第七話 冒険者訓練所
ソプデアス行きの馬車に乗り込んだ俺は、ゴトゴトと揺れる荷台に二日間座り続け、三日目の昼前にようやくソプデアスの街へと到着した。
「癒しの女神よ、我が力を用いて、傷を癒したまえ、ライトヒール」
俺は馬車を下りてすぐ、治癒魔法を使った。
馬車での旅は過酷で、何度もお尻に治癒魔法を使ったものだ・・・それは他の乗客にも好評で、皆にかけてやると、お礼にとお菓子を分けてもらえた。
治癒魔法を使い、お尻の痛みがなくなったので、街へ入るための列へと並んだ。
「身分証の提示か、通行料銀貨一枚だ!」
俺の番が回って来て、門番がそう言って来たので、俺は冒険者カードを提示した。
冒険者カードは数日前にオルドレスから貰っていた、まだ冒険者見習いのFランクだが、訓練所を出るときにEランクとなって、冒険者として活動できるようになる。
「通っていいぞ!」
門番から冒険者カードを返却してもらって、街の中へと入って行った。
街に入ってからの予定は決まっている。
場所は馬車の中で知っている人に教えて貰っていたので、迷わずそこまで辿り着く事が出来た。
俺は暖簾を潜り、店内のカウンター席へと座った。
「豚骨ラーメン!」
「あいよ!豚骨いっちょう!」
ふぅ、ここに来るまで十二年も掛かっちまったぜ・・・。
でも、もう少しの辛抱だ!
マティルスに転生してから、ずっと食べたいと思っていたからな・・・。
アベルの料理が不味い訳では無いが、ラーメンは別だろう。
ラーメンが来るのを心待ちにしていると、楽しそうな声が聞こえて来た。
「美味いニャン!」
「うむ、たまにはこういう食べ物もよいの、あーっはっはっはっ!」
声がした方を見ると、テーブル席にメイドと、その主と思われる美少女が、ラーメンを美味しそうに食べていた、
ラーメン店にメイド服は似合わないが、ニャン♪ニャン♪と美味しそうに食べる姿は、周囲の者達も、食べるのを止めて見ているほどだ。
そして、ニャンニャンメイドの隣に座っている、金髪ゴスロリ美少女も、可愛らしい小さな口で、フ~フ~と麺を冷やしながら食べる姿は、見る者を癒してくれる。
あのような可愛らしい女性達とは、お近づきになりたいものだ。
それは周りで見ている、男性客たちも同じ気持ちの様だが。
ニャンニャンメイドと、金髪ゴスロリ美少女の対面に座っていて、どす黒いオーラを放っている執事がいるため、誰も声を掛けられないでいた。
執事はこちらに背を向けているので、顔を見る事は出来ないが、発せられる雰囲気から察するに、相当強いのではないかと思える。
「へい、おまちー!」
おっと、俺の豚骨ラーメンが来た様だ、女性に見惚れている場合では無いな。
カウンターにドンッと置かれた豚骨ラーメンには、当然の如く店員の指が浸かっていたが、そんな物いちいち気にしていたら、ラーメンなんて食えねぇ!
カウンターの筒の中に、置かれている箸を取り、紅しょうがを少し加えて、手を合わせた。
「頂きます」
先ずはレンゲでスープをすくって飲む。
「・・・美味い!」
豚骨のコッテリとしたスープがたまらない!
続いて麺を一口食べて見ると、あぁ・・・ラーメンだ!
麺を作るのには、かん水と言われる物が必要だという事は知っているが、それがどのような物なのかは全く知らない。
これを伝えた勇者は、相当な食通だったのだろう、改めて勇者に感謝しながら、ラーメンを食べた。
一度食べ始めたら勢いは止まらず、一気に食べてしまい、最後にスープを飲み干して、ラーメンを食べ終えた。
「ごちそうさまでした」
まだまだ食べたり無いが、他に行く所もあるし、何より手持ちが少ない・・・。
俺の所持金は、家を出る際に、両親から貰った銀板一枚しか無い・・・これで三年間生活しないといけない訳だが、食事は三食出るから食うには困らない。
下着とかを買う程度だが、無駄遣いは出来ないな。
お金を支払って、店内を見渡すと、ニャンニャンメイドと金髪ゴスロリ美少女は既にいなくなっていた。
縁が無かったという事だな・・・。
まぁこれからいくらでも可愛い女性と出会える機会はあるだろう。
気を取り直し、ラーメン店を出て、魔道具店を探した。
シャルから預かった手紙を渡さないといけない・・・。
しかし、通りを歩いていると非常に誘惑が多い!
ハンバーガー、お好み焼き、ドーナツ、から揚げ、カレーライス・・・。
ハンバーガーくらいなら食べてもいいかな・・・いやいやいや、無駄遣いしていてはいけない。
自分で稼げるようになるまで我慢だ・・・。
何とか誘惑に打ち勝ち、目的の魔道具店の看板を見つけた。
「ミュラ魔道具店」
手紙を届ける相手の名前が、ミュラテールだから、恐らくこの店で間違いないだろう。
店内に入ると、店員のお姉さんが元気な声で迎え入れてくれた。
「いらっしゃいませ」
「すみません、マティルスと言う者ですが、ミュラテールさんと言う方はいらっしゃいませんでしょうか?」
「店長ですね、少々お待ちください」
そう言うと、店員のお姉さんは、イヤリングを触っていた。
あれは何かの魔道具だろうか、あまり見るのも失礼だろうから、カウンターに置いてある商品に目を向けて見た。
(勇者考案!鑑定の魔導具!敵の強さが一目でわかる四色表示方式!
