春秋遥かに
大田牛二
第一章 周王朝の失墜
第1話 歴史は繰り返す
悪女・
周王朝は商王朝を討伐する際に理由付けを行う必要に感じ、彼らは「天命」という思想を生み出した。
天の意思に背いた行いをし続けたために商王朝は滅んだのだと主張したのである。しかし、この思想が確立される上で早速危機が訪れた。武王が病で倒れ、世を去ったのである。
彼の弟で、もっとも政治力を持っていた
武王は商王朝を滅ぼしたため、その報いを受けた。このようなことを人々は思ったのである。
古代中国において、不思議なことや神秘的なことを信じていた時代である。そのため人々は武王の速すぎる死にそう感じたのであろう。
そんな中、周公旦はよく政治を行い、周王朝の基礎を築いていく。
しかし、そんな彼に恨みを抱いたのが武王の弟である
そんな周公旦に対しての不満により、起こったのが「三監の乱」である。この人々の恐れから反乱は大規模なものへと発展してしまった。
この対策に周公旦は悩んだ。もし、この反乱によって周が滅びれば、兄・武王の努力は水の泡となってしまう。だが、同じように考えた
結果的に彼らの活躍により、反乱は鎮圧された。この時、彼らはこの勝利を天命を得ていたためとした。
つまり、天命を受けた国は如何なる困難に陥ろうとも滅びることは無いのだとしたのである。この反乱を経験したことで周王朝はそれを天下に示すことができたのだ。
この「天命」という考え方は後々の中国の歴史に大きな影響を与え続けることになる。
このような乱が起きるなど、王朝を開いた当初は安定しなかったがその後、成王とその息子である
しかし、如何なる聖人、名君が作った国、王朝であろうとも衰退の時というものはある。周王朝も例外ではなかった。
その衰退の兆候がはっきりと見えたのは
厲王は暴虐で残酷な性格であるため彼を非難する者は多かった。ここで彼は愚かにも非難する者を誰であろうと殺害していった
この状況を見て、国民は口を閉ざし、彼を非難する者はいなくなった。
これで厲王は大いに安心した。己の権力を前に皆、ひれ伏したのだと考えたのだ。だが、確かに非難の声を上げる者こそいなくなったが、人々は道ですれ違う時に目で何かを合図するようになった。
紀元前842年
厲王にとってまさに青天の霹靂と言うべき事態が起きた。国民が一斉に立ち挙がり、厲王を攻めたのである。
厲王ら王軍はそんな民に負け、厲王は彘に出奔した。
この反乱は国民が一致団結し、時として己の国の主と云えども、追い出すことができるという意思表示をしたと言っていい。
王都に王が不在になり、困った大夫たちは国民に人気があった共の国君である
また、この頃から正確な時期が史書に文字で書かれるようになったという。
紀元前828年
厲王が亡命先で亡くなり、息子の
宣王の治世の前期は「宣王の中興」と呼ばれ平和な時代だったとされている。しかしながらそれを実現する手段として彼は武力を用いた。それにより最初は周囲の異民族を討伐するなどにより、一定の成果を挙げたものの、
紀元前816年に斉の
紀元前813年では衛の
更には魯での後継者について宣王が首を突っ込んだことで後継者争いが起きるなど、血なまぐさい事件が立て続けに起きた。
さらに宣王の治世後期に入ると次第に戦でも負けるようになってしまい。多くの兵士を失ってしまうことになってしまった。これにより、結局国が乱れる火種を作ることになった。
そんな宣王が亡くなったのは紀元前782年のことである。
彼の後を継いだのは息子の
幽王が継いだ頃、天災は起き、晋では叔父を殺し晋の
しかし、彼は父・宣王の方針に従って、武力で周囲を押さえ込むようにし、異民族と戦った。しかしながら大将に任命した者が戦死するなど負けることが多く、何らの結果をもたらすことができなかった。
周王朝が作った「天命」がまさに離れようとしていたのだ。
紀元前780年
この年ある女性が幽王に献上された。その女性の名を
しかし、彼女は普通の女性とは違うところがあった。それは極端なほど笑わないのである。
幽王はどうしても彼女の笑顔を見たいと考えたため、それはもう、様々なことをした。しかし、彼女は笑わなかった。
なんとか笑わそうと彼が頭を悩ましている中、
紀元前774年
この頃緊急の時、諸侯に駆けつけてもらうため狼煙を上げて知らせるのだが何かの間違いで狼煙が上がったことがあった。これを見て諸侯は大急ぎで軍を率いて王都に駆けつけたのだが、そもそも間違いで上がったため実際は何も無い。そのため諸侯たちは唖然としたまま呆然としていると、
「アハハハハ」
笑い声がその場に木霊した。その笑い声の主はなんと褒姒だった。幽王が何をやっても笑わなかった彼女が遂に笑ったのだ。幽王は大いに喜んだ。
しかし、その後は再び笑わなくなった。もう一度、彼女の笑顔が見たいと考えた幽王はわざと狼煙を上げた。諸侯はそれを見て再び駆けつけた。すると、これを見て再び褒姒は笑った。
彼はこの後もこれを繰り返した。ただ彼女の笑顔のために、
だが、これに付き合わされる諸侯にとってはたまったものではない。駆けつける度に軍を率いて行くので、そのための物資を用意しなくてはならず、軍資金はかさむ。そのため次第に狼煙が上がっても幽王の元に行かなくなっていった。
諸侯が集まってこないため幽王は再び褒姒が笑顔になるのにはどうすればいいのか考えた。そして、考え抜いたすえに思いついたことは彼女を后にすることだった。既に幽王には
ただ笑わない者を笑わすために太子を廃されることになった宜臼の怒りは大きい。しかし彼には何の力はない。そして、彼は同時に強烈な不安に襲われた。
(もしかしたら殺されるのではないのか)
笑わすために太子と后を変える男である幽王のことを考えると可能性はなくもない。そのため彼は祖父にあたる
宜臼が申に出奔したことを知った幽王は申を攻める準備を始めるように指示を出した。逆に申候がこれを知ると激怒し、彼は犬戎と手を結び挙兵した。
この挙兵こそが周王朝の崩壊であり、新たな時代の始まりであり、「天命」に翻弄される者たちの時代が始まる。
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