伽藍堂の逆夢
肋の浮いた獣が居る
飢えの果てに
もう立ち上がる事も出来なくなった
蟲に集われ
傷は化膿し
瞬きもせず
孤独で
無情な天寿を鼻先に
浅い呼吸を繰り返す
一人の女が居る
恵まれた容貌は空の器
魂を喪った彷徨う幽鬼
どこから来て
どこへ向かうのか
女も忘れてしまった
もう殆どのことを
天体の唄う夜
布良星の寵愛を受け産まれ落ちた男児が居る
億千の鈴が鳴るような産声を上げる、
一等星の煌めきを宿した瞳から星屑を散りばめて
12年の歳月を経て
獣であったものはその孤高の一念、深い祈りからかはたまた単なる偶然か、遺骸から溢れるほど白百合を咲かせた事から畏怖され
ごく限られた者たちの細く確かな信仰の対象となり祀られ、輪郭のない存在を地上に留める。
女は揺蕩う道すがら、雨をしのいだ堂の軒下蠢く生物と対峙する
生命の力を押し込め、溢れ出しそうな濡れた瞳に捕らえられ
失って久しい感情の一端が遥か遠くで音を鳴らした
眼差しが溶け合う
美貌の狂女と星の子供の邂逅である
さてあいにく母性の持ち合わせのないこの女、その微かで甘やかな音色とは即ち。
赤子は親を持たなかった、いや、その生命を作り上げる行為に至った男女なら存在し、女は確かに腹を痛めその男児を出産した
が、しかし赤子はその肉体と精神の資質をこの世の誰からも受け継いでいなかった
そして摂理に従うように、乳飲み子のまま神仏の膝元に捨て置かれる。
しかし
鴉に目玉を抉られる事も
野犬の滋養になることも、
病むこと、渇くこと、飢えること
如何なる厄災も彼に触れる事はかなわない
ひとえにそれは加護である。
布良星の寵愛、
星の瞬きこそが彼の生命の根源であったのだから。
相反するが、共に美しいこの者たちが視線を交えた、白百合を背負った狼神の寝所を
女の空の魂になぞらえ、「伽藍堂」とする。
ありふれてはいなくとも、
世界と、歴史の中では珍しくはない
人知れぬ物語の序章。
/伽藍堂の逆夢
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