不惑男の恋

マーク・カーター

1. 不惑男の日常

 俺、斉藤純一 45歳 5年前からバツイチの独身 子供なし 現在の交際相手なし

仕事は今は亡き親父から10年前に引き継いだ部品メーカーの社長をやっている。


結婚は30歳の時に6歳下の女性と2年交際を経て結婚した。


そして、今から5年前、結婚10年目の年に離婚届を突き付けられ、対して考える間もなく、判子を付いた。

離婚の理由は簡単だ。

俺が、家庭を顧みなかった。

そして、コウノトリは我々夫婦には来てくれなかった。

妻はイエローカードを送り続けていたようだが、全く気付かなかった。

当時はリーマンショックや大震災の影響による不況・・・

その上、親父の急死により右も左もわからぬまま社長就任した俺は苦しめられていた。

会社を守り、社員やその家族を守ることに必死だったが、自分の妻を守ることを忘れていた。

気付いたときは、時すでに遅し・・・レッドカードだった。


離婚後も相変わらず俺は、

休むことなく朝から夜中まで我武者羅に働き続けた。

その結果、会社を持ち直し、

社長就任時より

売上高は3倍の100億円、経常利益は7倍の8億円 社員数は2倍の300人になった。

満足はしてないが、これが今の結果だ。

俺という人間は会社以外、何もない。

会社を取り上げられたら、俺は床に置かれた人形でしかない。

現実はドラマ化された人気小説の下町何某のようにはいかない。

俺は佃何某でもない。


ただの不惑の中肉中背の中年のおっさんだ。


もちろん、離婚後の5年間、全く浮いた話がなかったわけではない。

2人の女性が、自分の前をあっという間に駆け抜けていった。

デート中も常に頭の片隅で仕事のことを考えていた。

いや、片隅では済まなかったのかもしれない。

結局のところ、2人の女性からすると、ツマラナイ男だったということだ。


住まいは会社から歩いて3分の所に、親父から相続した古い家で一人で暮らしている。

ちなみにお袋は妹の嫁ぎ先の長野の山間部の町に親父の死後、移住して、孫たちの世話で忙しくして、長男である俺はほったらかし状態である。


趣味は映画鑑賞とドライブという定番で

映画は自宅でネット配信やDVDで鑑賞する程度

ドライブは車で仕事終わりの夜中に気分転換に1~2時間ほど走らせる程度


服装にも食事にもこだわりはなく、

仕事では、

スラックスに上は作業着でシャツは白かストライプを着まわしている。

家では、

ジーンズに夏ならTシャツ、冬ならセーター

食事は、

朝は近所の喫茶店のモーニング、昼は社員食堂、夜はコンビニ弁当が基本である。


仕事以外のこだわりが全くない。


たまにニュースで孤独死が話題になるが、いずれ俺もそうなるだろうと覚悟はしているが、直前になってみないとわからない。


こんなツマラナイ男の俺にも、

お袋も妹夫婦も会社の社員も知らない、人に言えない秘密を抱えている。

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