雷
雷が墜ちた。
その膨大なエネルギーは、ベランダで僕が吸っているアメリカンスピリットめがけて墜ちてくる。煙草の光が雷を灯し、その従順な自然のエネルギーはフィルターを素通りして僕の体を、打つ。
そのシークエンスの前に、一瞬の稲光が世界を覆ったことについて考えなければならない。
ある家では稲光に犬が怯え、吠えた。
ある庭では父親の愛でる盆栽が波動に揺れた。
ある街のカップルはその雷鳴をキスの口実とした。
ある小説家はその稲妻をクラウチングスタートに例えた。
あるパチンコ店では神成は意味をなさない。それよりも大事な音にみんな向かっている。
ある大学生はその轟音にハイセイコーの詩を思いだし、懐かしく笑った。
そして我々ですらない、何者でもない、横たわるものたちもその音を聴く。
そんな人々の生業を囲うように放たれたゼウスの力は、まるで彼らの運命を集約するかのように、僕の煙草に吸い込まれた。そしてフィルターを通って、濾過されて、僕の身体を焼き尽くす。僕はその時ちょうど駝鳥の涙について考えていて、雷鳴が代入されたことによって解を得られたような気がしたが、ショウシンした今では、それを確かめる術はない。
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