勇者サマと3人の使い魔

プル・メープル

第1話 旅立ちし日

リュックを背負い、腰に父親の作った鉄の剣を携えて、勇者を目指す15歳の少年シグマ=カルモスは玄関のドアから勢いよく飛び出した。

「いってきまーす!」

振り返りざまに見送る両親の顔が視界に映る。

心配そうで寂しそう。

本当は行かせたくないという気持ちが伝わってくるような、そんな暗さを帯びた顔だった。

「ごめん、母さん、父さん」

シグマは一瞬止めた足を再び前へと進めた。

どれだけ2人に止められても、シグマは今日この日に旅立つと心に決めていたから。

絶対に魔王を倒さなければならない。

その理由が目の奥に、脳裏に、心の最奥に焼き付いているから。


シグマにはかつて最愛の妹がいた。

名前はユリィ、ユリィ=カルモス。

歳はシグマの二つ下。

頭も良くて、人柄も良い。

そして笑顔が飛びっきりかわいい、そんな女の子だった。

でも彼女は殺された。

ちょうど7年前の今日。

誕生日が全く同じだったシグマとユリィの誕生日会は、毎年一緒に行われた。

その年も例外無く、2人は誕生日ケーキを店に受け取りに行った帰りだった。

その時だ。

2人の前に突如巨大な魔物が降ってきた。

その爆風で2人は吹き飛ばされ、岩盤に体を打ち付けて身動きが取れなくなる。

その2人を魔物は掴み、見比べ、そしてユリィだけを残してシグマを無造作に投げ捨てた。

10メートルはあるであろう魔物の手から落とされたシグマは、右足に激痛を憶え呻いた。

だが、そんなことよりもユリィが心配だったシグマは左足の力だけで魔物に飛びつき、大木よりも太く硬い足を殴った。

それでも魔物は何も感じていないのか、ただただ手のひらの上のユリィを見つめるだけだった。

ユリィは怯え、動くようになった体でも逃げることが出来ず、手のひらの上でじっとしているだけだった。

だが、その数秒後のことだった。

「……え?」

魔物はユリィを高く放り投げ、そしてそのままユリィを丸呑みしてしまったのだった。

魔物は満足そうに腹部をさすると、大きな足音を立てながら消えていった。

後には、ぐちゃぐちゃに潰れたケーキが地面に落ちているだけだった。


そんなことがあった故に、シグマの旅立ちは誰に求められない強固な決意となった。

目の前で魔物に喰われた妹。

彼女の未練を晴らす為にも、魔王を倒し、魔物の蔓延るこの世界を一掃しなくてはならない。

妹が死んだことは両親だって辛かっただろう。

だからこそ、父親は剣を作り、母親はシグマが勇者になると決意した6年前のあの日から、コツコツと節約し貯めてきたお金を持たせてくれた。

決して強い剣じゃない、決して高い金額ではない。

けれど、自分と妹への愛情の詰まったものだと思うと、他のどんなものよりも素晴らしいものだと思えた。

そのお礼を今伝えるのは、思春期のシグマには難しかった。

伝えようとする度にどこか気恥しさがあり、上手く言えなかった。

だから、魔王を倒してユリィの未練を晴らしたその後で、強くなった自分を見せると共にお礼をしようと決めた。

だからこそ、その誓いをなるべく早く叶えるためにシグマは玄関を飛び出し、故郷のすぐ近くにある一本道の森に向かったのだった。

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