【書籍化記念SS】ファンタジーには馴染めない ~アラフォー男、ハードモード異世界に転移したけど結局無双~
nov/DRAGON NOVELS
番外編 諜報員DEET その後
夕闇に紛れ、
「若様、
「……所属は確認できたか?」
「はっ。南方統括教会です」
「……またか。
「はっ」
帝国とは講和を結び、建国と相成った
しかしながら、忍び部隊森羅の諜報・防諜網は国内向けに
「……対症療法では
とはいえ、国外までを視野に入れると人員が足りない上に、我等森人では目立ち過ぎ、諜報活動には不向きなのだ。
「里の
長いため息が夜の帳に溶けていった。
◇◆◇
「里に……ですか?」
「そうだ。里への使者を長距離飛行の可能なお主に頼みたい。ディートよ」
若様に呼び出された私は、森人の里への使者をお願いされていた。
「まだ気が進まないのか?」
顔色を読まれてしまったらしい。
「……はい。また、何と言われるか」
「とはいえ、何時迄も避けて通る訳にも行くまい。良い機会だと捉えてくれまいか」
「……
渋々と書状を受け取って退出する。
私の名は、ディート。
いや、コードネーム「
異世界から落ちてきた
しかし、あの巨大な力の奔流の前では私の色仕掛けなど通じず、
思い出すだけで、悔しさから歩調が乱れてしまっている。先程も
「私はもう、弱かった昔の私ではない」
長い耳に気合いを入れて一歩を踏み出す。
「私の名は
私は闘う。
例え、生まれ育った里や友人知人が相手であっても。
◇◆◇
側仕えに作業の申し送りを済ませた所で、エメリーヌ師とサーラ様が見送りに来てくれていた。
「行くのですねディー。気を付けるのですよ」
「ディー、早く帰ってきて、ね?」
お二方と軽く抱擁し、離れる。
「はい。早めに戻る予定ですが、殿の夜の身辺警護はお願いいたします」
「ん、一緒に寝る」
「ダリもこちらに移ってこられればと思うのですけど……」
エメリーヌ師は苦笑いの混じった微笑みでそんなことをこぼしていた。
「それでは行って参ります」
私はマナを循環させ、勢い良く蒼穹へと駆け上がり、里への方向を見定め水平飛行へと移行する。寒くならない程度の速度でも1時間程で到着するだろう。もう手慣れたものだ。
◇◆◇
特に問題もなく、里付近の上空に到着した。問題はこれからだ。
手前の森の中で着地し、マナ循環を停止させた。ここからはなるべく人目に付かないように隠密行動に移る。
なにせ、里の上空を飛んでしまうと拝まれてしまうのだ。見つかるだけで面倒な騒ぎも起きるだろう。
「何してるの? かくれんぼ?」
里へ入って住宅街を縫うように進んでいると、不意に背後から声がかかった。
防衛網に引っかかった? やはり日が沈んでから潜入すべきだったか?
ビクリとしながら振り返り、声の主を見ると小さな男の子だった。安堵とともに止めていた息を吐き出した。
……里に入ったら、コソコソ行動している方が怪しかった。
「ご、ごめんね。かくれんぼしてたんだ」
「森羅ごっこだね!」
「そ、そうそう森羅ごっこ!」
「カッコいいよなー! 森羅!」
「そ、そうだねー」
マナ循環を止めていれば目立たないはずだ。人混みに紛れてしまおう。
「……じゃ、お姉さん行くねー」
「まぁ待たれよDEETよ」
そんな声と共に物影から現れたのは忍び装束の本物の森羅だった。やはり察知されていたのか。
「うわ! 森羅だー!」
男の子は大興奮だ。
「何故、半端な隠形で里に侵入したのかはさておき、よく帰った」
「はっ。DEET戻りました」
「長老会がお待ちだ。大人しく付いてきてくれるな?」
「ははっ」
こうなっては仕方がない。大人しく付いて行こう。余計な騒ぎを起こしたくなかっただけで目的地は同じなのだから……。
◇◆◇
暗い庵の奧からしゃがれ声が響く。
「よくぞ戻ったDEETよ」
「はっ。スレイ殿より書状を預かっております。
「まぁ待たれよ。今、長を呼びに行っている。今暫し待たれよ」
「はっ」
「それより、子作りの進展は如何か?」
「……順番を待っている段階にございます」
「一歩でも前に進んでいるのであれば僥倖。皆、期待している」
随分と関係性が歪んでしまった。
私は既に森羅には在籍していない。森羅の
「相変わらず暗くて陰気だすな。明かりを点けるだすっ」
「ははーっ」
長がやってきたようだ。
「お久しぶりだす。ディート様」
「お元気そうですね。ダリ」
「子供達も元気過ぎて困っているだす」
明かりを点けてやってきたのは隻腕
当初は開拓村からの労働力派遣でやってきていた
強き
それが目に見えてしまう森人達は、平伏するか服を脱ぐかのどちらかだった。
魔我羅にいる森羅部隊は第1段階のマナ循環ができ、殿もおわすのでそんなことはないのだが、里の森羅本部はあっさりと
殿も「面倒だから良きに計らえ」と仰せであったので森人防波堤としてダリが立っていた。
大体、私もマナ循環を行うと誰も彼も皆、平伏してしまうのだ。殿が面倒というのも少し分かる気がする。何とか説得してようやく今の関係性になっているのだ。
長老達から様付けで呼ばれたり、敬語で話されたりとか本当にやめて欲しい。居づらくてしょうがない。
「何々……魔王討伐の
「「応!!」」
ダリの夫達が気炎を上げる。ちなみにブリスロック隊と隊長でダリ夫の1人であるロイは
「目標、帝国旧王国領、北区、西区、南区の統括教会! 高高度から急降下爆撃による
「「Yes, ma'am!!」」
もりもりと膨れ上がる戦意とマナに、森人の里は恐慌寸前に陥ってしまう。
道端で平伏する森人達が溢れる中、耐寒装備に食糧を背負ったブリンガー隊が次々と旅立っていく。
私は他にやる事もないので、どさくさに紛れて飛んで帰ることにした。
私は私のお役目を果たすために……。
あ、殿にも事後報告しないと。今から戻れば夜には着きそうなので、同衾に混ぜて貰えばいいかな?
ちなみに旧王都を統括していた主立った教会(東方面は魔我羅があるので統括教会は無かった)は数日後に穴だらけになり壊滅。
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