第20話 First step to Angkor Thom(第一歩)
アンコール・トムは、遺跡としては、再度伝えるがその存在感は圧巻であった。僕と山田とニャンへ古からのパワーを伝えてきた。ただ、世界各国からの観光客が大勢訪れているため、本来の遺跡が持っているエナジーが損なわれている気がした。気が乱されているような印象を受けた。というよりは、大勢の人の気により、磁場が乱されているという感じを受け取った。
どういうことかというと、人の業により乱されているということを意味する。
ニャン「酒井さん、山田君。お二人の憧れていらっしゃった遺跡。これが、アンコール・トム遺跡ですよ。なかなかの迫力でしょう。」
山田「そうだよね。ただ、世界遺産ってこともあって各国からの観光客の人数が半端ないですね。俺のイメージでは、もっと観光客がまばらで、アンコール・トムから伝わってくるパワーというかエナジーを感じ取れるかと思っていたんだよね。」
ニャン「アンコール・トムは、アンコール・ワットと並んでアンコール遺跡を訪れた際には、外せないスポットになっていますから、この観光客の人数なんですよね。世界各国からの観光客で埋め尽くされているんですよね。」
僕「芋の子を洗うような人の数はさておき、やはり存在感の圧巻が伝わる遺跡には間違いないですね。遺跡の存在感ってかなりありますよね。」
僕と山田とニャンは、まずは、アンコール・トム遺跡の入口へやってきた。ガイドブックの写真では、水が遺跡の周りにあり、趣のあるものに映っていた。実際は、堀には水がなく水連もなかった。少々残念ではあった。が、しかし、僕にとっては世界遺産のアンコール・トムに佇んでいるという高揚感の方が勝った。
入口に向かう路を三人が並んで歩いていた。アンコール・トム遺跡の入口は、少々狭い石門となっていた。その門をくぐると、アンコール・トム遺跡の世界へと足を踏み入れることとなる。本来は、この石門をくぐるとおそらく空気感が違っているんだろうと僕は思った。今回は、観光客の多さのため、その感覚を味わうことができなかった。遺跡は門をくぐると石段になっており、上層階へ登れるようになっていた。僕と山田とニャンは、石段を一歩一歩登っていった。だんだんと先ほどの石門が下界の景色の一部となって、僕の目に入ってきた。
遺跡にはまだまだ修理が必要な個所が至る所にあった。遺跡保存、および修理には莫大な金額がかかるため、カンボジア一国では賄いきれないと思った。そういったときには、各国の協力が必要であるのは、もちろんの話である。今、僕たち観光客がこうやって遺跡を見学できるのも、悠久の時間の建築物に巡り合えるのも、こういった支援資金があるからである。感謝したい。観光客があちらこちらで記念撮影をしている。自撮り棒で撮影しているアジアからの観光客たちの姿が目に付いた。旅慣れた観光客はそんなことはしていない。なんだかそういった光景を見るとゲンナリしてくるのは、確かであった。
山田「なんだかアジア諸国の観光客はマナーが悪いというかなにか残念ですね。せっかくの遺跡を訪れているのに、その雰囲気を味わったりするよりは写真を撮るのが大切なようですね。」
僕「そうだよね。せっかく世界遺産へ来ているんだから、もっと遺跡を見学すればいいのにね。」
ニャン「ここのところ、こういった観光客が本当に多くなってきていますね。遺跡をもっと見学してほしいものです。せっかくのチャンスを無駄にしているような気がして本当に残念ですよね。」
ニャンの言う通りだと思った。なんだか時間の過ごし方がもったいない気がした。
ここでアンコール・トムの紹介をしたいと思う。
アンコール・トム遺跡はアンコール・ワット寺院の北に位置する城跡都市遺跡である。12世紀後半、ジャヤーヴァルマン7世により建設されたといわれている。アンコールは、サンスクリット語のナガラ(都市)からできた言葉である。また、トムはクメール語で「大きい」という意味である。アンコール・トムは一辺3キロの堀とラテライトで作られた8メートルの高さの城壁で囲まれている。東西南北のアンコール・トムの四面に観世音菩薩の彫刻が施されている。
このような背景を知ると、遺跡見学も知識として身に付くのではないだろうかと思った。歴史的背景も勉強し、過去の同じ過ちを犯さないようにしたものだと実感してほしいと感じた。僕だけではなく山田もニャンもきっとそのようにおもっているはずである。時空を超えて存在している遺跡を今まさに自分自身の目の前で体感できるなんて、本当に素晴らしいことだと感じざるをえなかった。
この後の百年たった時には、アンコール遺跡群はどうなっているのか楽しみである。僕たちはその姿を見届けることはできない。人間には限りある命だからである。そう思うとなんだかメランコリックになってきた。
生きとし生きるものには時間に限りがあるからだ。だから、その瞬間、瞬間を本当に大切にしたいものである。実際のところ、今まさに、ここにいるどれだけの人間が、時間のその貴さに気が付いているのだろうかと思った。人というものは失って初めて、その失ったものの大切さを気が付く生き物でるとつくづく思った。
僕たち三人は、アンコール・トム遺跡の石段を一歩一歩踏み出し、遺跡からあふれているエナジーを感じ取った。一歩進むごとに古の悠久の時間の波長を感じ取れるようだった。
山田「酒井さん。ニャン君。遺跡の石段を一歩進むごとに足元からエナジーが感じ取れるようですよね。」
僕「山田君。そうだね。この遺跡に今、立っているってことが奇跡なんだよね。そう考えるとなんだか胸が熱くなるよね。」
