しょうきんぐらし!
にゃべ♪
3人の賞金稼ぎ
天空の拳闘士
第1話 空の上の拳闘士
その世界の天空には大小様々な島が浮かんでいる。その島の中でも中規模程度の広さを持つアルモルトスと言う島では格闘技が盛んで、月に一回は島のどこかで格闘大会が開かれていた。その大会で勝利する事は名誉であり、地元住民以外にも天空の島々の各住民の腕自慢が我こそはと参加するほどだった。
この島の住人、ユウタス・アビゲイルも格闘大会の常連の1人。今年16になる彼は去年、最後の子供用大会を見事優勝で飾り、ノリに乗っていた。
「ふわ~。今日もいい朝だなあ」
拳闘士であるユウタスの朝は早い。日の出と共に家を出て島の外周を走るのが日課だ。彼はまだ暗い内に起き、準備を整える。もうすぐ始まる大人用の大会初参戦に向けて気合を入れて鍛えていたのだ。
日課の朝のジョギングも距離を伸ばし、去年の1.5倍の距離を毎朝休まずに走り続けている。
「うん、今日も調子いいな」
自分で決めた距離を走り終えた彼は、丘の上から眼下の雲海とそこに浮かぶ島々を眺める。そうして深呼吸をすると、朝食をとるために自宅へと戻るのだった。
最強の格闘王を決める大会は1回でも勝てば賞金を得られる。その賞金で暮らしているユウタスもまたプロの拳闘士だった。
大会は年齢別に子供の大会と大人の大会に分かれていて、更に小規模な地元大会と大規模な全国大会に別れている。
後、特に賞金額の大きい最強決定戦と言う特別な大会や、お金持ちがスポンサーになってその協賛で行われる大会、特別な事情で精鋭を集めなければいけなくなった時にも大会は開かれる。
かつて魔族が天空の島々を侵略しようとした非常時には、それに対抗するための戦士を集めるために武闘大会が行われた事もあったのだとか。
ユウタスが15歳最後の大会で優勝したのは子供用大会の地方大会での事だった。それは予選を含め、5回も勝てば優勝と言う小規模なもの。この優勝は彼にとって初めての優勝だった。
それまでの戦績は2回戦、3回戦止まり。それでも賞金の発生しない1回戦負けにはまだなった事はない。なので、客観的に見ても彼はまずまずの実力者と言う事になる。
ユウタスの師匠は自分の父親。彼もまた歴戦の拳闘士であり、優勝経験も豊富な実力者だ。アビゲイル家自体が拳闘士の家系であり、ユウタスの3世代前は島で一番強いとされる最強の一族の称号を得ていたりもする。
ただし、時代が下ってその座も奪われ、今では程々の実力者と言う地位に甘んじていた。
代々の拳闘士の家系と言う事でアビゲイル家は道場を開いているものの、門下生はユウタスを含め10名程度。それもあって、一家の収入は専ら大会の懸賞金と、その戦績を利用した傭兵などの仕事で賄っていた。
父親が師匠としてユウタスの育成に力を入れているため、その期待に応えようと、息子の彼もまた日々の修行に気合を入れている。
そんなユウタスの前に、背格好が同じくらいの少年が現れた。
「よう、頑張ってるじゃねーか」
「あ? 何のようだトルス」
「今度初めての大人用大会なんだって? 捻り潰してやんよ」
「けっ、その言葉、そっくりお返ししてやるぜ」
ユウタスの前に現れたのは幼馴染のライバル、トルスだった。同級生で誕生日が一ヶ月早い彼は、幼い頃からユウタスと格闘の腕を競い合っている。その実力はと言うと――。
「戦績は俺の31勝30敗3引き分けだろ? ユウタス、素直に負けを認めな!」
「いやその戦績はおかしい。俺の31勝だ。トルス、計算も出来なくなったか?」
と言う感じで、2人の実力は拮抗していた。だからこそ、お互いに自分の方が強いと顔を合わす度に意地を張り合うのが定番のやり取りになっている。
「お前の方が勝ってるだと? じゃあその言葉を証明してみな!」
「言ったな? その言葉、後悔すんじゃねぇぞ!」
こうして口喧嘩では決着が付かず、最後はいつも取っ組み合いの喧嘩となる。元々実力差のほとんどない2人、この喧嘩も中々決着がつかない。
しかも互いに意地っ張りなので、適当に切り上げる事が出来ないのだ。
お互いに殴ったり蹴ったり、ただ感情に任せるばかりの無様な喧嘩が続く中、その様子を眺めていた1人の少女が右手を腰に当ててため息を吐き出した。
「はいはい、そこまでー」
「カナ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます