第26話 甘い罠
年寄衆との話も終わり、桜雪と冬音は千代のいる宿へと戻った。
「おかえりなさいませ。お話は滞りなくお済みになりましたか?」
千代の問い掛けに
「ええ、何の問題もありませんでした。これで安心して大府を満喫できますわ。さあ、桜雪様、ご案内をよろしくお願いします」
と答えた冬音はすぐにでも出掛ける気でいるようだ。桜雪は、冬音には敵わないと苦笑しながら
「わかりました。最近流行りの柄物を扱っている着物屋がありましてな。まずは、そこに行きましょうか」
と提案した。
千代と冬音の二人を連れて、桜雪は着物屋へと向かった。この美しい二人の姿はやはり目立つらしく、すれ違う男性の目が釘付けになっていた。
そんな男たちの目線を知ってか知らずか、二人は着物について談義を重ねている。
着物屋の前にたどり着くと、冬音は突然、桜雪の腕に抱きついてきた。
「桜雪様なら、どんな着物が私に似合うと思われますか?」
集会所に向かっていたときと同じである。桜雪はまたも慌てふためき
「いや、拙者、着物には疎くてな」
と話すのがやっとだった。
「どれが似合うか、桜雪様に是非とも決めていただきたいわ」
千代があきれ顔で冬音の方を見ていたが、全く気にする様子もなく桜雪に話し掛ける。
冬音はしばらくの間、大府に滞在することになるだろう。その間のことを考えると、桜雪は気が重くなった。
夜は全員が集まって、一緒に食事をすることになっていた。
それまでの間、桜雪は冬音に振り回されていた。着物屋に宝石屋、雑貨店など、いろいろな店を渡り歩いたが、特に宝石にはかなり詳しいらしく、夢中になっていい品がないか探し回っていた。
「千代さんは宝石には興味ありますか?」
並べられた宝石を眺めていた冬音が千代に尋ねた。
「私は宝石には疎くて。先代・・・私の祖父がいくつか持っていましたが、今は蔵の中に眠っていると思います」
「そうですか。機会があったら、一度拝見したいものです」
「ええ、私にはどれくらいの価値があるものか全くわからないので、是非とも鑑定していただきたいですわ」
その後も、冬音の講義が長々と続いた。おかげで、全く知識のなかった千代も桜雪も、それなりに詳しくなった気がした。
千代と桜雪が驚いたことに、冬音はすでに宝石をいくつか所有していた。
「その宝石は、白魂から持って来られたのですか?」
桜雪の問いかけに冬音は
「宝石はかさばることがありませんから」
と答えた後、交換したい宝石を指で示しながら店主と交渉を始めた。
結局、交渉は成立せず、交換することなく店を後にした。しかし、冬音は満足だったようだ。
「大府には素晴らしい宝石がたくさんあるのですね。それを見ることができただけで満足ですわ」
気づけばもう、陽が落ちている。桜雪は
「そろそろ、皆が集まる頃でしょう。店の方へ向かいますか」
と二人を連れて歩き始めた。
夜の森の中、たき火を前に、小春と晶紀は並んで座っていた。
「そうですか、あの方は兄弟子さんだったのですね」
「ああ、昔から『癒やし手』の名で有名だった」
「白魂にもいらっしゃったわけですよね。でも、その名前は初めて伺いました」
月影が白魂を去ったのは、晶紀が物心つく前ということになるのだろう。小春はさらにその前に白魂を後にしている。改めて、長い間放浪の旅を続けてきたのだと小春は実感した。
「師匠と互角に渡り合えるのは兄者くらいしかいないと称されていたんだがな」
「そんな方を打ち負かすなんて、小春様もお強いんですね」
「いや、兄者は明らかに手加減していたよ。兄者の妖術は強力だが、本当の強さは剣術にあった。師匠も舌を巻いていたからな」
小春は、修行を始めるよりずっと前から月影に剣術の手ほどきを受けていた。といっても、小春にとっては遊びの延長線に過ぎなかったのだが。
