Just Push Play

窓拭き係

“ただ押して遊べ”

 たとえるならまぶしい空間くうかんだった。それはじていても、ぼくなかに、まぶた虹彩こうさい網膜もうまくとおしてやってくるひかりだった。そこは完璧かんぺきめられた立方体りっぽうたい、あるいはいんようたいきょくず 内側うちがわか。ひょっとすると、メビウスのなかはこんなふうなのかもしれない。

 ぼくはがった。べつにそうする必要ひつようはなかったけれど、こんなにあかるい空間くうかんなら、それをみずからの確認かくにんせずにはいられなかったのだ。



 ひらくと、たしてここは平面へいめんだった。いやたしかにぼくの身体からだはちゃんとあったのだが、しかしほかがあまりにひかっていて、遠近えんきんべつまったくつかないので、どうしても平面へいめんえてしまうのだ。しかし、そんななかにもモノはあった。


 それはボタンのようだった。このひかりつつまれたなかでやけにはっきりかたちえて、ちゅういているのかとおもいきや、それはすぐうしろのかべていされているようだった。そしてこれがぼくをもっともなやませる原因げんいんになるのだが、そこのかべには、ぼくがりもしない方法ほうほうでこうかれていたのだ。


“JUST PUSH PLAY”


 ぼくはうごけなくなった。それはこの文字もじ使つかわずにかれたメッセージにしばけられたとか、そういうのではなく、たんじゅんにどうすればいいのかわからなかったからだ。一体全体いったいぜんたいこのはどういうなのだろう。「PUSH」というぐらいだから、やはり「せ」ということだろうか。しかしこの「PLAY」とはどういうことか。「あそべ」ということなら、「してあそぶだけ」もしくは「ただしてあそべ」となる。


 どちらにせよこれをせとわれていることにはわらないらしい。これはじょう判断はんだんまよう。これをすとなにこるのだろう。

 でも、ひかりばかりで展開てんかいのないこのにおいて、このボタンらしきモノをさずして、ほかなにをするのだろうか。やはり、したがうべきだろう。


 ぼくはばす。はじめおもったよりもとおくにあったそれは、ついにぼくの指先ゆびさきにその輪郭りんかく内側うちがわかれた。


ぽん。


 おとった。そしてそれと同時どうじ ふるえた。それもただマナーモードの携帯けいたいさわっている、というレベルのはなしではなく、ぼくのそのものがふっとう寸前すんぜんみずみたいにわきがってくるモノをこらえきれずにふるえたのだ。その感触かんしょくはとても気味きみわるくて、とても面白おもしろかった。


 おもわず、もういちそれをしてしまうくらいには。


おーーーーーん。


 ふたたびおとがなった。そして、これまた同時どうじ に、こんどはあしまわりはじめた。おどろいたことに、これは非常ひじょうたのしいのだ。


 もういちどおす。


ふぁん。


 おとがなる。


 さらにおす。


がちん、がちん、がちん。


 おもしろいおとがなる。


 どんどんおす。


ぶーーーーーーーーーーーーーーー。


 たのしくなる。


 つぎはいっきににかいおしてみよう。


どん、ぱん。


 すごい。おとがふたつなった。


 じゃあこんどはもっとおしてやろう──



────ガタン。



 ──はっといた。なんというか、めたがする。ふとよこやると、ドアがひらいていた。そのなかしろく、そこからはくろこぼちていた。どうやら、もうここからられるらしい。


 ドアのほうた。ここはひかりあふれているのにたいし、これのさき暗闇くらやみばかりで、さきえない。


 さあ、そろそろかねばならない。けど、そのまえに────






 ────もういちど、あれをおそう。

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Just Push Play 窓拭き係 @NaiRi

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