第31話 祭仲
魯の桓公と衛の宣公は桃丘の地で会見することを約束していたのだが、衛の宣公は来なかった。
なぜ来なかったのかというと、以前、斉が北戎に攻められていた時のこと鄭の公子・忽が救援に来た際のこと、これに衛と魯も参加していた。その戦いが終わった後に魯が食料を諸侯に配ったのだが鄭には最後に渡した。
魯は周の封侯順にしたのだが、忽は自分が最も功績をたてたと考えていたそれにも関わらず、鄭を後にしたことを不満に思い、そのことを父、鄭の荘公に伝えて鄭は斉と衛を誘い、魯を攻めるよう進言した。
そのため衛は魯との会見を行わなかったのである。
十二月、魯は鄭、斉、衛の連合軍と郎の地で戦った。
紀元前701年
正月、鄭、斉、衛、宋が悪曹で会盟を行った。
その頃、楚の莫敖(官名、他の国では司馬の地位にあたる)・屈瑕が貳と軫の二国と盟を結ぶ準備をしていた。それを知った鄖はこの盟約を邪魔するために蒲騒に駐屯し隨、絞、州、蓼の四ヵ国と共に楚を攻めようとした。
これを小心者の屈瑕が恐れたが闘廉が言った。
「鄖は郊外に駐屯しているためか警戒が薄く、四ヵ国を頼みにし過ぎている所がある。あなたは四ヵ国を向かえ撃たれよ。私は精鋭を率いて、鄖に夜襲をしましょう。鄖は援軍を期待し、城の堅固さを頼みにしているため闘志が無い。鄖を敗ることができれば四ヵ国は撤退するでしょう」
闘廉の策を聞いても安心できないのか屈瑕は闘廉に言った。
「王に頼み援軍を呼んでみてはどうだ?」
「戦は軍の和によるもので数ではございません。かつて、商と周の戦い(牧野の戦いのこと)で数が比較にならないほどの差があったことはご存じのはず、軍を整え出陣した以上、これ以上の兵はいりません」
「卜(うらな)ってはどうだろうか」
「卜いとは迷いがあるときに行うこと。迷いも無いのに卜う必要はありません」
こうしてやっと屈瑕は納得した。そして、闘廉の策通り、鄖に夜襲をかけて勝利し、四ヵ国には屈瑕が攻めこれを破った。屈瑕はその後、無事貳と軫の二国と盟を結び、帰国した。
夏、鄭の荘公が亡くなった。彼は母に疎まれ、弟との戦い、周の桓王との戦いなど何度も困難に陥りながらも父の後を継ぎ、良臣を広く求め、登用し活用した。そのため彼は小覇と讃えられ、諸侯をまとめることができた。
そんな諸侯の盟主であった彼が遂に世を去った。この後を継いだのは公子・忽である。これを鄭の昭公という。
祭仲が主導の元、順調に後継者を選んだように見えたが、これに不満を持った国がある。宋である。
宋の大夫・雍氏の娘が鄭の荘公に嫁いでおり、その娘の子が公子・突こと子元であった。雍氏は宋の人々に慕われており、宋の荘公からも信頼されていた人物である。
そのため宋の荘公は雍氏の子である子元に後を継いでもらいたいと思っていた。だが実際、鄭の後を継いだのは公子・忽である。
公子・忽の母は鄧の人である。そのような国よりも自分の方が上であるという自負のある宋の荘公は祭仲を宋に誘き出しこれを捕えた。そして、彼に言った。
「鄭君を廃し、公子・突を立てよ。これを受け入れなくてはお前を殺す」
宋は祭仲を脅した。祭仲は難しい状況に追い込まれたと言っていい。ここで宋の言うことを聞き、昭公を廃せば、祭仲は己の命惜しさに己の主君を廃したと罵られるだろう。しかし、ここで断れば自分は殺され、宋は鄭を攻めるかもしれない。そして、鄭の昭公を殺し、子元を立てるだろう。そうなれば祭仲は結果的に己の主君を守ることができなかったことになる。
(せめて、君が斉と婚姻していればこのようなことにはならなかっただろう)
もし、昭公が斉と婚姻していれば流石の宋もこのようなことをしようとは思わなかっただろう。故に祭仲は昭公に斉との婚姻を求めていたのである。
だが、今そのことを悔いても仕方ない。過去は変えることはできないのだ。されど未来は変えることができるはずだ。今、鄭の将来がここでの自分の決断で決まるのだ。
「わかりました。この祭仲の名の元、公子・突を立てましょう」
「良し、それでよいのだ」
そう言った宋だが直ぐには祭仲を鄭に帰さなかった。今度は子元を呼び出した。
「この度、祭仲殿との盟約により、あなたを鄭の主に添えることにした」
この宋からの言葉を受け、彼は最初驚いたが
(だがこれで私が鄭の国君になれる)
元々、自分が国君になるべきと考えていた子元は宋の力と宰相である祭仲が自分を国君にするとしてくれたのは願ったり叶ったりであった。だが宋はただで子元を国君に据えるわけではない。
「あなたが即位できるのは我ら宋のおかげである。故にあなたは即位したら宋に財物を送りなさい」
これには流石の子元も内心不満に思うが
(今これを断れば私の国君の座は無くなる)
「承知しました。私が即位すれば宋にお礼をしましょう」
宋はこの返答に満足し、子元と祭仲を鄭に帰国させた。帰国した祭仲は群臣に昭公の廃位を伝え、代わりに子元を即位させた。これを厲公(れいこう)という。
厲公は即位すると直ぐ様、廃位された昭公の暗殺を考えた。自分の地位を脅かされては困るからである。しかし、既に昭公は鄭に居らず、衛に出奔していた。
これでは昭公には手を出すことはできない。しかし、あまりにも昭公の動きが速いことに厲公は疑問に思った。まるで自分が暗殺しようとしていたことを知っていたかのような速さだからである。
はっと、厲公は気づいた。昭公に自分が暗殺を企んでいることを昭公に伝えることができる人物のことを
(祭仲)
厲公は朝議中、祭仲を睨んだ。それに気づいたものの祭仲はどこ吹く風のように厲公の視線に気づかないふりをした。
(気づいたか、だがこれで私に刃を向けるのであればやりやすくなる)
そう、祭仲は宋に脅されている中、彼は厲公を立てることで宋から攻められることを防ぎ、昭公を他国に逃がし、これを生かす。
(これで昭公を復位できなくては私は後世に悪臣として名を残すだろうだが必ず私は昭公を復位させてみせよう)
これが祭仲の決断であった。
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