小春に棒切れを持たせ、もし月影の体に当てることができれば小春の勝ち、一度も当てることができなければ月影の勝ちという単純なゲームだった。
初めの頃は、闇雲に棒を振り回すだけで、月影の体にはかすりもしない。小春にとっては、それが面白くなく、途中で投げ出してしまう。
そこで、月影が少しずつ構えや振り方を教える。そうすると、小春は試してみたくなり、また挑戦する。
それを繰り返すことで、小春は知らないうちに剣術の基本を覚えていったのである。月影は、人に教えることも上手だったようだ。剣生は強かったのは確かだが、指導することは下手だった。小春の剣術の腕は、ほとんどが月影の教育の賜物であろう。
「そんなお強い御方が、どうして剣生様のお弟子さんになろうと思ったんでしょうか?」
「それは私も聞いたことがないな」
小春は夜空を見上げながら
「いつの日か、もっと一緒に語り合いたいものだな」
と誰に言うともなくつぶやいた。
十字路を北へ、月影は仙蛇の谷を目指す。
紺色の空には金剛石のようにきらめく星々が見える。もう夜だというのに、星を見ながらいつまでも歩いていたい気分だった。
正面から歩いてくる者が小春だと分かった時は、月影もかなり驚いた。まさか、あのタイミングで会えるなどとは思っていなかったのだ。
神というものが存在するのなら、まさにその神の導きだろうと月影は感じた。そして、大刀を目にした時、それを奪う気でいた。
月影は、鍛冶師に会いたくて刀を奪おうとしたと小春に説明したが、本当の理由はそうではなかった。
小春から刀を奪うことで、鬼と闘うという使命から解放してあげたかったのだ。
しかし、刀がなくては鍛冶師に会えないというのは剣生から本当に聞いた話だった。刀を奪ってしまえば、小春は二度と自分の父親に会えないことになる。
父親に会えるのがいつになるかは分からないが、それまでは小春に刀を託しておこうと月影は考えた。
そして、小春が目的を達成した時、まだ鬼と闘い続ける気があるのかもう一度聞いてみればいい。
(それにしても、予想以上に腕が上がったな)
今日、小春と闘ってみて、その上達ぶりに目を見張った。
手加減していたのは間違いない。小春を殺したくはなかった。だから、腕や足だけを狙い、動けなくしようと考えていた。
とは言え、自分の頭上を飛び越え、首筋へ刃を向けられた時、あのまま横に薙いでいれば斬られていた。小春があのような動きをするとは、月影は予想もしていなかった。
炎獄童子が倒された理由が分かった気がした。
しかし、炎獄童子はまだ滅んではいない。また、小春の前に現れるだろうと月影は考えていた。
(炎坊は執念深いからな)
用心しなければならない鬼は炎獄童子だけではない。
月影が白魂を去って間もなく、月影は初めて青鬼と遭遇した。以前から、雷を操る青い肌の鬼女がいることは噂で聞いていた。その鬼が現れたのだと月影はすぐに気づいた。
「もう、鬼は出ないものと思っていたが」
月影の言葉に、青鬼は
「あんたは特別だからね」
と返す。『特別』という言葉の意味を月影は理解していた。今まで赤鬼を数え切れないほど倒してきたのだ。その報復ということだろう。
恐るべき強さだった。変幻自在に放たれる鞭が月影を四方八方から襲う。何で作られているのか、しなやかに舞う鞭は月影の放つ鋭い刃でも切ることができない。
相手は遊んでいるように見えた。妖術は全く使わず、鞭だけで月影を翻弄していた。
「さすがだね。数多の獄卒を葬ってきただけのことはある」
青鬼は攻撃の手を緩めた。月影は、妖術が放たれるのを警戒した。
「あんたに相談があるんだ。悪い話じゃない」
「・・・なんだ?」
「あたい達は、これからは西の方で人間を狩るつもりだ。ここではもうできなくなったからね」
青鬼は、笑みを浮かべた。鬼ながら、肌が粟立つほどの美しさだ。