ニャン「お二人のおっしゃるとりですね。悠久の時間が今僕たちの足元に流れていると思うだけで、僕は、ドキドキしちゃいます。」
山田の言う通り遺跡から伝わるエナジーのすごいパワーを感じざるをえなかった。体中が熱くなってきた。先ほどのタ・プローム遺跡では、そこに佇んでいた過去の人からのメッセージが伝わってきたが、このアンコール・トムはそれとは違う。人知を超えた異次元のパワーを感じ取れた。遺跡全体からメッセージが僕たちに送られてきている感じがひしひしと伝わってきていた。
そのメッセージは、今は、どのような意味なのかはわからなかった。そう大きくない遺跡を僕と山田とニャンの三人は、一通り見学をした。
ニャン「アンコール・トム遺跡はこれで一通り見学しました。いよいよ、アンコール・ワットへ移動したいと思いますが、いかがですか。」
僕「じゃ、そうしましょうか。いよいよですね。」
山田「いよいよですね。」
僕は、念願だったアンコール・ワット遺跡にいよいよ辿りつけると思うと、感無量になった。憧れの場所へ行けるなんて夢のように思えた。先ほど通った道ではなく、駐車場までは、アンコール・トムの外周の路を通り戻った。路の周りにある街路樹をかすめながら、吹いてくる涼風がなんだか心地よい。この風の感触も12世紀後半に生きた人々も感じ取ったのだろうか。今となってはわからないが、いや、きっと同じ感情をもったはずだ。
僕たちは、駐車場までたどり着くと、ホットドックの露店で小腹を満たすため、立ち寄った。店の店員は、笑顔で愛想よく注文を受けてくれた。カンボジアの人たちの笑顔には、本当に心洗われる。
僕たちはそれぞれ、ホットドックとドリンクを注文した。
僕「ニャン君、ここは僕がご馳走しますから山田君もいいよ。何にする。」
山田「それは悪いですよ。俺の分は俺が出しますよ。」
僕「年上には、甘えられるときは甘えちゃえばいいですよ。今回は僕の仕事付き合わせちゃった感じもあるしね。」
山田「わかりました。ご馳走様です。俺は、ドリンクはコーラでお願いします。」
ニャン「いえいえ、ぼくこそ、御馳走になるわけにはいきませんよ。」
僕「いやいや、山田君とニャン君は僕の弟みたいなもんだから、何も言わずご馳走になってください。これぐらい大丈夫ですよ。ニャン君はドリンクを何にしますか。」
ニャン「それじゃ、僕もお言葉に甘えて御馳走になります。僕は、ジンジャーエールにします。」
僕「店員さん、ホットドックを3つと、ドリンクはコーラーを2つ、ジンジャーエールを1つお願いします。」
店員はクメール語で何かをいっていた。ニャンに通訳を頼んだ。
僕「ニャン君、店員さんは、今、なんて言ってたんですか。クメール語ですよね。」
ニャン「そうですね。クメール語で話していましたよ。店員さんが言っていたのは、オーダーの確認です。」
山田「そうなんだ。英語ならばどうにかわかるけど、さすがにクメール語は全く読めないし、聞き取れないよ。」
僕「クメール語の表記も独特ですからね。ぼくたちには、全く理解できませんよ。」
ニャン「そうですよね。クメール語の表記はアルファベットではないですからね。読み方も独特なんですよね。」
僕「語学って本当に面白いですよね。その土地土地で風土や文化と同じように全く、言葉も違いますしね。」
ニャン「逆に僕は日本語の漢字が、実は苦手です。一つの漢字で音読み、訓読みがあると訳が分からなくなるんですよね。」
山田「そうだよね。日本人の俺でさえ訓読み音読みといわれても、とっさに出てこないもんね。」
露店の前には、簡単なベンチが用意されていた。僕たち三人は、オーダーしたものができるまで、そのベンチに座り周りの景色に見入っていた。あたりにはガジュマロの樹々の間から差し込む東南アジアの太陽の光、そっと体を通りすぎていく風を感じ取れた。
山田「なんだか、このまったり感というか、時間の流れの緩やかなところっていいですよね。俺、大好きかも、カンボジア。」
ニャン「山田君、そういっていただけると、カンボジア人の僕にとっては、うれしいですよね。時間の流れは日本と比べるとかなり違うと思います。まだ日本へ行ったことがないけど、なんだかそんな感じがします。」
僕「僕も山田君と同じようにこのまったり感、ゆっくりしている時間の流れは、いいですね。日本ではいつもせわしなく仕事に追われていますからね。こういった時間の流れを感じられるのって素敵ですよね。」
ニャン「そうですよね。お二人は日本ではご多忙なんでしょうね。」
山田「俺は、まだ、大学生だから時間はあるよ。でも、日本では、周りがせわしなくしているから、なんとなくこちらも落ち着かないですよ。」
僕と山田とニャンの三人が、たわいのない会話をしていると、注文したホットドックが出来上がったようだった。店員が僕たちの座っているベンチへ運んできてくれた。ドリンクはあらかじめ先に受け取っていた。ホットドックのウィンナーがかなりおいしかった。
山田「酒井さん、ニャン君、このホットドック本当にうまいですね。」
ニャン「本当ですね。なかなかですね。」
僕「このバケットも中身のウインナーとマッチしたものですよね。バケットがしっかりとした生地ですね。おいしい。」
僕たち三人の周りでは、観光客が楽しそうな会話をしながらこちらへやってきた。彼らも遺跡を一回りして、小腹が空いてきたのだろう。ホットドック屋台の隣のカンボジアンフードの屋台も繁盛していた。
僕と山田とニャンは食事を終え、いよいよ今回の目的地のアンコール・ワットへと移動を開始した。
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