赤色 危険!直ぐ逃げろ!
黄色 注意が必要、命を大事に!
緑色 皆で頑張れば勝てる!
青色 ガンガン行こうぜ!
特別価格 たったの銀貨一枚!)
・・・・・・。
アベルに現物を見せて貰っていたが、実際に売られているを見ると、更に悲しくなってくるな・・・。
そして勇者考案か・・・食文化を伝えてくれた事には感謝するが、鑑定の魔道具は作って欲しくは無かったな・・・。
俺がビショップで無ければ、喜んでいただろうと思うと、複雑な心境だが。
そう思っていると、カウンターの奥の扉が開き、髪の毛がぼさぼさで、汚れた作業着を着た女性が出て来た。
「あんたが、アベルとシャルの子供かい?」
「はい、マティルスと言います」
ミュラテールは俺の事をジロジロみて観察していた。
「ふーん、あの二人の子供にしては、やけにおとなしいじゃないか、それで何の用だい?」
俺は慌てて鞄から手紙を取り出した。
「母より、この手紙を預かって来ました」
ミュラテールは俺から手紙を受け取ると、その場で封を開いて読み始めた。
「・・・・・・なるほど」
ミュラテールは手紙を読み終えると、商品棚の方へと向かい、何か持ってカウンターへと戻って来た。
「シャルが、あんたにこれを渡してくれってさ」
ミュラテールに箱を渡され、受け取って中を開けて見ると、真珠のような丸い球のついたイヤリングが片方だけ入っていた。
「これは?」
「それは、念話の魔道具さ、金板二枚する物だから、無くすんじゃないよ!」
金板二枚だって!そんなお金持ってないんだけど・・・。
「お金持ってませんので、お返しします」
「心配するんじゃないよ、シャルが払う事になってる、どうしても嫌だと言うのなら、稼いでシャルに返してやるんだね」
ミュラテールはそう言って、俺が返そうとした魔道具を受け取ってはくれなかった。
「そうします・・・しかし、どうして母はこんな物を私に?」
「あんたの事が心配なのさ、その魔道具は念話で伝えたい相手も持っていないと話せないのさ、使い方は耳に付けて話したい相手を思い浮かべればいい、だからこの後にでも無事街に着いた事をシャルに報告してやるんだね!」
「分かりました、そう言う事ならありがたく頂いておきます」
「ところで、あんたはこれから訓練所へ行くのかい?」
「はい、三年間お世話になります」
「そうかい、その指輪を付けている所を見ると、アベルに相当鍛えられた様だね・・・」
ミュラテールは俺が付けている、弱体の指輪を見てそう言って来た。
「この指輪がどういう物なのか、ご存じなのですか?」
この呪いの指輪は、鑑定しただけでは、魔物に使う弱体の指輪としか分からないから驚いた!
「そりゃあ私が作った物だからよく知ってるよ。
その指輪は普通の人が付けると、立っている事すら出来ないからね」
この呪いの指輪を作った人だったか・・・。
「これも売っているのでしょうか?」
「まさか!そんな馬鹿みたいな物売れる訳無いね、それを付けて冒険をしていたのは、アベル達のパーティ以外いないだろうよ」
そうだよね・・・命のかかった冒険なのに、自ら体力を十分の一にしようだなんて誰も思う訳無いよな。
それを付けさせられている俺って、ミュラテールから見れば、相当馬鹿に見えるのだろうな・・・。
「だがまぁ、そんな物でも付けて鍛えない事には、上を目指せないのかも知れないね、まぁ死なないように頑張りな!」
ミュラテールはそう言ったが、俺は別に上を目指すつもりは全く無い・・・。
「はい、ありがとうございます。
話は変わりますが、三年後に弟のロティルスがお世話になるかも知れません、その時はよろしくお願いします」
「あぁ、手紙にも書いてあったよ、私にも弟子が出来るのは嬉しい事だね、楽しみにしてると、シャルに伝えておくれ」
「分かりました、では失礼します」
「必要な物があったら買いに来ておくれ、多少はまけてやるよ!」
ミュラテールさんに見送られながら店を出て、念話の魔道具を耳に付けた。
先ずは心配しているシャルに、連絡を入れないといけない。
シャルを思い浮かべて、イヤリングの魔道具を触る・・・。
『ママ、聞こえますか?』
『マティー、無事街に辿り着いたのね』
『はい、無事辿り着き、魔道具を頂きました』
『良かったわ、これから困った事があったらいつでも連絡して来なさいね』
『はい、分かりました』
『困った事が無くても、連絡して来るのよ』
『はい、分かりました』
『それから・・・』
『ママ、これから訓練所に行きますので、着いたらまた連絡します』
『そうね、街には泥棒がいるから、注意するのよ!』
『はい』
ふぅ、俺はもう子供では無いのだから、そこまで心配して貰わなくても大丈夫なのだが、親と言うのはそう言う訳には行かないのだろうな・・・。
生前の親も似たような感じだったから、気持ちは分からなくは無いが・・・。
さて、本来の目的地である冒険者ギルドへ行くとしよう。
