第15話 天へと続く道
――――セイレーン中央区、上空。
「ねぇ来てる!敵来てるから!」
「うるせぇ!黙って集中しろ!」
ユイは涙目になる。カナタは蛇腹剣を振り回し、機銃を防ぐ。その隙に機械獣のミサイルが敵を一掃した。
「おいユイ!紫電砲ってのはそんなに発射に時間がかかるのか!?」
「そりゃ現役の奏士はすぐに打てるのかもしれないけど、私実践なんて初めてだし、紫電砲なんて撃ったことないんだから急に言われたって……」
「それでも、やらなきゃどうしようも……おいおいまじかよ」
カナタは顔を一気に青くした。
下から戦闘機が一〇機、彼らを狙って接近してきていたからだ。
その時、ユイの通信機が鳴った。
「ランデ!?」
「こっちの準備はできた!発射頼む!」
「できない!敵機がたくさんいて、発射する猶予がないの!」
ユイは口ごもる。
敵機を一〇機も相手にするのは、如何に機械獣とはいえ厳しい。加え、紫電砲を発射することに対する不安もあった。
「大丈夫だよ」
「え?」
しかし、返されたランデの声は優しく、成功への確信を持っているように感じられた。
「おいユイ!やばいぞ!!」
「なにが大丈夫なのよぉ!!!?」
涙目になりながら反撃に出ようとした時、敵の放った追尾ミサイルは空中で爆散した。
『ユイ!敵のことは気にするな!』
「この声は……!?」
白銀の機械獣に乗って現れた三機の小隊が、ユイたちと帝国機の間に入ってくれたのだ。
そして、その中には、ランデが信頼を置くのも納得できる奏士がいた。
「カイト!!!!」
奏士の中でも、最強の逸材と呼ばれている天才。
カイト・アラキは縦横無尽に空を駆け、敵の攻撃を無力化させていく。
「ユイ!撃て!!」
カナタの檄を受け、ユイの瞳にも火が灯った。
「いっけぇええええええええ!!!!」
ユイは機械獣の口部に機械獣のエネルギーを集結させる。
そして、紫の閃光が、セイレーンの最上部を突き破った。
***
空に開いた大穴を見て、背筋に冷たい汗が流れた。
同時に、宇宙はセイレーンの全てを喰らい尽くさんと、穴から強烈な吸引力を持って大きな風を起こす。
『ランデ!』
通信機から聞こえる、ユイの声。
上を確認すると、機械獣部隊は皆、爪で天井にしがみつくことができているらしい。
あとは、僕がやるしかない。
『いいかランデ。紫電砲のイメージは……』
「大丈夫だよ、叔父さん」
『何?』
「この機械獣が、教えてくれる」
通信機から聞こえる叔父の声を制止し、僕は目を閉じた。
調和で生まれた精神のパイプを通して、機械獣を完全に理解することができた。
「見えた」
穴からセイレーンの外へ放り出されんとする帝国機が、一筋に重なるその一瞬を、正確に見極める。
同時に、機械獣は大きくその口を開き、超高密度な光が集まっていった。
それだけで、地は揺らぎ、天の怒りが如き轟音が鳴る。
尋常ではない気配を察知し、帝国軍戦闘機も慌ててその場を逃れようとするが、遅い。
射程圏には、敵機のほとんどが入っていた。
圧縮され尽くしたエネルギーは、逃げ場を求め暴れ出す。
「侮るなよ、ニンゲンッッッッ!!!!!!」
極光――――!!!!
