脱出

【FACT】

・見知らぬホテルのエントランスで幽矢と咲が目を覚ます。

・カウンターの壁にセロハンでメモがくっつけてあり『タイムリミットは72時間』『うしろの扉から脱出しろ』と書いてある。

・脱出の扉は、鍵がないと開かないようだ。

・72時間後のニュースが流れ、自分が死んでいるニュースが流れた。

・101号室を探索し、『緋山の鍵』とハンマーを発見。

・102号室を探索し、メモ『忌避するな、直視しろ』と『十日町の鍵』を発見。

・103号室を探索し、メモ『一つの扉から出れるのは一人だけ』と自分自身の死体を発見。


―――


自分自身の死体が、ごろん、と落ちてきた。


十日町とうかまちは驚き硬直し、緋山ひやまは悲鳴を上げて部屋から四つん這いで逃げ出した。

死体を、しかも自分の死体を見てしまったのだからそれも無理からぬ事だった。


「――ぁ。死体おれが、なに、か、握ってる……?」


けれど十日町は次の瞬間には自分でも不気味に思うほどに冷静になっており、自分の死体が何かを握っていることに気づいた。

異常な事が起こりすぎて感覚が麻痺しているのかもしれない、と十日町は思いながら死体が握っていた紙くずみたいなものを取ろうとする。


死体を触るという行為は、十日町の予想以上に生理的嫌悪感を抱かせるものだった。なので十日町は恐る恐る指を一本一本ゆっくりと開かせて紙くずを取り出した。

そして、くしゃくしゃになっていた紙を開こうと、


したとき


ギィィィィィ――、と。


扉が開く音がした。

そこで十日町はさっきまで一緒にいた緋山の存在を思い出した。緋山は部屋から逃げ出していたはずだ。ではその後は?


「まさか――」


十日町が急いで部屋から飛び出すと、緋山がちょうど灰色の扉を開けて中に入るところだった。


「おいまてッ!」


十日町は力いっぱい叫び、走る。

扉の向こうにいる緋山は申し訳無さそうな表情をしていた。

灰色の分厚い扉は、緋山が触れているわけでもないのに無慈悲に閉じられていく。


そして、ばたん、と扉は完全にしまり、二度と開くことはなかった。

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