歩く事数分、冒険者ギルドは簡単に見つける事が出来た。
俺はドキドキしながら中に入って行った。
ギルドの中は、冒険から戻って来た人達がいて結構賑わっていた。
受付には巨乳のお姉さんがいるのを発見し、俺は迷わずそこに向かった。
「すみません、冒険者訓練所へ行きたいのですが・・・」
「はい、冒険者カードはお持ちでしょうか?」
「これです」
俺は冒険者カードを巨乳のお姉さんへと渡した、やはり結婚するならこれくらい大きな女性で無いといけないな。
「マティルス君ですね、こちらが訓練所の説明書となります、文字が読めないようでしたらご説明いたします」
「いえ、読めますので大丈夫です」
巨乳のお姉さんから説明書と冒険者カードを受け取った。
あっ、読めないと言って説明して貰えば、この巨乳のお姉さんと暫く一緒にいられたのではないかと思ったが、後の祭りだな・・・。
「訓練所の宿泊施設は、奥の通路を通った所にありますので、またそちらで冒険者カードを提示して、部屋の鍵を受け取って下さい」
「分かりました」
「では、頑張って下さいね」
巨乳のお姉さんに笑顔で見送られて、奥の通路へと向かって行った。
通路を抜けた先には、太ったおばさんが待ち構えていた。
「すみません、訓練所の宿泊施設はこちらでしょうか?」
「そうだよ、新入りだね、冒険者カードを見せな!」
「はい」
冒険者カードをおばさんに見せると、ニヤッと笑われた・・・。
「ビショップかい、珍しいねぇ、まっ、どんな職業でも頑張り次第さ!
じゃぁ、ここでのルールを説明するよ!
部屋の掃除、洗濯は自分でやる事!
食事は一日三回、どれだけ食べても構わないが、残した場合銅板一枚貰うよ!
シャワーがあるから、毎日入る事!
部屋の鍵は必ずここに返す事、無くしたら銀貨一枚だよ!」
おばさんは、まくし立てる様に話すと、部屋の鍵を渡して来た。
「今日から三年間、あんたの部屋だ、大事に使いな!」
「はい、分かりました」
おばさんから受け取った鍵には、二十八と番号が記されていた。
二十八だから二階だろう、おばさんがいた所の横にある階段を上がって、二階へと上がった。
部屋の扉が並んでおり、扉には大きく番号が記されていた。
これなら文字を読めない人でも、部屋を間違う事は無さそうだな。
俺は二十八と書かれた扉の前へと行き、鍵を回して扉を開けた。
部屋の中にはベッドが一つと、小さなテーブルに椅子が一つ置かれているだけの、狭い部屋だった。
まぁ一人で生活するには十分かな。
先ずは窓を開けて空気の入れ替えだな・・・。
窓を開け、そこから見えるグランドでは、大勢の人達の訓練している様子がうかがえた。
俺も明日からは、あの場で同じように訓練する事になるのか・・・。
冒険者となるため訓練を行う事に異存は無いが、この呪いの指輪がな・・・。
しかし、アベルが俺に、冒険者になってから死なない様にと渡してくれた物だからな・・・俺は死にたく無いから、これを付けて頑張るしか無い。
さて、背負っていた鞄を置き、椅子に座って説明書を読む事にした。
冒険者訓練所は、学校とは違い、皆ここに来る時期が同じでは無いので、自分に合った訓練を自由に受けていい様だ。
特に訓練を強要するような事は書かれてはいない。
訓練を行うも行わないも、自己責任という事なのだろう。
三年間訓練を真面目にやらなかった場合は、冒険者になってから苦労をする、もしくは早々と死ぬ事になるのだろうからな。
訓練形態は・・・。
午前を二分割、午後を二分割されていて、それぞれ好きな科目を自由に受けていい様だ。
科目の種類は、剣、槍、鈍器、斧、短剣、弓、格闘、基礎体力、攻撃魔法、治癒魔法等の冒険者として基本の戦い方の訓練だな。
学科の方は、文字の読み書き、地理、歴史、世界情勢、魔物知識、サバイバル知識、料理となっている。
やはり料理は重要という事だな、アベルに教わって置いてよかった。
俺が受ける必要がある物は・・・基礎体力、攻撃魔法、治癒魔法だ。
魔法は毎日欠かさずやりなさいと、シャルから言われているので外せない。
後は学科を一つ入れて終わりだろうか・・・剣もやりたいが、呪いの指輪のおかげで動きが普通の人以下なので、この状態で普通に動けるようになるまでは出来ないだろう・・・。
午前は基礎体力、攻撃魔法を受けて、午後から治癒魔法、学科と言う感じにするか。
学科はどれも、一ヶ月で終わる様だから、文字の読み書き以外を受けて行く事にしよう。
取り合えず、訓練所にいる間の目標を決めておくか・・・何も決めないとやる気が起きないからな。
とは言え魔法は習得済みだし、剣も自分を守れる程度には使える。
まぁアベルとシャルに勝ててはいないが、元Aランクの冒険者だから勝てなくて当たり前だろう。
となると、今は呪いの指輪で常人以下の運動能力になっているから、これを常人の倍動けるようになることを目標にしよう!
