第2話一瞬の。
どうにも僕は夏が嫌いだ。
セミはうるさいし、汗で体はベトベトするし、暑さでクラクラする。夏なんてあってメリットはあるのだろうか?泳げないからプールも海も楽しめないし、祭りや花火も共にする友達が居ない。……後半は自分のせいだろうけど。
とにかく。僕は夏が嫌いだった。
だから、君のことはほんとに理解できなかった。
君はこんな真夏に長袖を着ていた。始めは自分の目を疑いに疑った。まさか!そんな馬鹿な!半袖でさえ暑さを感じて耐えられないというのに!
そんな驚きから僕は君のことを凝視してしまった。だから、不覚にも目が合ってしまったのだ。
「ご、ごめんなさい。」
情けなく僕の口から出たのは謝罪の言葉だった。陰キャの僕にはこれが精一杯だ。さっさと帰ろう。そう思ったが、どうしても君の長袖の理由が知りたかった。暑さで頭がいっていたのだろう。
「な、長袖暑くないん……ですか?」
知らない人に凝視されて、急に質問されたら当然気持ち悪い。自分だったら、警察呼ぶ。
あ、僕今気持ち悪いな。
それだけは自覚出来た。
すると君は急に携帯を取りだした。あ、僕もう終わりだな。とうとうこの17年間生きてきて初めての警察にお世話になるというのを体験するらしい。自分の人生の終わりを感じひしひしと思い出にひたっていた。
「ん。」
目の前に携帯が突き出される。携帯の画面にはメモ機能のアプリが開かれていた。そこには短く
『暑くない』
とだけ書かれていた。
なんで文字?
そんな疑問が頭に浮かんだが、質問する前に君は姿を消していた。
夢?幻想?そう思わせるような一瞬の出会いで一瞬の別れだった。もうこの先会えないんだろうな。そんなくだらないことを考えて、僕はさっきまで君がいた場所をじっと静かに見つめていた。
僕だけに届く声を。 市原 律 @honokaitihara
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