失恋から始まる不思議な世界

白ラムネ

短編

俺はパソコンで大好きなゲームをしている時も昨日のことを思い出しながら暗くなっていた。

学校で一番仲の良かった女の子にフラれたのだ。

昨日は金曜日でちょうど休みに入るから良かったけど、月曜から学校行きたくないな........。


「おい、クソ兄貴!!!早く風呂入れ!!!」

「妹よ、その言い方はひどくないか!?」


ノックもせずにドアを開けられた挙句、暴言を吐かれた俺はまた心が折れそうになる。

妹は言い残すと汚れ仕事が終わったと言いたげな顔をしながら大きな音を立ててドアを閉める。


「はぁ、風呂でも入ってリフレッシュするか.........」


一階の脱衣所まで来て服を脱ぐ。

そして、風呂の電気がついていることに気づいた。

あれ?妹よ、電気つけっぱなしじゃないか。

まあ、入るしいいか........。


俺は風呂場のドアを開けて湯けむりを被る。

シャワーをしようとシャワーヘッドを掴もうとしたら違和感に気が付いた。


「あれ?何かいつもと風呂場の配置が違くないか?」

「そうだっけ?」

「そうだよ、だってうちは石鹸とかが左側に..........」


ん?なんか声が横からしたような。

俺は横を向くと同じ顔をしている見覚えある女が風呂に浸かっていた。


「「何で!?」」


昨日フラれたばかりの女と盛大にハモる。


「何で幸太郎がこんなとこに居んの?」

「それは俺のセリフだよ!なんで未来がこんなところに.......」

「こんなところにってここ私の家の風呂だからだよ」

「え!?俺もさっきまで自分の家の脱衣所に居たぞ」

「ってか、こっち見んな!!!」


未来に水をかけられる。


「す、すまん」


俺は彼女から背を向けて大事なところもしっかり隠す。

彼女が風呂から上がる音がする。


「もういいよ」

「お、おう........」


俺はバスタオルに身を包んだ彼女の姿を見る。

何か背徳感があるな.........。

未来は歩き出し、風呂のドアを開ける。


「本当だ、私の家の脱衣所じゃない.........」

「俺の家と風呂場だけが繋がったってことか?」

「そうみたいね」


彼女は静かにドアを閉めて俺と向き合うように座った。

俺はどうすればいいかわからなくなりとりあえず体を洗おうとする。


「ちょ、ちょっと待ってよ!?何しようとしてんの!?」

「体を洗おうと.......」

「のんきなことしてないでこの状況をどうにかしなさいよ!!!」

「俺だって混乱してるから少し頭を冷やしたいんだよ!!!」

「お湯が出るんだから、逆にあったまっちゃうじゃない!!!」

「うるさいな、いいだろそんなこと!!!」

「そんなことって.......んんん!?」


彼女がまた怒りそうになった時、足音が聞こえてきた。

俺は彼女の口を手で塞ぎ彼女の体を寄せる。


「もうちょっと静かに入れないのか、クソ兄貴!!!」

「すまんすまん」

「っていうか、さっき女の人の声聞こえなかった?」

「き、気のせいだよ」

「ならいいけどさ、うるさいから静かにしてよ」

「わかった、ごめん」


足音が遠のく音がする。

俺はホッと一息つく。

するといきなり横腹を叩かれた。


「いってぇ!?」

「はぁ、はぁ、いつまでこうしてんのよ、息止まるかと思ったじゃん!」

「しょうがないだろ、こうするしかなかったんだよ」


未来は顔を赤くしながらこっちを睨んでいた。

俺も横腹を抑えながら反論する。


「これからどうするのよ」

「いったん頭と体だけ洗わせてくれないか?それまでに考えるから」


彼女は納得したのかもう一度風呂に浸かった。

ずっとムスッとした顔をしている。

しょうがないじゃないか、俺だってお前に振られて傷心してるんだぞ。

少しは気遣ってくれたっていいじゃないかよ........。

俺はシャンプーで頭を洗う。

しっかり大事なところはタオルで見えないようにしている。


「ねぇ」


未来がいきなり声をかけてきた。


「なんだよ」

「昨日のってさ、本気だったの?」


昨日のって、ああ、告白のことか........。

本気以外に何があるってんだよ。

あの時だって俺が告った後に無言で逃げってったじゃねえか。

結構頑張ったんだぞ。

そして凄く傷ついたんだぞ!!!