魔法の方は初級魔法を延々訓練するだけだから、毎日欠かさないようにするだけでいい。
よし、明日からやる事は決まった、少し早いが夕食にしよう。
この呪われた状態では、歩くだけでも大変で、今日は結構歩いたから、お腹がとても減っている・・・。
部屋を出て鍵を閉め、一階へと降りて、おばさんに食堂の場所を聞く事にしよう。
「すみません、食堂はどちらにあるのでしょう?」
「一階の奥にあるよ、その隣がシャワー室だ、混雑しないうちに入りな!」
「ありがとうございます」
先に汗を流した方が良いか。
俺は一度部屋へと戻り、着替えを持ってシャワー室へと向かった。
シャワー室の中に入ると、まだ訓練が終わっていなかったので、誰もいなくて貸し切り状態だ。
脱衣所にシャワーの使い方が書いてあるな・・・。
何々、シャワーの根元にある魔石に魔力を流すとお湯が出ます。
魔導具なのか!
今までお湯は、シャルが桶に魔法で水を貯めて、そこにファイヤーボールをジュッ!っとやって作ってた。
最近は俺もやらされていたが、魔力を流すだけでお湯が出て来るのは便利でいいな・・・。
家に無かったという事は、高いんだろうな・・・将来自分の家を持つ事になったら、高くてもこれは設置したい物だ!
脱衣所で服を脱いでシャワー室に入ると、中は三十か所ほど板で仕切られていて、その一つに入った。
生前にもあったシャワーが壁にかかっていて、魔石が埋め込まれていた。
これで魔力を流せばいいんだな・・・。
俺は魔石に魔力を流すと、勢いよく上からお湯が出て来た。
「あ~、これは便利でいい!」
俺は気持ちよくシャワーで汗を流し終えた。
着ていた服を部屋に置いて、食堂へとやって来た。
食堂はバイキング形式になっていて、好きなだけ食べていい様だな。
だから残すと罰金が科せられるのか。
パンと肉炒めにサラダを大盛りに皿に盛り付け、席へと座った。
「頂きます」
肉炒めを一口食べてみる。
悪く無い味付けだ、アベルのより少し落ちるが不味くはない。
俺が食事を続けていると、訓練を終えた人達が次々と食堂へと入って来た。
やはり体格が良い者が多いな、魔法使いと思われる人達でも引き締まった身体つきをしている者が多い。
俺は食事を終え、食器を下げて、食堂を出ようとすると、掲示板がある事に気が付いた。
数人の人達が掲示板を眺めているから、何か重要な事が書かれているかも知れないと思い、俺も掲示板を覗いてみた。
そこには、もう直ぐ訓練所を出て行く人達が、パーティメンバー募集をしている様だった。
俺にはまだ関係無い事だが、募集している職種が何なのか気になって見ると・・・。
殆どの職業が募集されているが、中でも治癒師と盗賊の募集が一際多かった。
冒険をするに当たって、それぞれの職業の役割があり、どの職業も重要なのだが。
治癒師はいた方が良いとされる職業だ。
いなくても、回復薬を多めに持ち歩けば何とかなるのだろうが、それだと荷物が増える事になる上に、回復薬の値段も高い。
特に冒険者になりたての者達にとって、回復薬等大量に用意で来る物でも無いので、治癒師は必要不可欠だろう。
治癒師よりも、更に必要なのが、盗賊だ。
盗賊と言っても、盗みを働く者達の事では無く、敵感知能力に罠解除などの能力を持った者だ。
盗賊がいないパーティだと、常に魔物の襲撃に警戒しながら歩く事となり、非常に疲れる上に、魔物から奇襲を受けやすくなる。
そうなってしまえば、パーティは危険な状況に追い込まれる事になるから、盗賊なしのパーティは自殺行為だと言ってもいい。
掲示板をざっと見渡した感じ、当然ビショップの募集は無い・・・まぁ俺が入れるとしたら、治癒師がどうしても確保できないパーティと言う事になるだろう。
回復魔法は一応中級までは使える、上級魔法が無くて困るのは、部位欠損を治せないと言う事だけだ。
他の状態異常も治癒出来るから、そこだけ我慢して貰えれば、治癒師の代わりとしてやって行けそうだ。
しかし、それは三年後の事だし、食堂に人があふれ出して来た事から、部屋に戻る事にした。
部屋に戻り、ベッドの上で横になった・・・。
「ふぅ~」
少し早いがこのまま寝てしまおうか・・・。
二日間の馬車の旅で疲れたのもあるし、何よりこの呪いの指輪のおかげで、普通に歩いているだけで疲れる・・・。
俺は目を閉じ、眠る事にした・・・。
翌朝、まだ夜が明けていない時間帯に目が覚めた。
今までこの時間に起きていたから、習慣となっている。
ここにはアベルがいないので、このままベッドで惰眠を貪っていても叩き起こされる事は無いが、そんな甘い考えでは冒険者になった時に死んでしまうだろう。
俺はベッドから飛び起き、部屋に鍵をかけて一階に降り、グランドに出た。
まだ暗いグランドには、流石に誰もいない。
俺は今まで通り走る事にした。
しかし、呪いの指輪のせいで、全力で走っているにもかかわらず、速度は六歳の頃と同じか、それ以下では無いだろうか・・・。
心なしか、疲れも早く溜まって行く様な感じがする。
「はぁはぁはぁ・・・」
空が白み始めた頃には、息も上がり、その場に倒れ込んでしまった・・・。
これは思ってた以上に大変だぞ。
この呪いの指輪を外せば、楽になるのは分かってはいるが、外すとアベルに負けた気がするので意地でも外さない!