「あんたと休戦協定を結びたいのさ」
「休戦協定?」
「これ以上、赤鬼を倒すのは止めてほしいんだ。あんた、もう人間のために鬼を倒す必要はなくなったんだろ?」
確かに、白魂を守る必要がなくなった今、人間のために命を懸ける理由はない。
「・・・なぜ、ここで俺を殺そうとしないんだ?」
「ふふっ、あんたのことが気に入ったからね。あたいは強い男が好きなのさ」
「俺の妖術が欲しいんじゃないのか?」
「よくわかったね。あんたの癒やし手としての力があれば百人力だからね」
月影は、青鬼の顔を見据えた。
「もし、断ったらどうする?」
月影の言葉に青鬼は
「ここで死んでもらうだけさ」
と言い放った。
結局、その青鬼、雷縛童女の要求を月影は飲むことにした。休戦協定を結ばずとも、鬼を倒すつもりなど最早なかったからだ。
その後、見たことがある青鬼は炎獄童子だけだ。他に青鬼がいるのかは今のところわからない。
そして、はっきりしていることは、青鬼が赤鬼など比較にならないほど強いということだ。どんな妖術を使うのかも未だによくわからない。
(雷縛童女まで敵に回せば、小春はひとたまりもないだろう)
「お前には、小春のことを守ってやってほしい」
剣生の言葉を思い出し、月影は歩みを止めた。
(今がその時ではないのか)
小春に巡り会えたのは、神の導きなどではない。師匠が自分を導いたのだ。月影は突然、その考えに思い当たった。
月影は、再び鬼と闘う覚悟を決めた。小春を助けるために。
翌朝、小春と晶紀は大府を目指し森の中を歩いていた。
ふと、小春が足を止めた。
「いいものを見つけた」
小春が道を外れて森の中に入っていくのを見て晶紀は追い掛けていった。
一本の木に、たくさんの赤い実が成っていた。
「桃の木がこんなところに生えているなんて思わなかった」
そう言いながら、小春は桃の実を一つ採って晶紀に渡した。
「桃なんて、久しぶりに見ましたわ」
晶紀の言葉に
「そうか? 子供の頃は白魂でよく採って食べていたぞ」
と小春が応えた。
「今では果物は貴重品で、滅多に食べることができませんでした」
そう言いながら、晶紀は桃にかぶりついた。甘い果汁が口いっぱいに広がり、暑さで乾いた喉を潤してくれた。
「すごく甘くておいしい」
晶紀は夢中で頬張った。
小春も桃を一つ採って食べ始めた。今まで食べてきたどんな桃よりも甘くて美味しいと感じた。
二人は一心不乱に桃にかじりついた。そして食べ終わると、ついさっき起きたばかりなのに無性に眠くなる。
「小春様、なんだか眠いです・・・」
「私もだ。どうしたんだろうな」
とうとう立っていられなくなり、二人はその場で眠り込んでしまった。
小春が目を覚ました頃には、あたりは暗闇に包まれていた。
(まさか、夜まで眠り続けていたのか?)
周囲を見回すが、一寸先は闇で何も見えない。
(晶紀はどこへ行った?)
立ち上がろうとしたとき、小春は自分が一糸まとわぬ裸の状態であることに気が付いた。
「どういうことだ?」
荷物も大刀も見当たらない。まさか全て盗られてしまったのだろうかと小春は思った。
(ここはどこだ?)
身ぐるみ剥がされた上に、別の場所に連れ去られたのだろうか。
立ち上がり、もう一度あたりを見渡してみる。目の前に何があるのかも全くわからない暗闇の中で、遠くに一つ、灯りが見えた。
小春は、その方向へと歩いてみることにした。地面は硬い土で覆われ、起伏も全くない。風もなく、暑さも寒さも感じない。まるで夢の世界に迷い込んでいるようだ。
どれくらい歩いただろうか。灯りは一向に近づいているように見えない。常に一定の距離を保って浮かんでいるように感じた。
立ち止まって後ろを振り返ってみた。今までたどってきた場所には暗闇が広がるだけだ。
もう一度、前方を見ると、灯りが消えていた。
(どこへいった?)
