第11話
『――では、スペンサー・オルブライト。この私と共に世界を征服しようじゃないか?』
3年経った。あの夜から3年という時が過ぎた。
あの時に交わしたナビアとの契約。彼女の描いた壮大な計画は、予想以上に順調に進んでいった。
怪獣を掘り起こしてしまった鉱山と契約を結び、怪獣を殺す。それを繰り返すたびに私たちは莫大な富を得た。
それぞれの鉱山から利益の半分を巻き上げていった。
「……どうした? 今さらあの時の契約書なんて見つめて」
穏やかな夜、同室のナビアが私の肩越しに語り掛ける。
その手には2つのグラスとワインが握られている。
彼女のお気に入りなのだ。セルタリスのワインを随分と気に入ってくれた。
「いや、丁度あの日から3年だと思ってな」
「おお……よく覚えていたな、スペンサー」
契約書を仕舞い、ナビアの用意してくれたワインを嗜む。
「忘れていたか? ナビア」
「時間の感覚が曖昧でね。人生の中で最も濃密な3年だった。もう10年も昔のことのようにさえ感じる」
出会った時には、こんなに嬉しそうな彼女の表情を見られる日が来るとは思っていなかった。
そして出会う前には想像もしていなかった。自分たちが、メタリアの中でも最大勢力になる日が来るなんて。
セルタリス商会を去って始めた私の賭けはどうやら表に出たらしい。
「……オルブライト防衛隊、か」
「嫌だったかな? 君の名前を使うのは」
オルブライト防衛隊、それが私たちの名前になった。
黄金の獣・ライテスと獣の魔女であるナビア、その2人を前面に押し出すのではなく私の名前を前に出した。
その方がエウタリカ人への受けが良いだろうという判断だった。
「いいや、良いんだ。ただ自分の名前がここまで前に出るのは初めてでね」
オルブライト防衛隊、その要はライテスとナビア。
他の構成員は、私と私が雇っていたガンマン、そしてミネラスタの戦士たち。
大きな被害はなく怪獣退治は順調に進み、名実ともに我々が唯一このメタリアで怪獣に対抗できる存在となっている。
「胸を張れ、スペンサー。お前が大きくなれば、お前を育ててくれたという牧師も喜ぶだろう」
「……どうかな、あの人がそういう世俗を求めるかどうか、想像はつかない」
不安そうにする私を見て、静かに微笑むナビア。
本当に美しい女性だ。彼女と手を組めたこと、今では本当に嬉しく思う。
「――ボス、マダム。夜遅くに失礼します」
扉をノックする音に続けて、リックの声が聞こえてきた。
こいつが夜に来るということは、よほどの大ごとだろうな。
大した用事もないのに夜に来るような男ではない。
「どうした、リック?」
「……ウィルドマスター社の”魔術師”と名乗る男が、ボスに会いたいと。
日を改めさせようかとも思ったんですが、無碍にするのも危うい相手かと思いまして」
魔術師殿か。彼には防衛隊に火器を回してもらっている。
一時エウタリカに戻っていたが、近いうちにメタリアに戻ってくると手紙があったな。
「よかろう。着替えてから行くから、応接室に通しておいてもらえるか?」
「承知しました。マダムはどうされます?」
「……行った方が良いのか?」
ナビアを連れていくか、否か。
「来てもらった方が良いな。相手はウィルドマスターのキーパーソンだ」
「分かった。準備しよう」
――手早く着替えを済ませ、応接室へと向かう。
オルブライト防衛隊が大きくなっていくにつれて幾人もの依頼人が訪れるようになった。
だから必要となった部屋だ。
「これまた急な訪問だね? 魔術師殿」
「すまない。馬車が遅れてね。ただ、どうしても早く話をしたかったんだ、スペンサー殿……貴女がお噂の」
「ナビア・ミネラスタだ、よろしく頼む」
魔術師殿がナビアと握手を交わす。
この男が驚いている様を見るのは珍しい。
「……お噂よりもずっと美しい。私のことは”魔術師”でご容赦願いたい。自らの名前が嫌いなのです」
「それは構わないが、変わっているな。別の名前くらい用意したらどうだ?」
「検討したいと思いますが、既にこれで通っているのでね」
既に慣れてしまっていたが、やはり異様だよな。
魔術師としか名乗らない男なんて。
「それで用件はなんだ? ここまで急いだんだ。世間話じゃ許さんぞ?」
「ああ、本題に入ろう。ウィルドマスター社として依頼がしたい。オルブライト防衛隊に」
「……話は聞こう。受けるかどうかはそれからだ」
ウィルドマスター社からの依頼か。かなり珍しいな。
彼ら自身は鉱山を持っていないというのに。
それなのに怪獣退治を生業とする我々に依頼をしてくるとなると、いったいどこのどいつを倒して欲しいのか。
「――グランドアークを支配する怪獣・デイモンを討伐したいのだ」
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