俺は気合を入れなおして立ち上がり、部屋に戻る事にした。
宿泊施設に入ると、おばさんはカウンターに立っており、外から入って来た俺を睨みつけた。
「どこ行ってたんだい!」
「おはようございます、グランドで走っていました」
「ふーん、それならば構わないよ」
勝手に出歩いてはいけなかったのだろうか・・・特に外出禁止とか説明書には書かれていなかったと思ったが。
まぁおばさんは構わないと言ったから、単に気になって聞いただけだろう。
それより洗濯できる場所を聞かないといけない。
「すみません、洗濯は何処でやって、何処に干したらいいのでしょう?」
「洗濯はシャワー室でやっておくれ、それと干す場所は無い、部屋に糸が張ってあるはずだから、そこに書けて干しな!」
「分かりました」
「朝食の準備がまだだから、今の内にやっておくんだね!」
「はい、ありがとうございます」
走って汗もかいたし、シャワー室に行く事にしよう。
朝からシャワーとは何と贅沢な事だ!
俺は部屋に戻って洗濯物と着替えを持ってシャワー室へと向かった。
朝食もまだだという事で誰も起きていなく、シャワー室もまた貸し切り状態だ。
毎朝、この時間帯に洗濯する事にしよう。
子供の頃から、洗濯はやらされ続けて来たのでお手の物だ。
しかも自分の分しか無いから、すぐに終わって楽だった。
部屋に戻り、張ってある糸に洗濯物を掛けて行く。
部屋干しとなるが、窓を開けていれば大丈夫だろう。
シーツは窓枠にかけて干し終わった。
廊下の方が騒がしくなってきたので、皆起きて食堂へと向かっているのだろう。
俺も遅れない様に食堂へと向かった。
途中おばさんに他の皆が部屋の鍵を預けていたので、俺もおばさんに部屋の鍵を預けた。
食堂へと入って行くと、既に沢山の人で賑わいを見せていた。
食事を取る列へと並び、暫くして俺の番がやって来たので、少し多めに皿に盛って行った。
今朝走った感じで、訓練は相当厳しい物になると思われるので、しっかり食べておかないといけない。
空いている席へと座り、食べる事にした。
「頂きます」
周りの人達も、皿に大盛りにした朝食を食べていた。
やはり、量を食べておかないと持たないという事だろう。
朝食を食べ終えて、食器を下げ、グラウンドへと出て行った。
まだ訓練は始まっていない様だが、それぞれ訓練する武器を持って集まっている所だ。
基礎体力の訓練場所は・・・あの場所かな。
グラウンドの隅の方に、武器を持たない人たちが十名ほど集まっていた。
俺はそこへ行って声を掛けて見る事にした。
「すみません、ここは基礎体力を訓練する所でしょうか?」
「そうだ、俺がお前らを鍛えてやるエドワードだ、新入り、冒険者カードを見せろ!」
「はい」
スキンヘッドの筋肉マッチョなおじさんが、俺を見てそう言って来た。
「ふんっ、魔法職だろうが戦士職だろうがここでは関係ない!
お前達を徹底的に鍛え上げてやるから、覚悟しろよ!」
スキンヘッドは凄みを利かせて集まっている者達に言っているが、俺以外は初めてでは無い様なので平然としていた。
俺もアベルに比べれば、スキンヘッドの凄みなどどうと言う事は無い。
「では早速訓練を始める!
そこに置いてある鞄と武器を持ち、グランドを走れ!」
えっ、走るのは分かってはいたが、鞄と武器とは・・・俺がもたもたしていると、スキンヘッドに怒鳴られた。
「新入り!お前は魔物を狩りに、武器と食料を持たずに行くつもりか!さっさと準備をして走れ!」
「はい!」
確かに、装備を持たないで行く事は無いな・・・。
俺は置いてある鞄を背負い、刃引きがしてある剣と杖を持って走り始めた。
しかし、何も持たない状態で走るのも辛かったのに、鞄の中には重しが入っている様でとても重く、早歩き程度の速度しか出ていなかった・・・。
「新入り!貴様それで冒険者になるつもりか!もっとまじめに走れ!」
スキンヘッドに後ろから怒鳴られてはいるが、これで全力で走っているのだ。
真面目に走れと言われても、無理と言うものだ。
その後もスキンヘッドに怒鳴られ続け、他に訓練していた者達にも何回も追い抜かれながらも必死に走り、訓練の終わりを告げる鐘が鳴り響いた・・・。
「はぁはぁはぁ・・・」
俺は倒れはしなかったものの、剣と杖で体を支えて立っているのが精いっぱいだった。
「よし、今日はここまで!新入りはそのままでは冒険者になれれないから毎日ここに来い!」
「はい、よろしくお願いします・・・」
俺は鞄と剣と杖を所定の位置に下ろし、その場に座り込んだ。
正直今にでも全てを投げ出して逃げ出したい気持ちだ・・・しかし、せっかく転生して人生やり直せているのに、ここで諦めては何にもならないな。
俺は立ち上がり、ふらふらしながら次の訓練へと向かった。
攻撃魔法の訓練所は、先程走りながら確認しているが、体力が尽きている状況でまともに呪文を詠唱できるか怪しい物だ・・・。
