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「逃げ道がないわ。これ以上逃げることなんてできない」
「そんな簡単にあきらめてどうする! 奴に捕まったらとんでもない目に合うかもしれないんだぞ! それでいいのか?!」
現在は午前二時を回ったところか。
二人で山の中でキャンプをすることになり、夕方前にやってきて川で遊んだり釣ったりし、飯を作り食べて星を眺めた後、二人でテントの中で眠りについた。幸せだった。
しかし楽しいと思われたそのキャンプは、転じて最悪なものとなった。
一時間ほど前……日付が変わって一時間後の午前一時。テントの外から何やら足音がするのをとらえた。獣のような足音ではない。これは二足歩行。においは特にしない。明らかにこちらに向かってきている足音の正体は人間だとその時点で判断した。
向かってきている謎の足音のほうの逆側に出入り口があり、そこから逃げることを考えた。彼女も音に気付き、俺と同じ考えに至ったらしい。小声で『せーの』といい、一目散に逃走を開始した。
すると。こちらに近づいていた正体が判明。ちらりと振り返ると、全身漆黒で目の部分に赤く光るライトをつけた、男だった。見たことがあるような体型をしていた。しかしそれどころではないので深くは考えずに逃走を続行。接近者は怒りをあらわにし、全速力でこちらに向かってくる。手には、ダガーナイフらしきものがある。何者か知らないが、俺たちの秘密のデートのことを知っているのか。俺たちに恨みがあるやつなんているのか。考えるな。急げ。
そうして、なんとかれこれ一時間も逃げ回っている。ありえない話だ。
一時間のうちに森を抜け、まちなかへとやってきた。深夜だから、この小さな街の明かりは少ない街灯のみで、人など誰一人とて確認できない。しかも、この街は迷路のように入り組んだ形をしており、道を間違えると誰かの家に突き当たることになってしまい、背後から襲ってくる何者かに捕まる悲劇しかない。
で、いま、そうなりそうなわけだ。
「もう、この家に入るしかないんじゃないのか?!」
目の前の突き当りの家は、小さな一軒家だ。誰か住んでいるかもしれないが、お構いなし。
表札を見るが、字が読めなくなっている。見たことがある気もする。
「鍵開いてるの?」
あ。
「ええい、窓を割っちゃえ!」
幸いこの家には門がないため敷地に簡単に侵入可能だ。
パリィィィィン!!
窓を割った。
中に入った。
急襲者は、そのまま敷地内に入り、家の。
ドアを。
開けた。
「開いてたああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
なぜわかったのか。あの野郎は。
開いているという確証があって開けたようにしか見えなかった。ならば、ここは。こここそが。
「お前か……」
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