マスク




今では街中みんなマスクをしている。

僕も例外なくマスクをしている。

世間は花粉だとか感染だとか言っているし、それらが猛威を振るって本当は愚かで弱い人間を懲らしめようとしているみたいだから、みんな自分を守る為にマスクをするのは当たり前だよね。

僕だってそれくらいは分かるよ。



でも僕の場合は違う。

僕は僕を隠す為にマスクをするんだ。

不細工だからとかそういったことじゃないよ。

もちろん、俗に言うイケメンって訳でもなけどね。

僕は本当の僕を隠す為にマスクをしているんだ。

君には分かるかな?

本当の僕はみんなが思っているような僕なんかじゃないんだ。

みんなも少なからず人には見せない一面があるよね?それと同じさ。

例えば、優しそうに見えて本当は人を蔑んでばかりの人だっているだろうし、

強そうに見えて本当は弱虫だとか、

笑っていても本当は怒っていたり泣いている、

なんてことはよくある話だよね。

親友だよって言ったその陰では悪口を言っているなんてこともよくある話だよね。

そういうことだよ。



みんなの見えてる姿なんて見せてる姿なだけであって、本当の自分は隠しているんだ。


だから僕はマスクをしているんだよ。



だけどさ、時々分からなくなるんだ。

僕が本当だと信じているそれは

本当に本当なのか、分からなくなるんだ。

本当だと思っていただけで実は嘘で、作られたものなんじゃないかって思ってしまうんだ。

マスクを外した僕の姿は僕がそうだと信じているだけの姿で、本当の姿なんかじゃないのかもしれない。

この世界だって

今日までの日々だって

これからの未来だって

本当はどこにも存在していないんじゃないかって

気がしてしまうんだ。



でもねきっと「本当」はやっぱりあると思うんだ。

僕の手の届かないところに

みんなの、君の手の届かないところに

それはあると思うんだ。

僕はそう信じたいし、そこにある本当の姿が僕もみんなも君もただ美しいだけの何かであればいいな。

降り積もったばかりのまっさらな雪景色のように。

雨が降った後の晴れて煌めく空のように。

綺麗なものであってほしいと思うんだ。



話が長いって?

どうでもいいでしょ?

どうせ君は真剣に聞いていないんだから。

そんなことないって?

じゃあ、ひとつだけ君に頼みたいことがあるんだ。

本当の君が知りたいな。

マスクをしていない、そのまんまの君と向き合いたいよ。

僕は本当にしょうもなくてダメな人間だから

君が僕に本当の姿を見せたって

君が恥をかくことなんてないから

君の本当を見せて

君の本音を聞かせて


そのまんまの君でどうか生きて












そして


剥がしたくても剥がれない僕のマスクも

それに隠していた本当の僕もみんな

燃やしてくれないか?


















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