無意識の意識

みなづきあまね

無意識の意識

夏の午後、雨予報は外れ、燦々と太陽から日差しが降り注ぐ。それでも先週のような酷暑ではなく、日傘がなくても、汗ひとつかかず職場に着いた。


ランチを終え、席に着く。夏の暑さのせいなのか、サーバーに不具合があり、パソコンで仕事が進められなくなった。自前のタブレットでやれることをやる。何だか急かされず、のんびりできる。


今日も私の意中の彼は、私から見える席に座っている。遅めの昼なのか、顔は隠れているが、食べている様子が伺える。


話したい。だけど話題も用事もない。頭ではそろそろ引き際と思っている自分がいる。色々試したり、1日1回はなにかと話す要件がここ数日はあったけど、私にはきっと興味がない。


そんなことを思っていると、内線が鳴った。自分の島ではない。しかし、誰も取る気配がないため、私はボタンを押し、自分に近い電話で取った。


「はい」


「もしもし、お疲れ様です」


庶務課の社員は、彼宛に広告代理店から電話が入っていると言った。


彼の近くではない内線が鳴っていたから、全く期待もしていなかった。今日はじめての接点ができて、小さな喜びである。


私は受話器を置き、既に仕事モードに戻っている彼の名前を呼び、声をかけた。


「あの、1番にお電話です。」


彼は短く返事をし、電話に出た。見た目と裏腹に少し学生を思わせる、気持ち高めの声。電話に出るとトーンが上がるなんて、なんか女の子みたい。と、密かに思いつつ、椅子に座った。


ただこれだけ。なのに心臓がドクドク脈を打っている。心の中では、まだ諦められてない。無謀とわかりながら、明日も私は彼の声を追うだろう。

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無意識の意識 みなづきあまね @soranomame

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