第36話誘惑の多いゴミ拾い


「よーし!やるよ!結!」

「わかってる。気合入れるよ明日香。」

「ふ、ふたりともすごいやる気だね。」

「ご褒美のため!」

「アーンしてもらうため!」


ぼくたちは夏休みの宿題忘れの罰で、学校の近くにある第一公園に来ていた。ここでゴミ袋がいっぱいになるまでゴミ拾いをするのが、宿題を忘れた人への罰である。人によっては、面倒くさいと感じるかもしれないような罰だが、姉帯さんと新妻さんのやる気といったらもう、すごいものだった。今のふたりは、オーラが見えそうなほどやる気に満ちている。ゴミ拾いのご褒美として、パフェをふたりにアーンで食べさせてあげることになったのだが、どうやらそれでやる気MAXになったようで、嬉しいような気恥ずかしいような。


「とりあえず、ふたりとも怪我はしないように気を付けてね。」

「弟月くんこそ気を付けてね。危ないものは触らないように。」

「もし怪我しちゃったら、お姉さんにすぐ言ってね。」


こうして、他の生徒たちがやる気を出せない中、ぼくたち、主に姉帯さんと新妻さんは、素晴らしいやる気を発揮してゴミ拾いを始めたのだった。


「けっこう落ちてるもんだね、ゴミ。」

ゴミ拾いを始めてから数十分、姉帯さんと新妻さんのやる気のおかげもあって、ぼくたちは袋の半分くらいはゴミを拾っていた。普段は気にしないだけで、こんなにもゴミは落ちていたのかと少し驚く。

「あ、あんなところにも。」

植木の中に捨てられているペットボトルが木々の隙間から見えていた。拾いに行こうとすると姉帯さんに止められる。

「木で怪我しちゃうかもしれないから弟月くんはだ〜め、お姉さんに任せて。」

そう言って姉帯さんは植木に上半身を突っ込んでゴミを拾おうとする。

「ちょ、姉帯さん⁉︎」


今、姉帯さんは上半身を植木に突っ込んでいるので、こちらから見えるのは下半身だけ。しかも、屈んでゴミを拾おうとしているため、短いスカートの下から大胆にパンツが見えてしまっている。しかも、これ、T…


「姉帯さん⁉︎ぱ、パンツ見えちゃってるから!」

「え、どうしたの?それよりもう少しで届きそうなんだけど弟月くん、ちょっと後ろから押してくれない?」

ぼくの視点からはまるでお尻が喋ってるみたいに揺れていた。いったいどこを押せばいいのか、ていうかこのまま見てていいのだろうか。手で顔を覆いながら、しっかりと指の間から見ているぼく。


許してください。


目の前で揺れるお尻に放心していると新妻さんがやってきて姉帯さんのお尻を思い切り引っ叩いた!

「いったあああ⁉︎え、何⁉︎ 誰⁉︎」

「……。」バチーンっと無言でもう一度お尻を叩く新妻さん。

「ちょ、いた! ゆ、結でしょ、なんで叩いて、あ、いった⁉︎た、タイム!話し合おう!」

「弟月君を誘惑してんじゃないよ!」


容赦なくお尻を叩く新妻さん。姉帯さんのお尻が真っ赤になっていく。鬼のような人だ。結局仲裁に入るまで新妻さんは姉帯さんのお尻を叩いていた。


「い、いったぁ。お尻がヒリヒリする。」

「これに懲りたら弟月くんを誘惑するのは控えることね。「うぅ、弟月くん。お尻が痛いの、お姉さんのお尻撫でて。」

「うぇええ⁉︎お、お尻は撫でれないよ。」

「…もっと叩かれたいの?」

「も、もちろんジョーク。」

「だよね〜。」


新妻さん監視のもとにゴミ拾いを再開するぼくたち。先ほどの新妻さんの様子を見ては、否が応でも真面目にゴミ拾いに専念するぼくと姉帯さん。元からゴミ袋の半分ほどは拾っていたので満杯にするのにそれほどの時間はかからなかった。罰として始めたゴミ拾いだが、やりきった今はいい感じの達成感で満たされていた。いい事するって気持ちいい!


けど、それがいけなかった。ゴミ袋を閉じる直前で何やらゴミらしき物体を見つけたぼくは、迂闊にも軍手を外した状態で、そのゴミを拾おうとしてしまう。「痛っ⁉︎」どうやら捨てられていたのは缶詰で、触った際に縁で手を切ってしまったようだ。痛みを感じて手を見ると指から血が流れてくる。

「た、大変⁉︎弟月くん、指かして!」ぼくの怪我を見た新妻さんが慌ててぼくの手を取る。ちょっと切っただけだから、そんなに焦らないでいいのに。消毒とか持ってきてくれてるのかな。なんて悠長に構えていたぼくだが、次に新妻さんがした行動により、余裕は一瞬で消え去ることになる。


「ん…」ためらうことなく、新妻さんはぼくの指を咥えたのだ。そのまま口の中で傷からでる血を舐めとる新妻さん。指が舌で転がされる感触がし、なんとも言えない暖かさと、新妻さんがぼくの血を飲んでいるという、ありえない状況に、ものすごくイケない気分になってしまう。ぼくはあまりの状況にフリーズし、そのまま固まってしまう。

「ん、これでよし!あとは学校戻って消毒すれば大丈夫かな。」

「あ、あぅ。ぁりがとぅ。」

「ふふ、どうしたの弟月くん?顔が赤いよ。」



「結。」

「あ…」笑顔の姉帯さんが後ろにいた。目がまったく笑っていない。


「ちょっと頭、冷やそうか?」

「あ、明日香!待って、ちょ、助けてー⁉︎」


姉帯さんを怒らせてはいけない。切にそう思った。

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