第154話 カロの複合魔法攻撃!

「ごめん、俺達が先に音を上げる訳にはいかないのに」

「お2人が無事ならいいんです。勝機を待ちましょう」

「本当に何もしなくていいのか? こう、気合を入れるみたいな感じにならなくても」

「ええ、私が勝手にお2人をブースターにしているので……。ただ、そのままでいてください」


 手持ち無沙汰のユウタスは協力を申し出るものの、アコはそれをやんわりと断った。生体魔導ブースターとなった2人の役目は、アコの魔力を増幅させる事。

 それは、ブースターとなった対象者がリラックスした状態で体に何も力を入れていない状態が一番望ましい。その状態でこそ、アコの魔力が対象者の体内を最大限に巡り、何倍にも力を増大させる事が可能となるのだ。


「へぇ、案外耐えるじゃないか。じゃあこれはどうだいっ!」


 アコ達がへばらないのを見たカロは、重力操作以外の魔法攻撃を追加する。勿論最初にかけた魔法を途切れさせる事なく。普通、魔法使いと言えども属性の違う魔法を同時に並列して行使する事は出来ない。

 だが、そこは伝説の魔女。普通の魔法使いが出来ない事も平然とやってのける事が出来るのだ。


 まず、彼女が使ったのは風の魔法だった。重い重力操作にも対応してきたアコの防御壁に、台風レベルの強風が迫る。対応する魔法組成が違うため、壁を維持するのにアコはかなりの魔力を消費してしまった。


「くううううっ……」

「面白い、これも耐えるかい。なら更に追加してやるよおっ!」


 カロは顔を狂気に歪ませて、更に追加で違う属性の魔法を発動。今度は火炎魔法がアコ達を襲う。重力に風に火。複合された魔法攻撃にアコの防御壁は少しずつ消耗していった。火炎魔法の熱が防御壁越しにも伝わってきて、周囲の温度がぐんぐん上昇していく。

 この状況を前に、またしてもアレサは顔を青ざめさせていった。


「暑い……あいつ、まさかこのまま蒸し焼きにさせる気かよ……」

「だ、大丈夫……です。これ以上暑くはさせ……させません!」

「おい、無茶すんな……」

「いいえ、ここで気を抜くと最後です。だから今は精一杯無茶します!」


 アコは防御壁を展開させながら、カロの魔法攻撃の無効化を狙っていた。複合魔法の無効化には複雑な術式の構築が必要になる。それをアコは暗算ですべてやってのけようとしていたのだ。

 絶体絶命のピンチにこそ、人は真の実力を発揮する。この時の彼女は、まさにそんな覚醒状態の境地に至っていた。


「今から作戦をお2人の脳内に直接伝えます。しっかり準備してください!」

「お、おう……」

「わ、分かった……」


 当然のアコの作戦指示にアレサ達は戸惑うものの、その後で流れてきた思念により計画を知り、その顔に自信がみなぎってくる。


「アコ、いい作戦だな。乗った!」

「俺もだ。とっておきの剣技をあいつにぶちかましてやるぜ!」

「では、タイミングは私に任せてください!」


 3人が反撃の計画を立てている事など知る由もないカロは、複合魔法攻撃ですら音を上げない若き冒険者達の実力を認めた。


「お前達、舐めてるのかと思ったら言うだけの事はあるみたいだね。じゃあ、今度はこれでどうだい!」


 カロは両手で持っていたロッドから右手を離し、その手を3人に向けてかざす。そうしてまたしても無詠唱で別の魔法を発動させた。右手から放たれたのは具現化術式。しかも任意の場所に発動が可能な高等魔法だ。

 カロが狙ったのはアコが展開させている魔法防壁の内側、アコ達冒険者本人を狙っての直接攻撃だった。


「防壁の対魔法防御性能は確かだが、その内側はどうかねぇ? 爆滅!」


 カロは言い終わると同時に右手を強く握る。それがトリガーとなって魔法防壁の内側の空間が大爆発を起こした。その爆風によって一瞬視界が防がれる。

 自身の魔法の発動が見事に成功した事で、カロは勝利を確信した。

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