チカクテトオイ
ニシクラ サカセ
心をこめてご奉仕を
DKブランドだって、JKブランドに負けないくらいの価値がある。
『高校生』ってだけで良いと言ってくれる人は結構いるからだ。
「すごいね、君の高校って結構良いところだろ。こんな事してる子がいるとか興奮するな」
今日のお客さんは、三十代前半くらいのサラリーマン風の男性。
僕の制服姿に喜んでくれているらしい。制服自体は紺のブレザーに、グレーのチェック柄のパンツスタイルという至って普通の格好だと思う。
時間は夜の十時を過ぎたころ、場所は待ち合せしている公園の駐車場。そこに停めているお客さんの車で商談中だ。夜の公園に人影はなく、駐車場に他に停まっている車はない。
「手だとこれくらいで、口も使うとこれくらいです」
明朗会計がモットーだから、事前に指を折ってお値段を提示する。
一応、僕はヘテロなので男性相手に本番はしない。女性相手の場合は本番ありのコースも用意しているけど。
多分DKブランドの中でも、僕は高い方だ。
まず顔はどっちかというと童顔だけど、結構良いと思う。髪形もナチュラルな感じにしていて、全体的には甘い感じになるように意識している。身長も一七五センチと高校一年生にしては恵まれた方だし、部活で鍛えているから体もわりと締まっている。
実際に学校では何度か告白されたこともあるから、他人からも魅力的に見えているんだろう。
自分を売る仕事だから、なるべく高く売れるように自分への投資は欠かせない。まさに体が資本だ。
そして、高いお金を払ってくれるお客さんには、心をこめてご奉仕をして喜んでもらう。
僕こと
「じゃあ、口の方で頼むよ。その前にさ、自分でしてるところ見せてほしいんだけど、いける?」
「それはこれくらいかかりますけど、良いですか?」
「良いよ、それで頼む」
欲情して赤みがかった表情でそう言うと、ポンとお金を渡してくる。金払いの良いお客さんはありがたい。
一応、普通のバイトとしてファミレスでバイトもしているけど、まともに働くのがバカらしくなる。
自分の中では、これは『お仕事』で、ファミレスのは『バイト』と切り分けている。稼ぎも『お仕事』と『バイト』では全然違う。
やっぱり高校生の間に荒稼ぎしておかないとね。そして、なるべく早く『お仕事』から足を洗おう。
心の中でひとりごちて、仕事に取りかかるのだった。
次の日の朝、部活の早朝練習に向かう。
時間が早いからか、ひんやりとした空気のなか登校している生徒は他にいない。
しっかし、昨日の客は最悪だったな。盛り上がりすぎたのか、最後に喉の奥に突っ込んできて無理やり飲ませてきた。たまにあの手のタチの悪いのがいるから困る。
もう慣れたとはいえ、喉の奥に生暖かい精液の感触や匂いが残っているような気がして、朝から最低な気分にさせてくれる。
昨日稼いだお金のことを考えて気を紛らわそう……。
「一之瀬君!」
後ろから、鈴が鳴るような可愛らしい音色で僕を呼ぶ声がする。
この声を聴いた瞬間、最低だった僕の気分は吹き飛んだ。
さっきまでモノクロのように見えていた風景が急に色づき始める。
振り向かなくても誰か分かる。
「おっす!」
声の主はタタッと小走りで後ろからやって、僕の肩をトンとたたいて横にならぶ。
走ってきたからか、ちょっと息切れをしながらも、ぱあっとした最高の笑顔を見せてくれる。
「オッス! 吉本さん、ひょっとして走ってきたの?」
「うん、遠くにね、一之瀬君がね、見えたから、追いかけてきた」
胸に手を当てて息を整えながら、途切れ途切れに言葉を紡いでいる仕草が微笑ましい。
彼女は
僕は選手として、彼女はマネージャーとして。これから、早朝練習があるから彼女も早い時間に学校に向かうところだったんだろう。
肩まで伸ばした細く艶やかな黒髪がとても綺麗で、いつも目を奪われる。クリクリとした澄んだ瞳と、少しツンと上を向いていて小さく形のいい鼻梁、そしてぷるっと潤いを感じさせる唇が印象的だ。
本人は身長が低いことを気にしているけど、その小柄な体が彼女の可憐さに拍車をかけている。
彼女とは中学からの付き合いで、いつみても可愛くて思わずため息をつきたくなるほどだ。紺のブレザーの下に白のカーディガンを着ているのだけど、小柄なせいかブレザーからカーディガンの袖が気持ち長めにはみ出ているのが、可愛らしくて個人的にポイント高い。
「朝はけっこう涼しくなってきたねー」
呼吸も整ってきたみたいで、走って少し乱れた髪を整えながら言う。
今日はいつもはおろしている前髪を編み込みにしていて、とても似合っている。
「だね、十月に入ったら急に涼しくなるなあ。まあ運動するにはちょうど良いんだけど」
「うん、ダッシュしてもそんなに汗かかないもん」
たわいもない会話だけど、自分の顔が自然とほころんでいく。
「そういえば、今日は編み込みしてるんだ。それも似合ってて良いね」
「え? ほんと? ちょっと気分変えてみようと思って。良かった、ありがとう」
えへへ、と自分の髪をなでながら恥ずかしそうに、でもちょっと嬉しそうな吉本さんを見て癒される。なんだよ、天使かよ。あまりの可愛らしさに、今日も頑張れる活力が湧き上がってくるのを感じる。
そして、それと同時にずきり、と胸が痛む。
特に『お仕事』した次の日なんかは、彼女の笑顔を直視するのが辛い。もちろん、『お仕事』してることなんて秘密に決まってる。バレたらこんな風に口なんて利いてくれなくなるだろうし、そんな事になったら死んだ方がマシだ。
今はこうしてたわいもない事を話したりして、笑っていられる関係であるだけで良い。
そう、それで良いんだから。
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