第5話 押し入れの中のひみつきち

 ぼくはそう前置きをして、こーすけ相手に全部説明した。途中で、こーすけのお母さんが入ってこないか、ちらちらふすまを確認しながら。

 たけるに付き合って砂遊びをしていたこと。その最中に鍵を見つけたこと。そしたら、変なマフィアがきたこと。同じ顔で三人になったこと。逃げてフェンスを飛び越えてみたら、今度は海賊の姿になっていたこと。

 全部話し終えると、こーすけはとろんとした目になって、ベッドからおりた。そのまま、ぼくの肩をぽんっと叩いて、

「熱あるときは、外出たらあかんで。もうええ。ほら、オレのベッド貸したるから」

「こーすけ!」

 いきなり病人あつかいはひどいんじゃないか、こーすけ。いや、ぼくも気持ちはとっても、判るけど。こーすけがこれじゃあ、久野はどうだか……と思って、久野のほうを見た。案の定、久野はメガネの奥の目をつめたぁくさせながら、静かに言ってきた。

「……で?」

「ホントなんだって!」

「人を巻き込んでおいて、片瀬はそういう嘘つくの!?」

「嘘だったらぼくも嬉しいよ!」

 膝立ちして叫んでくる久野に、ぼくも膝立ちしながら叫び返す。と、こーすけが割って入ってくる。

「まぁまぁまぁ。亜矢子は? 途中からは見たんやろ?」

 こーすけの言葉に、久野はちょっと膨れっ面になって、腕組みをした。

「まあ……見た目は、確かに海賊っぽい格好はしてたわよ。いかれた変質者ってカンジ」

 女子って、ひどいと思う。

「同じ顔で三人?」

「三つ子なんでしょ」

 こーすけの言葉に、久野はあっさりそう言う。いやだ、あんな三つ子。

「たけるは?」

 こーすけが訊ねると、たけるは久野そっくりの膨れっ面で、ぷいっとそっぽを向いた。

「どーせたけるが言っても、ひろともこーすけも信じてくれないんでしょ!」

 あ、スネた。

 こーすけと顔を見合わせて、苦笑した。

「ちゃうて、そんなんあらへんて。教えてーや。ほんまなん?」

 べしべし、と乱暴にたけるの頭を叩きながら、こーすけが笑う。たけるはしばらくスネてたけれど、こーすけを見上げながら、くちびるをアヒルみたいに突き出した。

「ホントだよ。たける、みたもん」

「ふぅん……そうか」

 たけるの言葉に、こーすけは頷いた。それから、立ち上がったままふすまを振り返る。さっきのぼくと一緒で、おばさんが入ってこないかどうか確かめているんだ。

「来ぇへんな」

「ふすま開けたら一発じゃない」

 久野のつめたい一言に、こーすけはあごを突き出した。

「わぁっとるわ。そやからこないすんねん」

 こーすけはそう言って、部屋にあった押入れのふすまをバシンと開けた。

 押入れは二段式で、上にはふとんが入っていた。下には、冬服とかそういうものが隅によせてある。で、それがなんで隅に寄せてあるか――は一発で判った。

「……男子ってバカ……」

 久野のつめたい呟きが聞こえたけど、ぼくはおもわずにやりと笑っていた。こーすけも同じ、にやり笑いを返してくる。

「面白ぇやろ、ひろと」

「だね」

「かぁっこいー! ひみつきちー!」

 そうなんだ。押入れの一段目は、こーすけが手をつけたらしくって、ひみつ基地みたいになっていた。

 コンセントを引っ張ってきた、ライトスタンド。壁には世界地図がはってあって、ダンボールで作った本棚にはマンガが一杯つまってた。大きい画用紙とスケッチブック、たくさんの色のマーカーペン。バスケットボールとサッカーボール、それからローラー・ブレードとローラー・シューズ。ブレイブボードももちろんある。スーパーウォーターガン(水鉄砲のすごい奴)。懐中電灯に筆記用具、何のためにあるのかは知らないけど、方位磁石まであった。他にもいろいろ、おもちゃが箱に押し込められている。新しいゲームのポスターもはってある。これ、買う予定なのかな。だったら、今度借りようっと。

「たける、ひろと。とりあえずこっち入れや。ここやったら、おかん来ても、ちょっと時間かせげるから、見られへん」

「うん」

 ぼくはたけるの手を引いて、押入れの中に入った。狭いけど、まぁ、三人なら入れなくはない。たけるは小さいしね。

 こーすけも続いて入ってきて、ライトスタンドをつけた。

 どーでもいいけど、すっごく蒸し暑い。あんまり長くいたら、ぼくの蒸し焼きができるかもしれない。

「……バカ。ほんとバカ」

「バカバカひどいわ、亜矢子ちゃん! こーすけくん、傷ついちゃうっ」

「……埋めて欲しい?」

「ごめんなさいもうしません」

 冷たい久野の態度に、こーすけが謝ってから肩をすくめた。

「とりあえず、おかんきたら教えて」

「判ったわよ」

 むすっとしながら、久野はふすまの外から顔だけをつっこんできた。

 薄暗い、蒸し暑い、息苦しい、けどなんだかわくわくする空間で、こーすけがたけるに言った。

「たける、鍵見せてぇや」

「うん」

 たけるは素直に頷いて、右手に握っていた鍵を見せた。

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