第26話遠足前の小学生
姉帯家でのお泊りから数日
明日はいよいよ、夏祭り当日だった。
友達と夏祭りに行くのが初めてのぼくは、楽しみすぎて落ち着かず、部屋をウロウロしていた。
明日はお祭りに行ったら何をしようか。
夏祭りなんて、小さい頃にお父さんとお母さんに連れられて行ったきりだ。
あの頃の様子を思い出す。
出店には美味しそうな食べ物がたくさんあった。
チョコバナナ、わたあめ、焼きそば、かき氷!
食べ物だけじゃない、くじのお店、射的のお店!遊んでみたいものがたくさんだ。
金魚すくい!ぜひやってみたい!
そして忘れてはいけないのが、花火だ!
お祭りのクライマックスには打ち上げ花火があげられる。夏の風物詩。観ないわけにはいかない。
まぁ、そんなに見たことはないのだが…。
だけど明日は別だ。友達との夏祭り、花火もしっかり楽しむぞ!
なんと言っても、明日は姉帯さんも新妻さんも浴衣を着てくれるそうだ。
姉帯さんのお姉さんの協力あってこその奇跡!
絶対似合うよ。
一見、姉帯さんのスタイルの良さと新妻さんの金髪は浴衣にはアンバランスに思えるが、逆にそれがいい!
そして出店の焼きそば、焼き鳥、あ、金魚すくいも…。
こうして思考はループしていく。
現在時刻は深夜零時を過ぎたところ。
テンションが上がっているせいか、まったく眠気がこない。
気分を落ち着かせるために、ちょっと外の空気でも吸ってこようかな。
こうして、寝れないとき特有の思考回路に陥りながら夏祭り前夜は過ぎていく。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
新妻家
「お母さん、私って浴衣似合うかな?」
「急になに?どうかした?」
鏡で何度も何度も姿を確認する。明日は弟月くんに最高の浴衣姿を見せたいんだけど…。
「明日の夏祭りで浴衣着るんだけど、初めてだから、似合うかな。」
「…男か。」
「なっ!なんで⁉」
「結、あんたって、その外見でそんなに初心だったの?」
「だってぇ、せっかく弟月くんに浴衣姿を見てもらうんだよ。もう、メロメロにしたい。」
母は何か気持ち悪いものを見るような顔をしていた。娘にしていい顔ではないだろ、それ。
「その弟月くんって、部屋に飾ってるジャージの子?」
「ジャージのことは、忘れてください。」
以前、雨に濡れた弟月くんへ貸したジャージを家宝にしていたところを母に見られたことがあった。
親に見られるといたたまれなくなる。早く忘れて欲しい。
「よっぽどその彼氏が好きなのね。」
「か、彼氏って⁉︎ もう何言ってんのよお母さん!やだー、弟月くんがか、彼氏って!も〜、えへへ。」
「我が娘ながらキモい。」
酷い親である。
「で、どんな子なの、その弟月くんって、いい子?」
「いい子だよ!弟月くんはねぇ。まず可愛いんだけど自分で自覚してないところがたまらないんだよね。それが余計に可愛さを引き立てるっていうかね。ほとんどの人は弟月くんの可愛いさには気付いてないんだけど、それは弟月くんの謙虚な性格が出てるってことでね。自分より人を優先しちゃう控えめなところがたまらないんだよ。前髪で顔があまり見えないっていうのも可愛さを隠してるポイントなのかもしれないね。まぁ可愛いだけじゃ弟月くんは語りつくせないんだ。なんと言っても優しい!私と明日香はね、弟月くんの女神様のような優しさに触れて世界の素晴らしさを知ったんだよ。私と明日香が見た目だけでタバコを吸ってることにされそうになったとき、弟月くんだけが私たちを庇ってくれた。人を見かけだけで判断しないで、しっかりと中身を見てくれているんだよね。今時の同年代にはそんな子は滅多にいないよ。絶滅危惧種だよね。その後から弟月くんとは一緒にいるようになったんだけど、そうするともっともっと弟月くんの優しさに触れることになったよね。