俺は無言で頭を流す。

このまま考えても空しくなるだけだと思ったから。

でも、彼女はそれをさせてくれなかった。


「ねえ、聞いてんの!?」

「聞こえてるよ」

「じゃあ、どうなのさ?」

「本気だったよ、ほらこれで満足か?」

「そっか........」


彼女はなぜか納得する。

風呂場が静かになった。

俺は彼女の言葉の意図がわからなかった。


「逆に何で逃げたのさ?」


俺は頭を流し終わり、彼女を見ながら聞く。

彼女はのぼせているのか、顔が赤くなっていた。

早く上がった方がよくないか?


「それは、ここでは言いたくない」

「なんだよそれ」


彼女は視線を逸らせた。

俺は体をざっと洗い、立ち上がる。


「ほら上がるぞ、未来ものぼせてるじゃん」

「これは違うし」

「顔とか体とか赤くなってるじゃん」

「これは違うの!こっち見んな!!!」


また水をかけられる。

マジで理不尽だな、おい!!!

俺は若干腹を立てながら風呂場から出る。


「ちょ、ちょっと待ってよ」


未来が顔だけを出して、こっちを見てくる。


「私はどうすればいいのさ」

「とりあえず俺の寝間着を着ろ、これも貸してやっから」

「これって男物のトランクスじゃん!」

「非常事態なんだからそれぐらい我慢してくれよ、ノーパンの方がいいのか?」


未来は少し考えた後に穿くことに決めた。

俺は乾燥機の中にあった自分の服を適当に着て、彼女に背を向けて座った。

彼女はドライヤーで髪を乾かしている最中だった。

俺は全ての煩悩を滅却し精神統一をしていた。

ドライヤーの音が止まる。


「もうこっち見ていいよ、ドライヤーありがとう」

「ああ、ドライヤーはそこらへんに置いといてくれ」


未来はドライヤーを置き、俺のことを見た。

ダボっとした上着にズボンの下を少しだけ折って穿いている。

自分の寝間着を異性に着せるって、なんか背徳感あるな。

まあ、フラれた相手なんだけどね。


「何かおかしいところでもある?」

「いや、無いよ」

「これからどうするの?」

「一度、俺の部屋に避難しよう」

「........わかった」


俺は廊下を見渡し人がいないことを確認する。

彼女を誘導しつつ、自分の部屋の前まで来た。

その時、誰かが階段を上ってくる音がする。

ヤバい!!!


「未来、早く入るぞ!」

「え?あ、ちょっと!!!」


俺は彼女の手を握って部屋に飛び込んだ。

無事に部屋に避難できた俺は安心する。


「ねぇ」


彼女が俺に呼び掛けてくる。


「何?」

「いつまで握ってるの?」

「ああ、ごめん!」


俺は急いで手を放す。

彼女はのぼせていたのか、顔が赤くなってる。

やっぱり体洗わずにすぐ避難すべきだったのかな?


「そうだ、まだ暑いでしょ?俺の部屋扇風機あるからつけるよ」


そう言って部屋を見渡すと俺は驚愕した。


「どこだ、ここ?」


俺の部屋のドアを開けて入ってきたはずなのに俺の部屋じゃなくなっている。

男の部屋って言うよりかは女の部屋のイメージが強い間取りになっていた。

インテリアも白やピンクのものが多く、青や黒が多い自分の部屋とは程遠いものだった。


「ここ、どこかわかる?」


俺は振り返り、彼女に聞いてみる。


「私の部屋」


彼女は短く呟いた。


「どうなってんだよ」

「私も入ったときビックリしたよ」


また沈黙が生まれる。


すると突然に扉が開く。


「未来~、いつまで拗ねてんだよ~、ご飯だぞ~」

「え、兄さん!?」

「あれ?元気じゃんって、うお!?知らない子がいるぞ?」

「いや、兄さんこれは違うよ」

「しかも君って未来に告ったのに無視された子でしょ~」


この人、傷口めっちゃえぐってくるな......。

まあ、本当のことだから何も言い返せないけどさ。


「って言うか、未来なんでこの子と服がペアルックなの~w」

「うるさいな!!!」

「おいおい、そんなに怒んなよ~」

「誰のせいだと思ってんの!?」

「この子の告白を恥ずかしくて逃げちゃって後悔してる誰かさんじゃないんですか~」

「ちょっとその口閉じろ、バカ兄さん!!!」


めっちゃ煽るな、この人........って、あれ?

