終われない夜の歌




いつまでも続く夜の中

ただ一つ持ち合わせたナイフ

身を切り溢れ出た血の言葉が

足跡のようで


息をするように

遠くに佇む月を眺めて

決して触れられないと知れば

身を切り溢れ出た血の言葉を

足跡のように


涙がこびりついた頬のように

錆びて切れなくなったナイフ

夜が泣けばその雨で洗い流して

切先から滴り溜まってできた

小さな雨の海に揺蕩う月が

まるで言葉のようで



切っても

切っても

血はもう出ない

切っても

切っても

言葉はもう出ない


どんなに

どんなに歩いても

足跡が残ることはもうなくて



いつまでも続く夜の中

途方も無く歩き続けて

かつて認められた言葉の足跡も

今では痕跡すら残らない

遠く佇む月があまりにも綺麗で

あまりにも無慈悲で

あまりにも遠い


誰からも忘れられたことよりも

決して夜が明けないことよりも

月に触れることができる言葉を

失ったことがなによりも悲しいと

忘れられない歌を口遊む



まるで息をするかのように

忘れられない歌を口遊む

まるで生きる為の抗いかのように

諦められない歌を口遊む


呼応するかのように雨が降る

雨の音を浴びながら歌を歌う


いつまでも明けない夜の中

忘れられない言葉をいつまでも

諦めきれない言葉をいつまでも

それが僕だと僕に歌う

これが僕だと僕は歌う



いつまでも明けない夜の中

それでも僕は歩き続ける











 

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