魔法を使うこと自体に体力は関係しないが、二時間以上も立ち尽くして呪文を唱え続ける事となると、やはり体力が必要だ。
時間をかけて攻撃魔法の訓練所へと着いた・・・。
「・・・すみません・・・攻撃魔法の訓練を・・・受けさせて・・・ください」
俺は教官と思われる、魔女のような帽子とローブ姿の女性に声を掛けた。
「貴方大丈夫なの?」
「・・・はい」
マルグレットは、今にも倒れそうな俺を覗き込んで心配そうにしていたが、俺が頷いた事で訓練を受けさせてくれるようだ。
「そう・・・私はマルグレット、貴方は初めて見る顔ね、冒険者カードを見せて頂戴」
俺は冒険者カードをマルグレットに渡した、マルグレットはそれを見て一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに元の表情へと戻り冒険者カードを返してくれた。
「貴方、魔法は使えるのかしら?」
「・・・はい・・・初級魔法だけ・・・ですが」
「そう、それなら、魔力が尽きるまで的に向かって撃ち続けなさい!」
「・・・分かりました」
俺はまだふらふらした足取りで、的の前に立った。
周りにいる他の人達は、既に訓練を始めており、中級や上級魔法を次々と派手な音を立てて撃ち出していた。
「す~は~、す~は~」
俺は深呼吸して息を整えた、足の筋肉はプルプルと痙攣しているが、立っているだけなら何とかなりそうだ。
呼吸も落ち着いて来た・・・よし!
「全ての命の根源である水よ、我の元に集いて氷結し、氷の刃となりて敵を撃て!アイスショット!」
いつもと同じように、俺の前に氷塊が出来、的へと飛んで行った。
ふぅ~、行けそうだ・・・周囲の人達は、俺が初級魔法を使った事で、見下したように笑っていたが、周囲からそう見られる事は分かっていた事だから気にしない。
その後も俺は、使う属性を変えながら、初級魔法を時間いっぱいまで唱え続けた。
他の人達は、一時間もしないうちに魔力切れで休憩していたが、俺は今までもシャルに鍛えられて来たし、魔力消費が低い初級魔法だから、まだまだ魔力に余裕はあった。
午後の治癒魔法の訓練も問題無く行えるな。
しかし、その前に昼食を食べて、体力を回復しないといけない。
そう思って食堂へ向かおうとしていた所、マルグレットに呼び止められた。
「貴方、ちょっといいかしら?」
「はい、何でしょうか?」
「もしかして、炎滅の子供なのかしら?」
「はい、母の事をご存じなのでしょうか?」
「えぇ、知っていますよ、冒険者で彼女の事を知らない人はいないでしょう、それで先程の訓練も彼女からの指示ですか?」
「はい、駄目だったのでしょうか・・・」
やはり、初級魔法のみの訓練と言うのはいけなかったのだろうか・・・。
「いえ、それならば問題ありません、周りは貴方の事を馬鹿にするかも知れませんが、そのまま続けてください」
「分かりました」
「呼び止めてごめんなさいね、昼食を食べて午後からの訓練に備えてください」
「はい、では失礼します」
マルグレットと別れ、食堂へと向かった。
俺も出来る事なら、上級魔法を使って魔法の威力に酔いしれたいと思うが、ビショップという事で上級魔法は使えないし、何よりシャルから初級魔法の有用性を教えられてからは、そんな事は思わなくなった。
ビショップの時点で、周りからは冷ややかな目線で見られる事は、職業判定でビショップと出た時から知っていて、今更気にはしない。
食堂へ着いたのが遅かったので、中は大混雑していた。
学食もこんな感じだったのを思い出しながら列へと並び、食事を食べ終えた頃には、次の訓練が始まる時間帯となっていた。
俺は慌てて次の治癒魔法の訓練所へと向かって行った。
場所は食事中に近くにいた人に、食堂を出て真っすぐ進めばあると教えて貰っていた。
ここだな、治癒魔法訓練所と札が掛けられている部屋へと入って行った。
「失礼します」
中に入ると既に数名の治癒師と思われる人達が、椅子に座っていた。
俺も空いている席に座ると、部屋に法衣を着た美しい女性が入って来た。
ギリギリ間に合って良かった。
「これより治癒魔法の訓練を行います、初めての方がいる様ですね、冒険者カードを見せてください」
「はい」
法衣の女性が俺を見てそう言って来たので、立ち上がり、冒険者カードを見せに行った。
「マティルス君、私はナディーネ、治癒魔法を教えております。
マティルス君は、治癒魔法を使えますか?」
ナディーネは優しく微笑んで俺に尋ねて来た。
「はい、初級魔法だけですが使えます」
「分かりました、では手を出して頂けますか?」
俺は手を差し出した、この後何が行われるかは知っているので、歯を食いしばった!
ナディーネは優しく微笑んだまま左手で俺の手を掴み、右手に持ったナイフを俺の手に突き刺した!