逃げて後悔してる???

未来はめっちゃお兄さんを殴ってる。

それを紙一重で避けるお兄さんも凄いな。


「ずっと幸太郎君に嫌われた~って嘆いてたじゃん」

「マジで黙れ!!!」


未来の蹴りがお兄さんの股間にクリーンヒットする。


「マジで、そこはダメだって.........」


お兄さんは悶絶しながら倒れる。

男だからわかりますよ、そこのヒットはマジで痛い。

俺は賢者のようにお兄さんを見守っていた。

未来はそんな兄を蹴り飛ばして外に出し、部屋を閉めた。


「なんか凄いお兄さんだったね........」


彼女は突然座り込んで顔を隠すようにうずくまってしまう。


「だ、大丈夫!?」


俺も膝を曲げて彼女と目線を合わせる。


「今は見ないで」

「わ、わかったよ........」


俺はお兄さんの言葉を考えながら彼女が落ち着くのを待った。

さっきの話が本当ならば、俺の告白は失敗していたのではないのでは?

いやでも、本人から聞いたわけではないからお兄さんのでっち上げかもしれない。

俺はうずくまって顔を隠している彼女に語り掛けてみる。


「さっきの話って本当なの?」

「..........」


彼女はうずくまったまま何も答えなかった。


「嘘ならいいんだ、ごめんな」


俺は立ち上がりドアを出ようとする。

しかし、後ろから引っ張られた。


「嘘じゃない」

「え?」

「本当だよ、恥ずかしくて逃げちゃったのも、嫌われたって落ち込んでたことも」

「そうなの?」


彼女は顔を赤くしながらうなずいた。


「じゃあ、告白の返事聞いてもいいかな?」


彼女は立ち上がって俺の顔をまっすぐ見る。

そして頬にキスをした。


「これが私の返事だよ」


俺は体が暑くなる。

風呂のせいじゃないな、これは............。


途端に意識を失った俺が目を覚ました時には自分の部屋の布団の上だった。

時計の日曜日の朝十時になっている。


「何だ、夢落ちかよ........」


妙に生々しい夢だった気がする。

現実はそう上手くいかないよな。

俺は寝過ぎの影響か、重たい体を起こす。

大きなあくびを一回して、カーテンを開ける。

まぶしい光が差し込み、俺のことを照らした。

快晴の青空が俺は気まずかった。


部屋を出る。

階段を下がりリビングのドアの前までついた。

中から楽しそうな話し声が聞こえる。

どこいても気まずいな.......。

このドアを開けたら、また世界が変わらないだろうか?

まあ、そんなの夢だけの話だよな。


俺はゆっくりとドアを開けた。


「やっと兄貴が起きてきた」

「そうよ、いつまで寝てるのよ幸太郎」

「ごめん、不思議な夢を見てたんだよ」


妹と母親が俺を見て笑っていた。


「それ、私も同じ夢見てたかも」

「え!?」


なぜか未来がいる。

彼女は少し頬を赤らめながら俺を見ていた。


「な、なんで........」

「兄貴に借りた服を返しに来たんだよ」


紙袋にあの時貸した俺の寝間着が入っていた。


「あれって夢だったんじゃ........」

「私もそう思ったけど違かったみたい」

「じゃあ最後の告白は?」

「あれも現実だよ、多分ね」

「そうなんだ」


俺は腰が抜けて座り込んでしまう。


「ちょっと大丈夫!?」

「ああ、ごめん」


安心したら笑いがこぼれてきた。

彼女も俺につられて笑っていた。


本当に人生って何が起こるかわかんないな















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