理由に滝沢の家に行くから、その時に有夢留に君と早川が落ち合う日を伝える。君はそれまで待機していなさい」
「分かった。じゃあ待ってるから」
麻衣未はそう言い残すと、その場から立ち去った。
翌日、久遠は予定していた午前中の授業を取りやめて、スタンガンと護身用ナイフを調達すると、
「早川。お前の妹の手がかりを掴んだぞ」
“本当か!? 教えてくれ!!”
「だったら明日、例の公園へ午前10時に来い。そこでしか教えられない」
“わ、分かった! 必ず行く!!”
「早川」
“何だ?”
「分かったならもう今日はゆっくりしていろ。無理をするな」
“……ああ……ありがとう響咲……お前にまで協力させて悪ぃ……”
「俺の事は気にするなと言った筈だ。明日はお前一人だけで来いよ。両親にはまだ知らせるな。この件はお前だけにしか言えないことだ」
“ああ。分かった”
友樹の返事を確認してから、久遠は通話を終了すると側にあった公衆電話BOXに入った。
そしてポケットから少ししわくちゃになった、メモ用紙を取り出して広げると、そこに記してある番号通り、ボタンを押していく。
公衆電話から呼び出し音がしばらく鳴った後、聞き覚えのある声が電話に出た。
“もしもし”
「……滝沢教授ですか? 響咲です」
“おや、君かね! 今日は大学で姿を見なかったが……”
「ええ、明日からウィンターヴァケーションに入るので、もう勝手ながら今日から休んだんですよ」
“ハハ、そうだな。君は勉強熱心なのもいいが、たまには息抜きも必要だ”
「ええ。そのつもりで休んでみたのですが、やはり私にはのんびりした時間の過ごし方が合わないのか、退屈でしてね。もし教授の都合さえ良ければ今日、2~3時間ほどあなたのお宅に伺ってご指導でもと思い、電話したのですが……」
“ああ! そうかね! では今日の4時に大学で待ち合わせよう。生物の神秘についてでもゆっくりうちで食事しながら語り合おうじゃないか!”
「それはいいですね。では私はとびきり美味しい牛肉と赤ワインを持参しますよ。教授はワイン、お好きですか?」
“うむ。私はある程度のアルコールは何でもイケる口だからね”
「それは良かった。肉料理には赤ワインが良く合いますからね」
“ああ。楽しみにしてるよ。では4時に”
「はい。では失礼します」
公衆の受話器をそっと静かに下ろすと、ふと軽く息を吐いて呟いた。
「……さて……いよいよか」
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