そう思って見渡してみれば、今度は右手に灯りが見える。先程より近い位置にあるようだ。
小春は右の方へ向かってみた。
灯りはやはりいつまで経っても近くならない。しかし、別の灯りが近づいてきた。それは、小春を挟んだ両端を等間隔に一直線に並び、遠くの灯りの方へと続いているらしい。
その灯りの導く方へと小春は進んでいった。気が付いた時には遠くにあった灯りはすでになく、代わりに階段が目の前に現れた。
(ここを上れということか?)
両端の灯りは階段にも続いている。この光景を、以前にも見た記憶があった。
それは、仙蛇の谷で晶紀に初めて会ったときの光景にそっくりだった。階段を上がると、遠くに灯りが見える。
そこに、二人の女性が立っていた。一人は赤い着物に身を包んだきつね顔の女、もう一人は裸の状態の晶紀であった。
「よく来たね」
近くにやって来た小春に、赤い着物の女がそう言って笑った。晶紀は気を失っているのか、女の肩に頭を預け、抱きかかえられている状態だった。
「晶紀をどうする気だ?」
「これは私の大事な養分さ。お前もね」
「お前の養分になどなるつもりはない。晶紀を離せ」
「どうあがいても、ここからは出られないよ」
小春は、女の方へ近づこうとした。すると突然、足に何かが絡みついて動けなくなった。
下を見ると、いつの間にか蔦が足を捕らえている。
小春は屈んで蔦を解こうとするが、今度は別の蔦が小春の両腕を捕らえてしまった。
もはや手も足も出ない状態になってしまった。小春は蔦を振り解こうとあがいたが、固く締め付けられて全く自由が効かない。
「往生際が悪いね。逃げられないと言っただろう」
女が小春を見てせせら笑った。晶紀は未だ気がつく様子はない。
「そのままここで朽ち果てな」
「ふざけるな、こんなところで死ぬのを待ってられるか」
「ならば、今すぐ死ぬがいい」
女がそう言った途端、腕に絡みついていた蔦が小春の体を持ち上げた。
小春の目の前に、自分の大刀が現れた。蔦が柄の部分を捕らえ、器用に持ち上げていた。切先は自分の方を向いている。
小春は、なんとか逃げようとするが、もはや為す術がなかった。
刀が自分の方へ向かってきた。そして、その刃は小春の胸を貫いた。
千代と冬音は、いっしょに朝食を食べていた。その日も、千代の手作り料理が振る舞われていた。
「千代さんがお作りになる料理は本当に美味しいわ。私はこんなに料理が上手じゃないから、羨ましいわね」
「喜んでいただけて何よりですわ。ここは新鮮ないい食材がたくさんあるから、あまり手間を掛けなくても自然と美味しくなるみたい」
「いい食材を活かすも殺すも、料理人の腕次第ですわよ。世の男性がこれを召しあがれば、あっという間に虜になりますわ」
「あらやだ、そんな・・・」
千代は恥ずかしげに下を向いた。
「でも、作ってもらってばかりじゃ申し訳ないから、昼食は私が用意いたします」
冬音の申し出を聞いて、千代は冬音の作る料理に少し興味を持ち
「本当ですか、ありがとうございます。すごく楽しみですわ」
と笑みを浮かべた。
「でも、お昼になるまで、暇ですわね」
「私は、八角村に運ぶ物資を選びにお店を回ろうかと思っていますが、いっしょにいかがですか?」
千代の提案を聞いて、冬音は目を光らせた。
「まあ、楽しそうね。それでは、私もご一緒させていただきますわ」
二人は、顔を見合わせて小さく笑った。
お店では冬音の独壇場だった。
千代に頼まれるわけでもなく、どんどん店の人と値切り交渉を始めてしまう。そして、全ての店で値引きに成功するのだ。
「いやあ、お姉さんには敵わないな」
少し甘えた声で交渉すれば、男性は鼻の下を伸ばして確実に応じることになる。しかし、男性だけではなく、女性に対しても交渉は成功するのだ。冬音には、男女を問わず相手を惹きつける何かを持っているらしい。
