第2話 雪がたり

傷ついた心を抱えながら

深い海の底に

音もなく沈んでいく


凍えるような暗闇

光を受けて煌めく水面は

遥かに遠く

手を伸ばしても

空しく冷たい水を掴むだけ


天上の世界の幸せな記憶

優しい時間への追憶が

喪失とともに甦り

枯れた涙がまた零れる

 

海へと溶けていく涙

張り裂けそうな心の痛みー慟哭

叫びすら波に溶け

誰の耳にも届くことはなく


悲哀と絶望で黒く塗りつぶされそうな

わたしの瞳に 一片の白

天から降り注ぐマリンスノー


幾千幾万の生命の亡骸が

凱旋の様に海底へと積もっていく

天上に勝るとも劣らない

静かで荘厳な海の美しい景色


暗闇の水底に揺蕩い

雪たちに埋もれながら

傷を癒すために眠りに尽く


喪失の痛みは消えないけれど

あの一片の白のように

命を燃やし

いつか母なる海に

誇らしく還ることができるように

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