第27話お披露目
「おじゃましま~す。」
「結ちゃんいらっしゃ~い、って元気ない?」
夏祭り当日
浴衣の着付けのため、先に一人で姉帯家にやってきた結。
その姿はどこか気だるさを漂わせていた。
「おはようございます、お姉さん。昨日寝れなくて…。化粧で隠したんですけど目の下のクマ見えてないです?」
「ん~大丈夫かな。それにしても楽しみで寝れなかったの?可愛いところあるじゃない。」
「やめてくださいよ。それより明日香は?」
「ゆ~い~。いらっしゃ~い。」
「うわ⁉ 明日香、クマすごっ⁉」
「いやぁ。昨日寝れなくてさ、化粧で隠すよ。」
「あんたら遠足前の小学生みたいね。」
「くっ…。」
「う、それよりお姉さん、浴衣は?」
今は寝不足など我慢すればどうでもいい、気になるのは浴衣だった。
今日は弟月くんに浴衣姿を見てもらう大切な日である。
「準備できてるわよ。車でたくさん持って来てくれてるから好きなの選んでいいって。」
「マジですか⁉」
「マジ。いっぱい持って来てくれてたよ。お友達さん、いい人だよねぇ。」
このご時世にとてもいい人がいたものである。
「あ、でも浴衣着たら写真撮って送ってだって。あの子浴衣姿の女の子の写真集めるの趣味だから。」
「え?なんすか、その趣味。」
「ただのいい人ではなかったかもねぇ。」
まぁ今更である。ふたりは弟月くんに見てもらうため!浴衣選びに精を出すのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ね、眠い。
昨日、夏祭りが楽しみ過ぎて、まったく眠くならなかったぼく。
なんだかウキウキした気分を落ち着かせるために深夜に散歩したり、帰ってから落ち着く音楽を聴いたりと、いろいろしているうちに、朝になっていた。
そしてお約束のように、日の出とともにやってくる眠気。
ほとんど眠りながら家族と朝食を食べる。
寝ているのか食べているのか自分でもよくわからなくなっていたが、今日は大事な夏祭りの日だ。
姉帯さんと新妻さんは浴衣の着付けがあるので、ぼくは時間をずらして姉帯さんの家に集合する予定だ。お昼頃までは気合で眠らないように過ごす。
そろそろいい時間になった頃、家族に友達と夏祭りに行くことを伝えると、一瞬固まってしまう我が家族。
その後、慌てた家族によって、いきなり着替えさせられるぼく。
眠気がすさまじく、されるがまま着替えさせられた。
自分がどんな格好をしているかもよくわからないまま背中を押され出発する。
その後は寝ているのか、起きているのか自分でもわからないままに姉帯さんの家を目指して歩くのだった。
ぴんぽ~ん
なんとか姉帯さんのお家にたどり着いたぼく。
楽しみ過ぎて寝れなかったなんて恥ずかしいので、シャキッとしようとするが、瞬時に眠気がきて姿勢が保てない。
眠気で倒れそうになったその時!
ぼくの眠気は一瞬で吹き飛ぶ…
「弟月くん、いらっしゃ~い!」
「ウチらの浴衣、どうかな?」
玄関を開けて現れたのは日本在中の女神だった。
つまりは浴衣を着た姉帯さんと新妻さんだった。
姉帯さんは綺麗な青地のアサガオの柄が入った浴衣を着ている。
浴衣を締めている帯の上に姉帯さんの大きな胸がしっかりと乗っているのがわかる。お尻のラインもわかり、日本の浴衣の官能的な一面をこれでもかというほど押し出しているようだ。
新妻さんは白地に淡い紫色の花柄の浴衣だ。金髪のサラサラヘアーは浴衣に合わせたようで、今日はアップにして後ろで結んでいた。そのため、白い綺麗なうなじがしっかりと見えている。浴衣からのうなじは反則級の破壊力だった。
ふたりともレトロ柄で普段とのアンバランスさがいい感じでギャップになっている。
ゴクリッ、と唾を飲み、ふたりを見るぼく。
ゴクリッ、と唾を飲み、ぼくを見つめるふたり。
?なんでふたりも僕を観察するように見ているのか…。
まぁどうでもいいか、今は浴衣の感想を言わなければ!
「ふたりとも浴衣かわ…」
ツーっと新妻さんは静かに鼻血をだしていた。
「⁉ ちょ、新妻さん!また血が出てるよ⁉」
慌てるぼくだったが、いきなり視界が暗くなる。それと同時にいい匂いのする巨大な柔らかい物に包まれた。こ、これは!
「弟月くん‼ 浴衣似合いすぎ!たまらんかわいい‼」
「んー!んー!」
「え?お姉さんのために浴衣着てきたって?もぉ弟月くんったら!お姉さん嬉しいな。」
「んぐ、あ、姉帯さん!落ち着いて!言ってない!」胸で窒息しそうだ。
一旦姉帯さんに離れてもらって自分の姿を確認すると、確かに浴衣を着ていた。
紺色でいたってシンプルな浴衣だ。
出発前に家族によって着替えさせられていたが、こうなっていたとは…。
眠かったからとはいえ、ここまで気にしなかった自分が恐ろしい。
「……。」カシャカシャ
無言でスマホを取り出し、写真を撮り始める新妻さん。
もちろん鼻から血は流れたままである。
「に、新妻さん!まずは血を、血を拭いて!」
「大丈夫、弟月くんの浴衣姿を後世にまで残すことのほうが大切だから。」
「いや、わけわかんないから!浴衣に血が付いちゃうからー!」
結局、ふたりが落ち着きを取り戻すまで、ぼくはふたりの浴衣姿について褒めることができなかった。
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