「冬音さんのおかげで、随分と安く仕入れることができました。ありがとうございます」
「あら、気にしないで。私、こういう掛け合い事が大好きなの。おかげで、随分と楽しませてもらえたわ」
「では、そろそろお昼になりますし、宿へ戻りましょうか」
「そうね。お腹も空いてきましたし、戻りましょう」
二人は並んで通りを歩いていく。周囲のほとんどの男性は、その姿を見て立ち止まるのであった。
「さあ、これでお前は私の養分となるんだよ」
女が小春に向かって言い放った。
自分の胸から大量の血が吹き出ているのが見える。その血は小春の足元にあっという間に血溜まりを作った。
小春は信じられないという顔をしていた。こんな形で自分が死ぬことになるとは思わなかったのだ。
不思議なことに、痛みは感じなかった。感覚が麻痺しているのだろうか。
女は、小春の死にゆく姿を見て笑みを浮かべていた。その横の晶紀はまだ気を失っている。
(晶紀を助けることができなかった)
意識が朦朧としてきた。このまま死んでいくのかと小春は観念した。
しかし、薄れゆく意識の中、心の奥底で何か妙な違和感を感じている自分に気がついた。
蔦が固く手足を締め付けているのに、痛みを感じることはなかった。
刃が胸を貫いたときも、普通なら感じるだろう痛みが全くない。
(もしかしたら、これは幻覚か?)
そうだ。この世界ではずっと感覚が麻痺していた。まるで夢の世界のように。
これが妖術によるものなら、結界によって打ち消すことができる。小春はそう考えた。
小春がなんとか意識を保とうとするのに女は気づいたようだ。
「まだくたばらないのかい?」
女はなにか焦っているように見える。小春がこの世界の秘密に勘付いたと思ったようだ。
女が晶紀から手を離した。晶紀は崩れるようにその場に倒れた。
小春の方へ女が近づいてくる。女が自ら小春にとどめを刺そうというのか。
しかし、女が小春の下へたどり着く前に、小春は最後の力を振り絞って結界を張った。
突然、目の前の世界が消え去った。気が付けば、小春は草むらの上に寝転がっていた。
自分の腕と足に、桃の木から伸びた蔦が絡みついている。それを振り解いて晶紀の方へ近づいた。
「晶紀、しっかりしろ」
晶紀の頬を軽く叩いてやると、晶紀が目を覚ました。
「小春様、ご無事でしたのね」
そう言って、晶紀は小春に抱きついてきた。
「お前の方は大丈夫か?」
「私は、あの女性にまた捕らえられていました。小春様が・・・」
晶紀は言葉を詰まらせ、泣き始めた。おそらく、小春が刀で胸を貫かれた場面を見せられたのだろう。
「心配ない。あれは全て幻覚だ」
晶紀の背中をポンポンと軽く叩きながら、小春は桃の木の方を見た。
「桃の木に蔦が生えているとはな。こいつは妖怪だろう」
桃の木は動く気配はない。
「この刀で切り倒せるか、試してみようか?」
小春はすっと立ち上がり、大刀を構えた。
突然、木の幹に穴が開いた。中に、小春の顔の大きさほどの小人がいる。緑色の着物を着た女性の姿だ。
「木を倒すのだけはやめておくれ」
「ここで誰かが実を食べるのを待っていたのか?」
「・・・」
「眠ったところを捕らえて養分を吸い取っていたのか?」
「そうしないと生きていけないんだ」
小春は、木の中の女性をじっと眺めていたが、やがて刀を背中に戻すと、晶紀に声を掛けた。
「行こう。立てるか?」
晶紀は、小春にうなずいて見せた後、すっと立ち上がった。
木の妖怪は、小春も初めて見た。そして、あれほど強力な幻術を使うことも知らなかった。
(これからは、果実を採る時は気を付けねばならないな)
木の実を食べるのに命など掛けたくはない。
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