甘いひと時を

房成 あやめ

プロローグ

「佐藤さんのセリフまで、5・3・2・1。」

TVディレクターが合図する。それとともに、カメラさんや音声さん、アナウンサーさんの顔が、仕事顔になっていった。私も、仕事顔という名の仮面を被った。

「ということで、今日は、高校生パティシエの牧野 瑠璃まきの るりさんに、スタジオまで来てもらっています!こんにちは、」

「こんにちは、牧野瑠璃です!」

いつも話す声より、少し高い声で話す。なんか、気持ち悪いが、それぐらいが丁度いい。

「では、牧野さん、マカロン・世界1位という結果を修められました。おめでとうございます。」

・・・10回目。

「ありがとうございます。」

私は、笑顔で言った。

「マカロン・世界大会は、どんな感じだっでしょうか。」

その質問も、10回目。

「そうですね、私は、本番に卵をぶちまけてしまったのですが、その他は特に事件も起きず良い結果を修められたかなと、思っています。」

「卵ですか!?」

その反応も、10回目。

「そうなんです。」

「大変でしたね〜。今回、大会で作ったお菓子は、どのような物ですか。」

何でこんなに他の番組と質問が、かぶるんだろう。

「そうですね。私は、高校1年生ですので、可愛い系を作ろうかなと思ったんですね。」

佐藤さんが頷く。

「それで思いついたのが、こちら。」

私は、プリップを出した。

「Doux amour avec l'acidité de cassisで、和訳すると、甘い恋ーカシスの酸味と共にーです。ピンク色のマカロンで、中には、ホワイトチョコと、カシスの実が入っています。チョコの甘みと、カシスの酸味が合わさって、食べやすい甘さになるように作りました。その酸味と甘みが恋みたいだなって思ったのでこの題名にしました。」

「そうですか。なんか、ロマンチックですね。では、このマカロンのアピールポイントをどうぞ。」

「そうですね。先ほど言った、食べやすい甘さになるように作ったというのも、一つなんですがまだもう一つあります。マカロンはアーモンドプードルを使って作ります。そのアーモンドプードルを自分で作ったことです。知り合いが栽培しているアーモンドを取ってきて、粉にしました。」

「アーモンドプードルをご自分で!すごいですね。」

いや、本当に、大変だった。思い出すだけでっとする。あの粉は、努力の塊だ。

「では、来年の意気込みをどうぞ。」

それに答えるのも10回目。

「そうですね。今回1位をとらせていただいたので、来年も、1位をとりたいなと、思います!応援よろしくお願いします。」

「今日はありがとうございました。」

「ありがとうございました。」

「・・・はい、カット!牧野さんの撮影は、これで終了となります。お疲れ様でした。」

ディレクターが言った。その言葉を聞き、私はホッとした。やっと、帰れる。


「お疲れ様でした。」「お疲れ様でした。」

スタジオを出るとき、たくさんの人に声をかけられた。

「お疲れ様でした。」

私は、会釈をしながらそこを通った。

 疲れたし、今日も何かお菓子を買って帰ろう!

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