「グッ!」
治癒魔法の訓練だから当然、傷を癒す必要がある、その為に自分を傷付けて訓練するという事は、シャルからやられていたので慣れてはいるものの、やはりナイフで刺されると涙が出るほど痛い・・・。
「よく我慢しましたね、では自分で治癒魔法を掛けてくださいね」
ナディーネは俺の微笑みかけて、他の人の所へと向かった。
とにかく治癒魔法を掛けないと、手から流れ出る血が止まらない・・・。
しかしここで慌てては、呪文に失敗してしまう。
気持ちを落ち着かせ、痛みを我慢して呪文を唱える。
「・・・癒しの女神よ、我が力を用いて、傷を癒したまえ、ライトヒール」
呪文を唱えると、ナイフで刺された傷は、一度で跡形もなく消え、痛みも無くなった。
俺が上手く行った事に安堵していると、他の人達も同じ様にナイフで刺して来たナディーネが俺の所に戻って来た。
「ウフフ、あの傷を一度のライトヒールで癒すとは、素晴らしいですね」
「ありがとうございます」
俺は褒められて喜んだが、ナディーネの目が怪しく光ったように見えた・・・。
「マティルス君、次は両手を出してください、貴方にはもう少し難易度を上げた方がよろしい様ですからね」
「・・・はい」
俺は微笑むナディーネに両手を差し出すと、ナディーネはためらい無く俺の両腕を刺して、上機嫌でまた他の人の所へと向かって行った。
ナディーネは人を刺すのが趣味なんじゃないだろうか・・・。
一抹の不安を覚えるが、それより両手を刺されて、大声で泣き叫びたいほどの激痛が両腕から頭に突き抜けて来る。
だが、この訓練は、シャルにも言われたが、どんな状況に置かれても、正確に呪文を唱えるには必要な事だ。
と頭では分かってはいるのだが、誰も好き好んでナイフで刺されたいとは思わないだろう・・・。
取り合えず片腕ずつ治療して行こう。
「癒しの女神よ、我が力を用いて、傷を癒したまえ、ライトヒール」
・・・。
両腕を無事治療し終えると、目の前に微笑んだナディーネが佇んでいた・・・。
俺が黙って両腕を差し出すと、ナディーネは良く出来ましたと言わんばかりの笑顔を見せ、また両腕を今度はさらに深く突き刺して行った・・・。
他の人達は、傷の痛みでなかなか上手く呪文を唱えられない人もいた様だが、俺はシャルに散々鍛えられていたので、順調に治癒して行き。
ナディーネに時間が終わるまで、両腕をナイフで突き刺され続ける事となった・・・。
治癒魔法の訓練が終わった頃には、俺はぐったりと疲れ果ててしまっていた。
肉体的には治癒魔法で回復するから問題は無いのだが、ナイフで傷つけられた痛みで疲弊した精神は、癒される事が無いからな・・・。
部屋を出る際、ナディーネに毎日来てくださいねと、笑顔で言われたが、正直二度と来たく無いと思ってしまった。
しかし、毎日訓練をするようにシャルから言われている為、さぼる訳にはいかないのだが・・・。
最後は学科だな、学科と言えば食堂に一週間分の表が張り出されていて、この時間は魔物知識と地理だった。
一週間はほぼ同じ時間帯に同じ学科だったが、来週になるとまた変わるかも知れないから注意が必要だな。
出来るだけ同じ学科を続けて受けたい、取り合えず地理からだな。
学科が行われる部屋へと入ると、数名しか席に着いてはおらず、ガランとしていた。
冒険者になるために必要な事とは言え、誰も勉強なんかやりたく無いよな・・・。
俺も勉強は好きでは無いが、訓練よりはましだろう。
席に座って待っていると、白髪の爺さんがやって来て授業を始めた。
教科書など無く、大きな地図を壁に張り、それを指しながら爺さんが説明して行くだけだった。
これは非常に眠くなるな・・・普通に地図を買って自分で覚えた方がいいような気がして来た。
人が少ない理由も分かるな、とは言えこの時間は座って起きていないと不味いだろう・・・。
睡魔と戦いながら、何とか学科の時間を乗り切る事が出来た・・・。
訓練一日目を無事終える事が出来た・・・。
これを三年間続けるのかと思うと、既にやる気が無くなってきてはいるが、冒険者になるためには頑張るしかない!