それは天に架かる橋のように。地獄に垂らされた糸のように。
あまりに美しく、神々しい。
それは、驕りに傲った人類が、神に与えられた誅罰だ。
一閃の下に、一〇〇を超える帝国の戦闘機らは形跡すら残さず消失。存在ごと偽とする、まさしく神の御技。
その衝撃はセイレーンを飛び越え、宇宙の暗闇にすら巨大な光の柱を顕現させた。
***
――――宇宙空間。
これ以上の侵入を許すまいと、帝国軍との激しい防衛戦を強いられていたサーレ国防軍。
その場の指揮を執っていた男は、ガラスに表示される熱源反応を確認し、即座に散開、その場から離れるように指示を出した。
――――この熱量は、紫電砲か?だが、それにしては数値が高すぎる。
だがその熱に気づくことのない帝国軍がそれを妨害し、攻撃を加えてきた。
「くそっ、邪魔だっ!!」
機械獣が戦闘機と交差。同時に爪が戦闘機の装甲を引き裂いた。
敵機の爆発を尻目に射程を抜ける。隊員が全員射程を外れたその瞬間、巨大な光の柱が暗闇を裂いた。
「なんだこの……この光は?」
幾度となく死線を超えてきた国防軍正規兵ですら戦慄した。自軍への被害を確認、各員へ指示をしなくてはならないはず。しかし、動くことが出来ない。
「これは、あの時の……」
思い出される一〇年前。
セイレーンに乗って逃亡するサーレを守った、謎の『化物』が放った光に似ていたのだ。
だが、それを知らない世代の戦士は、人類を一気に消し去った紫電砲の火力を目の当たりにし、奮い立った。
――――自分たちには、これだけの力がある!!
人類との歴史は、敗北の歴史だ。
彼らにとってこの一撃は、サーレの未来を切り開く為、神が与えた架け橋にも等しかったのだ。
「馬鹿な……夢じゃないのか、これは……?」
そして人類は戦闘機にて、先ほどまで通信していた仲間が一瞬で消失した様を目の当たりにし、恐怖を通り越して放心した。
人類にはない、圧倒的な力を、サーレは持っている。
今度大戦が起これば、宇宙空間に放り出されるのは自分たちなのではないか。
否、敗走すら叶わなくなったとしたら。
人類滅亡の可能性は確実にあるのだ。
あまりに巨大な紫電砲は、驕る彼らにその事実を叩きつけたのだ。
故に。
「ここで、終わらせなくては……っ!」
このまま放置しておけば。
敵に力をつけさせては。
人類は、滅ぼされる!
帝国軍の兵士が操縦桿を握る手に力を込めた時だった。
『全帝国軍に告ぐ!帰還せよ!繰り返す、帰還せよ!』
「なっ!?」
だが、司令部から入った伝令は兵士の意に反するものであった。
「どうしてですか!?」
『……傍受の可能性もある。ここでは話せん。予想外に奴らの科学力は発達しているようだからな』
「……了解、しました……っ」
上からの命令には、人類であろうとサーレであろうと逆らえない。
こうして、帝国軍は撤退を始めた。
この日、歴史上初めて、サーレは人類に勝利したのだ。
――――セイレーン内。とある一室。
「至天の巫女よ、こちらの揺れは一体……?」
「静かになさい」
川のせせらぎの如く優美な、あまりに透き通った声を発し、女中を制する。
御簾の向こう、『至天の巫女』と呼ばれる女性は、夜色の長髪を指先で摘まみ、息を飲む。
その視線の先には、宇宙へ向かって伸びる紫電砲の煌きがあった。
「嗚呼、嗚呼!なんということか!神の御使いを!夜の権化を!下賎なるサーレが使役したの!?」
高貴な女性は立ち上がる。普段から彼女の世話をしている女中三人は、その尋常でない様子に萎縮し、頭を垂れる。
その様子から返って冷静さを取り戻した彼女は一度呼吸を整え、命令を下す。
「今すぐ降る準備をなさい」
静かに放たれたその一言により、女中は大きく動揺した。三人の内一人が前に出て、跪いた。
「なりませぬ。至天の御方が下賎なる民の前にその身を晒すなど」
「其方たちが行かぬと申すのならば、妾一人であろうと出向きましょう」
「い、いけません!降られるにしても、まずは至天の御方々からの承認を得ませんと」
「ならばその至天の御方々とやらに伝えるといい。妾は、自らの役目を果たしに出る、とな」
「巫女様!」
荒々しく御簾を除け、女中らの前に姿を現した女性。
「この至天の巫女、『カグラ・イスルギ』が!!」
サーレたちが至天民と崇める日輪教の頂点に君臨する者が、ついに動き出したのだ。
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