第4話

「てあああああぁ――ッ!」

 サラが放つ的確な刃が、虚空を閃く。影が次々と倒れていく――その後ろから迫ってくるさらなる新手。手にした銃を構えて発砲する――。

 そこに、僕は素早く割り込んだ。鋭く突き刺さる銃弾――だが、鱗は貫けない。

 その隙に、横から一人の着物の少女――クズハが跳び掛かった。狐火を宿した拳が、容赦なく、銃を持った影に叩き込まれる。

 不意に、背後から気配――振り返ると、そこにはビッグフットが駆けてきていた。

 サラが踵を返して駆ける。腰から太刀を引き抜き、流れるように構える。

 そこに合わせるように、アイリが並んで駆けた。二人の少女は、頷き合う

 ビッグフットが唸り声と共に、巨大な拳を振るう――アイリはその場で踏ん張ると、その拳をがっしりと受け止めた。あまりの衝撃に、地面が大きく砕ける。

 その背後から、サラが駆けた。動きを止めたビッグフットに肉迫。

 瞬間、刃閃が走った。すれ違いざま、足から血を噴く魔物――。

 崩れ倒れた一瞬に、アイリは見逃さなかった。

「じぇああああああああああああ!」

 踏み込みと同時に、拳が一気に振り抜かれる――迫撃砲のような、凄まじい爆裂音と共に、冗談のように巨体が吹き飛ぶ。

 容赦ないな、二人とも。僕は苦笑いを浮かべながら、殺気に反応して振り返る。

 蛇の妖怪――突き出された牙をかわし、すれ違いざま、拳を叩き込む。その尾を掴んで振り回し、他の敵にぶち当てる。

 その背後から、無数の触手が飛び出してきた――タコ足だ。

 クラーケンが、一気に振り下ろす触手の束。それを見上げ、僕は腕を交差させる。

 その隣に、頼もしい気配が、並んだ。

「いくぞ、リント」

「ああ、兄さん」

 太いタコ足が叩きつけられる――それを二人でしっかりと掴んで受け止めた。

 膝を曲げて勢いを殺す。そのまま、二人でアイコンタクト。

 僕が一気にタコ足を引っ張り、兄さんがそれを担ぐように跳ね上げる――。

「せえ、のおおおおおおおおおおおおお!」

 息を合わせ、その勢いのまま、勢いよくクラーケンを投げ飛ばす。

 竜の剛力に投げ飛ばされたクラーケン。何とか体勢を立て直そうとして――その身体に、次々と青白い炎がまとわりついていく。

 クズハの狐火だ。札を惜しみなく彼女は振りまきながら、援護に徹してくれている。

 その背後から忍び寄る影――直後、その身体に刃が突き刺さった。サラの援護だ。彼女はそのまま宙を跳び、離脱する。

 その着地を狙うように敵が動くが、兄さんの吐き出した疾風がそれを蹴散らす。

 吹き飛ばされた敵を、アイリが棍棒で狙い澄ましたフルスイングで弾き飛ばし――。

「そら、よっと」

 手頃な敵を掴んで、僕もそれを放り投げる――見事、中空で正面衝突する敵。

 僕とアイリは笑みを交わし合い、素早く次の敵へと向かっていく――。

 次々と向かい来る敵を、僕たちは連携して撃退する。

 相手の身体能力は高く、異能を感じられる。だが、それでも――。

「弱いね。お兄ちゃん」

「ああ、連携が明らかに噛み合っていない。それに――」

 僕とサラは背中合わせになり、挟撃を捌く。火を噴こうとした敵を、アッパーで口を塞ぐと、容赦なく地面に叩きつけながら、言葉を続けた。

「異能慣れしていないな。こいつら」

「恐らくだが――こいつらは、人工的に異能を植え付けられた兵士だ」

 頭上から降り注いできた溶解液を、兄さんは竜の吐息で吹き飛ばしながら告げる。そのまま、僕は兄さんと並び立つ。

 突っ込んできた、牛鬼を二人で同時に受け止め――僕の肩を蹴り、サラが跳ぶ。

 次の瞬間、その巨体の頭上から彼女の短刀が降り注いだ。

 崩れ倒れる牛鬼――その身体はすぐに縮み、人間の姿に戻っていく。

「――異能改造実験、ですか」

 アイリが息を切らさず、金棒を片手で易々と振り回してつぶやく――それに触れた瞬間、敵は弾き飛ばされていく。

 全員の攻勢に、敵たちは次第に気圧されつつあった。

「だが、所詮は人工物――天然の俺たちには勝てねえよ」

「ま、生まれてからこの身体で過ごしているからな」

 例えるなら、相手は使い慣れていない武器で戦っているようなものだ。間合いも分からなければ、使い方にも慣れていない。

 だが、僕たちは――ずっと、この身体と付き合ってきた。

 文字通り、年季が違う。

「里のみんなも押しているみたいだし。さっさと片付けるか」

「そうだね。お兄ちゃん」

 僕とサラは再び背中合わせに。にっこりと楽しそうにアイリは笑って金棒を振り回し、兄さんは仕方なさそうに笑い――ふと、眉を寄せる。

 その視線の先では、クズハが切羽詰まった表情で何かを耳に当てていた。

 その彼女が振り返り、叫ぶ。

「ハルト、大変! フィアが……!」

 そう言いかけた瞬間――どん、とどこかで何かが爆ぜる音が響き渡った。

 不気味な波動が、そちらから伝わってくる――。

 まるで、複数の異能がぶつかり合っているような、不協和音――。

 ハルト兄さんが息を呑む。舌打ちと共に、まさか、と小さくつぶやいた。

「考えが浅かった。仕込みがあったのか……!?」

「に、兄さん……?」

「来い、リント!」

 そう言うより早く、兄さんが駆け出す。訳も分からず、僕はその後ろに付き従う。だが、だんだんと状況が飲み込めて来た。

 その波動の場所は、フィアが避難した場所だ。

 しかも、その波動は徐々に大きくなっていく――。

「まさか、フィアに何か……?」

「ああッ!」

 兄さんは向かってくる敵を吹き飛ばしながら答えた。


「フィアが、暴走している――!」

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