メリト~Märchen richten Träumerei~

ビト

オリジンから0番目へ〜神下しの神話と呪いのような奇跡〜

ヒーロー・ライジング

【ヒーロー、屹立きつりつ



 この物語は、神下しの神話。

 伸ばした手が、その縁に掛かったから。夢のまま、想いのまま。少女は手を伸ばし続ける。情念が現実を歪めることこそが魔法の真理だ。その情念がどこまで至るのか。

 物語は――――こうして紡がれる。






 果てなき天に浮かぶ太陽は、世界を塗り潰す漆黒の奔騰ほうとう。苛烈な光をもって世界を塗り潰す。

 歯を食い縛り拳を握る少女の口から、喉も裂けんばかりに獰猛な吠え声が溢れる。どれだけ足掻いても、圧倒的で、膨大な、そんな光の圧は全てを覆い尽くし、き尽くそうとする。

 焦がれるような焦燥と、全身をひりつかせる苦痛は、しかし少女を奮い立たせる起爆剤でもあった。


 情念が爆発する。

 心臓が怒涛に奏でる。

 循環する血が煮えぎる。


 来る光に熱量は有さない。優しく心を包む救済の光。だから、これは少女の心の熱量だ。情念の熱さだ。そんな魔法が少女の全身を巡り、己を灼き尽くさんとする烈光に耐えさせる。

 不撓ふとう、不屈、不退転──曲がらず、退かず、何があっても貫き通す熱い意志。

 熱血と、そう呼ぶに相応しい意志力が、彼女のうちから溢れ出さんばかりに荒れ狂っていた。

 たとえ、それが全てを救済する光だとしても―─黒い泥をぶち撒けながら、少女は前進する。


 光の奥で、白い女神が弓矢をつがえた。

 無数の黒い腕が、救済の光に弾けた。

 少女を見守る目の数々が消し飛んだ。


 それでも、少女は拳を握って前進する。光をはね除け、前へ進む。

 黒い巨人が倒れた。アーチのような漆黒の石柱が道を造る。その背中を、残るただ一対の目が追っていた。

 その姿を光から遮るように、ついに少女は女神の翼の内側へ──



「届いたぞ――――アリスッッ!!!!」


「私は、あなたを救いにきたんだよ――――あやかちゃん」



 にこりと笑いかけると、困ったような顔をした女神は、ついに光の矢をつがえた大弓を放った。

 彗星の如く疾る光の奔流──挑む少女の拳はちっぽけで、それでも、誰よりも獰猛に、太陽の如く輝いていた。


 彗星と太陽がぶつかり、弾けた光が迸る。

 そして、全てが光に――――――…………

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