大混雑するシャワーと食事を終え、疲れ果てた俺はベッドに横になるとすぐ眠りについた・・・。
訓練を始めて一ヶ月経つ頃には、周囲の人達の状況を見る余裕も出て来た。
男女比は、男性七、女性三くらいで、女性の殆どは魔法職だった。
中には筋肉マッチョな女性が剣を振り回している姿を見かけたが、そう言う女性は少数派だ。
俺も魔法職なので、女性とお近づきになれる機会が大いにあるのだが、俺は全く相手にされていなかった。
それもそのはず、この一ヶ月で俺はこの訓練所の最底辺に位置していたからだ。
基礎体力も無く、初級魔法しか使えないビショップでは、女性だけでは無く男性にも相手にされないからな・・・。
それに訓練所にいる冒険者見習いの人達の半数以上が、鑑定の魔道具を身に着けていたから、訓練の結果を見ずとも、俺が他人より劣っている事は明白だろう。
本当に人を見る目がある人がいるのかと、アベルに問いただしたい気持ちでいっぱいだ。
とは言え、俺にも話しかけてくる人も少数ながらいる事は救いだった。
まぁ、俺と似たような境遇の者達が集まっているだけだが・・・。
毎日顔を合わせて声を掛けてくれる、盗賊のシグリッド、通称シグは、俺と同じ基礎体力訓練で俺の次に足が遅い奴だ。
まぁ俺がぶっちぎりで遅いから、普通の人より劣っている程度で、俺は彼の文句の捌け口になっている感じだ。
「ワイは盗賊やから、こんな重い物背負って、冒険する訳ないやろ!」
実際先頭近くで、敵の気配を探る盗賊は、重装備で冒険には行かないと思うが、体力が無いと逃げ遅れてしまうのは間違いない。
その事をシグも分かっているので、毎回文句は言っているが、ちゃんと訓練には参加している。
もう一人は、シャワー室で洗濯に困っていた剣士のパトリック、通称リックは、俺が洗濯のやり方を教えてやった事で、話すようになった。
リックは、剣と盾を使って味方を魔物から守る職業なのだが、攻撃されるのが怖い様で、何時も訓練時に盾で守る事ばかりやって、剣を使って相手を攻撃出来ないとの事だ。
「俺は剣士、敵の攻撃を受け止めていればいいだけで、倒すのは俺の役目では無い!」
完全に開き直って、最近では両手に盾を持つのはどうかと、真剣に考えている様だ・・・。
こんな三人で最近は食事も一緒にするようになった事で、更に女性達が離れて行くのは言うまでもない・・・。
まぁ、この訓練所では冒険者になる事が目的であって、女性を見つける事では無いのだが。
それでも、周りに綺麗な女性がいれば、話の一つでもしたいと言うものだ。
そのためには訓練を頑張って、人並み以上になるしか無いのだが・・・。
それから一年が過ぎた頃、全ての学科を学び終えたので、基礎体力の訓練を午前と午後に受けるようにした。
この一年、毎日基礎訓練を欠かさずやってきたにもかかわらず、大した進歩が無かったからだ・・・。
地理以外の学科は、意外と役に立つ事ばかりだったので、受けて正解だったのだが、もっと早く基礎訓練の時間を増やした方がいいのかと悩んだ物だ。
魔法の方は順調に訓練出来ているはずだ・・・。
ずっと初級魔法を使い続けているから威力は上がっていると思うのだが、的が魔法抵抗の高い素材で作られているとの事で、全く壊れないから分からない。
他の人が使う上級魔法でも的が壊れたのを見た事が無い。
シャルに念話で聞いたところ、当時のシャルでも壊せなかったそうだが、今なら壊せるわよと自信満々に言っていた。
治癒魔法の方は、回復力が上がっているのを実感出来ている。
だがその分、ナディーネが楽しそうに俺の腕を突き刺して行く回数が尋常では無くなったが・・・。
他の人達も、斬り割かれ、血で真っ赤に染まった俺の両腕をみて、引いていたからな。
その度に俺の精神は、両手と同じようにズタズタに斬り割かれ、何度もナディーネが、ナイフで俺を襲って来る夢を見た物だ・・・。
多分この記憶は、一生残るんじゃないかと思っている・・・。
シグとリックとは相変わらず、食事を共にしたりしている。
俺は女性となんとか仲良くなろうと、色々声を掛けたりはしているが、全く相手にされなかった・・・。
シグとリックは、訓練所を出た後に組むパーティを探している様だが、はやり俺と同じように女性に声を掛け、ことごとく断られている様だった。
今は三人で行動しているが、皆この三人で冒険をやりたくは無い様で、勿論俺もそう思っている。
やはり、冒険は綺麗な女性と一緒にやりたいと思うのは、皆同じという事だ。
更に一年半が過ぎ、訓練所生活も残す所半年になった。
シグとリックは、それぞれ訓練所を後にして冒険者となっていた。
ここを出て行くまでに、パーティを組む仲間を見つけられなかった様で、今どうしているのかは分からない。
そんな人の心配をしている場合では無く、俺も掲示板に連日張り付いて、仲間を探しているのだが中々見つからない・・・。
基礎体力の訓練を真面目に続けてきたお陰で、普通の人と同じくらいに動ける様にはなった。
最初に常人の倍動けるようになるとか決めた当時の俺を、そんなに甘い物では無いと殴りたい!
おそらく、一日中基礎訓練をし続けていれば、その目標は達成できただろうが、魔法の訓練を疎かには出来ない。
そもそも俺はビショップ、魔法職な訳だ、アベルに訓練を無理やりさせられていたから、剣も使える様になっているが、本来であれば必要無い事だと思う。
まぁ、そんな普通に動けるビショップでは、パーティを組んでいる者達からすれば、必要無いという事になり、何処からもお断りされ続けている訳だ。
それならば自分でパーティを作れば良さそうな物だが、ビショップと組んでくれる者などいる筈もなく、このままだと半年後、ソロの冒険者としてやって行かなくてはならなくなる。
最近はそれでもいいかとも思ってはいる、ソロなら呪文の圧縮も使えて便利だろう。
しかし、一人で野宿するのは危険だし、魔物の集団に襲われては死んでしまうだろう。
やはり、パーティを組まなくてはやって行けそうにはない。
そう思い、訓練を続けながら、掲示板に張り付く日々が続いて行く・・・。
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