ホワイダニット・エクスキューズ

名取

第1話






 夢を、見ていた気がする。





 でも夢というのはいつだって、目が覚めた時には、砂の城のようにあとかたもなく消えてしまう。あれだけリアルに、現実であるかのように感じていた光景が、眠りという魔法が解けたその瞬間に崩れ去る。それが昔から、僕にはつらかった。とても、とても……


「……う、」


 けれど、そんなつかの間の浮世離れした考え事も、意識がはっきりしてくるにつれて、徐々に消えていった。そして代わりに脳内に浮かび上がってきた疑問は、自分が今寝そべっている場所についてのことであった。どうやら布団やベッドではなく、絨毯の敷かれた硬い床で寝ているらしく、さっきから体が少し痛い。そんな痛みが、僕をまたさらに現実へと引き戻した。


「……え?」


 瞼をこじあけ、周りの様子を確かめようと首を回して、僕は思わず驚きの声を上げた。ここは……どこだ? 

 知らない場所だ。

 天井からは美しいシャンデリアが、そして壁には額縁に入った油絵がかかっている。すぐ横にはテーブルと二人掛けのソファがあり、どうやら僕はそれらに挟まれた空間に倒れるようにして寝ていたことがわかった。

 どこかの屋敷の一室、なのだろうか。


「なんだここは……」


 するとその時、鼻をつく異臭に気が付いた。鉄臭いような、どこかで嗅いだことのある、気分が悪くなる最低のにおいだ。あわてて起き上がろうとしたら、足の先に何かが当たった。べちゃり、という感触が足の指に伝わる。僕は自分の足元を見た。


 そこにはが、崩れた積み木の城のように転がっていた。

 

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