カブトムシと殺人事件

青キング(Aoking)

第1話

 連日で真夏日を記録する夏の盛りのことである。

 郊外のマンションの一室で、男性が血を吐いて倒れているという連絡を受け、最寄りの警察署から数名の警官が連絡のあったマンションに急行した。

 マンションの二階で現場だと思しき部屋の前で、おどおどと女性が警察の到着を待っている様子だった。

 管轄の警察署に勤務する元山は、部下を背後に連れて階段を昇り女性に駆け寄った。

「あなたが連絡をくれた?」

「え、ああ、はい」

 たどたどしい受け答えで、女性は頷く。

「そうですか。現場はどこですか?」

「そ、そこの部屋です」

 女性が震える指で示したドアの開いた部屋を、元山は覗いた。途端に吐き気を催す強い腐臭が、元山の鼻を刺す。

「元山さん、捜査一課の方々が」

 部下がマンションの駐車場に、捜査一課の車が停まったのを見て言った。

 捜査一課の面々も二階に昇ってくる。

「元山か。現場は?」

 捜査一課の一人で元山とは長い付き合いの恰幅の良い吾妻が、元山に状況を尋ねる。

「まだ見てない。俺も今さっき来たばかりだ」

 腐臭に眉をしかめながら、そうかと返した。

 集った鑑識含めた警察一同は、現場に踏み入った。

 部屋は広くない畳張りのワンルームで、死んでいると連絡された男性は畳の上にうつ伏せ倒れていた。男性の顔の下の畳には血がすでにシミが作られていた。

 捜査一課や鑑識とともに、元山は腐臭に鼻が詰まりそうになりながら現場を調べた。

 部屋の窓は一つで閉まっており、窓からはマンションの裏庭を見下ろすことが出来る。

 その窓際に文机にどうみても高値ではなさそうなプラスチックの虫かごが、蓋が開いた状態で置いてあった。虫かごの蓋縁の正面に『12‐a』とペンで書かれたシールが貼られてあった。

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