俺の青春は500円の傘から始まりました。

炭酸ルウル

500円の傘がダメになりました。

放課後も雨が降っていた。

 「傘忘れちゃったぁ~」

 「じゃあ俺の傘入る~?」

 「うんっ‼」


俺が思っていた高校生活とは遥かに程遠い。

やはり、高校生となるとカップルがやたらと増えてくる……。

高校生活において、一番嫌な事は雨が降っている放課後だ……カップルの出現率が

多い時間帯……。ここまで嫌な事は早々ない。

 ほら、また相合傘が召喚された。相合傘なんて概念消したい…。

こんな事を考えながら自分の傘を半開きの目で探す。


「…えっ。嘘だろ…。もしかして傘がないっ。朝さしてきたはずの傘がない…。」


しっかりと大きく『澪月蛍斗』(みづきけいと)と名前シールを貼っておいたのに

 「はぁ……でも、残りの傘はあと三つしか残ってないしその中の二つは確か先生

の傘だよな。じゃあこの傘の人が俺の傘と間違えて持って行ったって事だな。」

俺はその傘に違和感を感じていた。

「あれ、これ俺と同じ傘じゃん。だから間違えて持って行ったのか……。」

その傘の柄には生徒の名前が書いてあった。

 「なんて読むんだ、この漢字……『笹乃井初葉(ささのいういは)』……?」

傘の柄には二年三組十五番「笹乃井初葉」と書かれてあった。

「ん……?ささのい?はつは?違う。ういはか。しかも、二年って俺と同い年なの

か。と言うことは、見たことあるかな……。ないか……。俺は友達すら一人もいな

いからな。そう言えば、俺、高校生活で最後に話したのは確か一年の秋だったよな

あれは最悪だった」


 俺の苗字がみづきだから女子の名前にみづきとかたくさんいてみづきさんって呼

ばれたと思って返事をしたら「……え?なに……?」みたいな感じで周囲からクス

クス笑われた思い出がある。俺に人生とって澪月と言う苗字は最悪の天敵なのかも

しれない。


「はぁ……しかたがないこの傘を借りて明日返すか。多分この笹乃井さんは俺の傘

を持っているはずだから明日交換すればいいか。多分俺の傘持ってくるだろうし」

 そうこう考えてる内に校舎には俺一人になってしまった。

もう、俺一人か……まあ一人には慣れている。

 俺は土砂降りの雨の中を笹乃井初葉と書かれた傘をさして帰宅しようとしていた



 「あれ?この傘私のじゃないっ!間違えて持って来たのかっ。名前書いてないか

  な?」

傘の柄には「澪月蛍斗」と言う名前シールが貼ってあった。

「あっ書いてあるじゃん‼えっ何この漢字っなんて読むのかな……?れいつき?名

前はけいとかな?蛍斗って事は女子かな?でも漢字的に男子っぽいけどなー?と、

言う事は今学校で困ってるはずっ‼返しに行かないとっ」

 初葉は蛍斗が困ってると思い学校へ走り出す。


―――ちょうどその頃蛍斗は普通に歩いていた―――


「雨粒と書いてレインバレットと読む中々いい感じだなちょっと中二くさいけど」

なんて訳が分からない事を口ずさみながら傘をさして学校の歩いていた時……。


               『ビシャ‼』


 「ん?あああぁ⁉」

前から走ってきた少女が飛ばした泥が制服にクリティカルヒットした。

蛍斗はすぐに後ろを振り向くと少女は道路に飛び出していた。

 「…………⁉危ないっ!」

少女は横から来た車に気づき避けようとしたがそれはもう遅かった…車にぶつかる

と思ったその瞬間……。

 俺は頭の中が真っ白になり少女を助けようと勝手に身体が動いていた。


「……⁉」    「っぶねえ!!だろーが!!!気を付けろ!!!!!!」。


 少女を突き飛ばしそのまま俺も少女と一緒に地面へ倒れこんでいた。

 「んんぅ…。」

「痛ってぇ…、大丈夫か??」

「……え。あ、ありがとうございます…」

「無事でよかった、とりあえず雨降ってるし俺の傘はいる…?」

 うひょぉ~恥ずかしい~何を言っているんだ俺は……っ‼

「は、はい…」

「これからは、しっかりと車来てるか確認しろよ??」

「本当にありがとうございました…」

「いえいえ今度から気を付けてくれれば俺はそれでいいから。」

「はい…気を付けます…あ、傘が……。」

 そこには突き飛ばされ折れている傘が転がっていた。

 「あ、ごめん…‼君の傘が…しっかりと折れてる、これは弁償するよ…。」

「これ私の傘じゃないんです…」

「え?そうなの?誰の傘なの…?」

 ん?待てよ…この子の傘じゃないって…。…⁉もしかして…彼氏…彼氏の傘なの

 かっ……‼

「これ、知らない人の傘なんです…」

 ふぅ~よかった彼氏の傘じゃなくて彼氏の傘だったら俺はどんな目にあっていた

 か……。

「名前はわかるんですけどその人が誰なのかわからなくて…。」

「なんて名前なの…?」

 「これです。『澪月蛍斗』って書いてあるんですけど…知りませんか?多分私た

 ちと同じ学校だと思うんですけど…。」


 「………………え?」


 思わず会話が途切れてしまった。


「…どうしました?」

 「…っえ。あ、あぁ、その傘…俺の……。」


 この瞬間。俺には世界が呼吸を止めたかのようにその身で感じた。


「……え、じゃ…じゃあ。あなたが澪月蛍斗さん…?」

「うん、そうだよ。え、じゃあ君が笹乃井初葉さんなの?」

「そ、そうです。」

 おいおいおいおいおいおいまじか!!こんな奇跡あんの?かよ⁉凄い奇跡だ…。

「…あっ‼ごめんなさい!澪月さんの傘折ってしまって…。弁償します!!」

「いやいや、あれは俺が突き飛ばして折れちゃった傘なんだからさ弁償なんていい

よ。」

「は、はい…じゃあ代わりと言ったらなんですけどなにか私にできることあったら

します‼」

「…っえ。」

 どおおおおおしよおおおおおおお!!!こんな可愛い子がなんでもしてくれるん

 だってさ!えええ何してもらおっかなぁ~。ぐへへへへ。

「じゃっじゃあ…。」

「はい私に出来ることなら何でもしますっ」

 まて、ここで変なこと考えるな。せっかくこんな可愛い子と友達になれるチャン

 スかもしれないんだぞ!


考えろ…、俺氏考えるんだ…。自分が持っているコミュニケーション能力の全てを

使うんだ…。……。


      はぁ…。


「じゃあ俺のことは蛍斗って呼んで?」

「…っえ。」


 くっそう失敗したか…?


 「はい!!!!!蛍斗くん!」

「お、おう…。」

 待って死ぬほど照れるんだけど…。高校生に入って女子との会話なんてした事な

 いからこういう時はどんな反応していいのかわからないっ…。

「じゃあ蛍斗君は私のことを初葉って呼んでください!」

「わかった。」

「はやく呼んでみてください!」

「…えっ⁉今っ⁉」

「はい!今です!!!」

「……はさn…。」

「え?もっとはっきりと!」

「…はさん」

「さん付けはなしで!!」

 まじかよロクに女の子と話したことない俺からしたらこんなのただの拷問でしか

 ないんだけど…泣きそ。

「う…は」

「はやくううううう!!!!!!!!!」

 「「「ういはああああああああああああ‼」」」

 「はいっ!」


 そこには雨で見窄らしくなっている初葉が俺には天使にみえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る