第8話 気持ちのいい朝じゃない朝もある

「やっぱり多少無理してでも3人で寝るべきだったわね……」

「同感だ。デネブと同じベッドに寝ることがあれほど辛いことだったなんて……」

「ご主人様、顔色が悪いでしゅ!デネブもでしゅ!もしかして、『今夜は寝かせないぜ☆』というやつでしゅか?」

「そんなわけあるか。見た目は幼女なのにそういうことは知ってるんだな」

「これでも軽くご主人様の20倍は年上でしゅから♪」

「そう言えばそうだったな」

300年祠に封印されていた3人は、見た目こそピチピチだが、年齢にして100どころか300さえ超えている。

彼女らがどうしてそんな長い間生きることが出来ているのかはわからないが、この世界は不思議なことが多い。

もしかしたら、祠の封印は歳を取らないものなのかもしれない。

そんなことを思いながら、お婆さんの作ってくれた朝ごはんを口に運ぶ。

「美味しいな」

「それは良かったです。たくさん食べてこれからの旅も頑張ってくださいね」

そう言って優しく微笑むお婆さんに癒された朝だった。


4人はお婆さんに別れを告げ、ハジーマの街のギルドに向かう。

5分ほど歩くと舗装された道が見えてきた。

自然を感じる場所とはここで一旦お別れだ。

街に入るとさっきまでとは打って変わって、人々の話し声があちこちから聞こえてくる。

忙しなく人々が移動する中をなんとか抜けて、20分ほど歩くとやっとギルドが見えた。

「やっと帰って来れたわね」

「ギルド依頼ってのも大変だな」

「ギルドの人達の方がもっと大変でしゅけど」

「……Zzz」

デネブを先頭にギルドの建物に入ると、早速マリーと目が合う。

まるで待っていたかのようなタイミングだ。

「おかえりなさいませ、ご主人様」

「いつからここはメイドカフェになったんですか」

「いえ、そちらの幼女さんがあなたのことをご主人様と呼んでいたので、そういう趣味なのかと」

「そういう訳じゃありませんから。説明するのめんどくさいのでもう追求しないでください」

「わかりました。ところで、戻ってこられたということはギルド依頼達成ということでよろしいでしょうか?」

「はい、軽く40は倒してきましたよ」

デネブが若干ドヤ顔で言う。

「では、宝石を失礼致します」

マリーはそう言うと、何かの機械を4人の宝石にかざした。

「ほうほう」

「それはなんですか?」

受付中央にあるモニターに4人の名前と、その横に数字が書かれている。

「その宝石には記憶粒子というものが混ざっていまして、皆様の会話からそれぞれの名前を記録し、同時にギルド依頼における討伐率を表示してくれるんです」

マリーの説明に4人はうんうんと頷き、再度モニターに視線を戻す。


シグマ 11体

デネブ 14体

ベガ 12体

アル 13体

合計 50体


「つまり、私が1番多く倒したという事ね!」

「その通りです、そしてシグマくんが1番少ないと」

「分かってますから言わないで貰えますか!?」

「これはこれは、失礼致しました。というわけで依頼達成ですので、報酬をどうぞ」

マリーはシグマに手のひらから少しこぼれるくらいのサイズの袋を手渡した。

「んぉ!?お、重っ!」

「え、これ……5000ゴルどころじゃないですよ!?」

袋を覗き込んだデネブは驚きすぎて若干声が裏返っている。

「初めての敵によく上手く対処出来ましたね。しかもノルマ討伐数の1.5倍を超える数の討伐。それに対する賞賛とお礼の意味を込めての5万5000ゴルです」

「い、5万5000ゴル!?は、初めの金額の11倍じゃないですか!そんな貰っちゃっていいんですか?」

「もちろんです、ギルドに二言はありません。ただ、ちょっとばかりこれからも色々と頼みますね♡という気持ちを込めただけです」

この人、厄介事を押し付けてくるつもりだ……。

シグマもデネブも同じことを感じとった。

「でも、これだけの金額があればそれなりに安心して旅ができるわよ」

「そうだな、防具とかも必要になってくるだろうし」

シグマにとって剣は今の1本で充分だが、防具が心許ない。

いや、心許ないというよりもシグマは防具すら身につけていない。

これでは攻撃を受ければ即死もありえる。

この街を出る前にそこはしっかりとしておいた方がいいだろう。

「では、またよろしくお願いしますね」

「はい、また来ます」

シグマ達一行はマリーに頭を下げながらギルドを去った。

「じゃあ防具を買いに行く前に、換金所で猫スライムの核を換金してきちゃいましょうか」

「そうだな、その後で防具をじっくり見ようか」

「ええ、2人もいいわよね?」

「ご主人様の防具、かっこいいのを選びたいでしゅ!」

「……Zzz」

「アルは自分のをしっかり選びなさい!ベガは寝ないの!ちゃんと起きて歩いて!」

「あと5分だけ〜ムニャムニャ」

「お前は母親に起こしてもらう中学生かっ!」


こうして初めての依頼をこなした4人は、街の北にある換金所・防具屋に向かうのだが、これから厄介事に巻き込まれることなどまだ知らなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る