日常の些細なことも気を遣ってくれるし、何より一緒にいると見せてくれるあの笑顔がね、もう最高で、見てるだけでとろける。この前なんて鼻血出てきたからね、私。でもそれも仕方ないよねぇ、あんな笑顔で一緒にいるのが嬉しいなんて言われたら鼻血くらい出るよ。可愛すぎ!あぁ~一生愛でたい。私の部屋に住んでほしい。ていうか一緒にいるのが嬉しいって弟月くんから言ってたんだから遠慮しなくてよくない?弟月くんは控えめだから私から誘ってあげないとだよね!そしてもうこれは、ずっと一緒にいたいと弟月くんが思っていてくれるということで間違いないでしょ。つまりは、結婚!結婚したいってこと⁉ ヤッバいテンションが上がってきた! おっと、弟月くんの優しさについて話をしてたんだっけ、ついつい脱線しちゃったね。話を戻そうと思うけど、やっぱり最初に私たちの馴れ初めの事件の話をしようかな。普段は優しい弟月くんの勇敢なカッコイイ姿、あれは今思えばレアだったなぁ。私のために教師に立ち向かう弟月くんの魅力を語っていくね。」
「あの、あの! もう大丈夫です。」ドン引きしたような母が無理やり話しを止めてきた。
「な、なんでよ。まだ弟月くんの魅力について半分も伝えられてないのに。」
「いや、ホントもう十分だから…。」
「遠慮しなくていいって、マジで。」
「遠慮してないし、ほらもう深夜だし。」
「全然眠くないから大丈夫よ!夜通し弟月くんの魅力について語ってあげるから。」
時刻は深夜零時過ぎ
こうしてまた一人寝れない夜を過ごしていく。
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姉帯家
「ねぇ明日香、明日は私も弟月くんと夏祭り行きたいな。」
「ダメでしょ。弟月くんに何するかわかんないじゃん。」
「ケチねぇ。浴衣の手配してあげたのに?」
「くっ、弱みを握ってくるとは卑怯な。」
弟月くんがウチにお泊りに来てくれた日から姉が弟月くんの話をすることが増えていた。
このままでは本当に着いてきそうで怖い。私のお姉さん属性が台無しにされてしまう。
「まぁホントは私も友達と約束してるから一緒には行けないんだけどね。」
「なんだ、そうなんだ。よかった。」
ほっと胸をなでおろす。お友達さんありがとう!
「あ!そうだ。みんなも一緒に弟月くんに会いに行かないか誘ってみようかな。」
「ちょ、ちょっと待って!みんなって?友達ってどんな人たち⁉」
「大学の友達だけど?」
「女?」
「全員女~。私と同い年。」
そうすると女子大学生がたくさん弟月くんに会いにくることになってしまう。
本物の年上がお姉さんがいっぱいいたら、私の立場が危ない‼
しかもこの姉の友達である。きっと派手な容姿の人たちばかりだ。
そういった面でもキャラがもろかぶりである。
「ぜ~ったいダメ!」
「え~なんでよ。」
「弟月くんのお姉さんは私なの‼」
「いや、違うでしょ。同い年だし。」
冷静な姉のツッコミ。細かいことを気にする姉である。
「女子大生でしょ、本物のお姉さんたちに弟月くんが夢中になっちゃったらどうすんのよ?」
「…確かに。それに、あいつらが弟月くんに夢中になってしまうこともあり得る。」
しばしの沈黙
「よし、弟月くんを紹介するのは止めよう!」
「それがいい!余計な女は増やさないでいい!あんただって余計なのに。」
「姉に余計とは、言うじゃない。浴衣、いいの?」
「浴衣の報酬は夏祭り中の弟月くん写真1枚でどう?」
「3枚は欲しいな。あと海の写真頂戴。」
「海は無理。夏祭り写真2枚。」
「海がダメなら3枚!」
こうして姉帯姉妹の談合により女子大生登場は阻まれた。
現在時刻深夜零時過ぎ。
この後も姉帯姉妹の談合は続いていくのだった…。
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