第24話 冒険者ギルドに報告をしました
ようやく街に戻った時には、お昼を過ぎたところだった。午前中に出かけたはずなのに、時間はあっという間だ。約束通り門番の人が視認できるような位置に来たところで抱っこからは解放されたが、手はつないだまま駆け足でやってきたので息が切れる。
「どうした?! そんなに慌てて」
「スタンピードになるかもしれない。通常現れない場所にゴブリンが居た。ギルドに報告に行く」
息も切らせず、淡々と報告をするアルさんを見ながら、基礎体力の違いかなぁ、なんて見当違いのことを考える。この体になってから、まだ数日なもので慣れないせいもあるとは思うんだけど、私は頭脳労働派なんで! いや、ちょっと筋肉で反射的に動くことがないとは言い切れないけども。
「彼女は連れていくのか?」
「ああ。彼女もいっしょに居たから、一人より二人の証言の方が信じてもらいやすいだろう」
多分、息を切らせている私のことを心配してくれた門番さんの言葉は、あんまりアルさんには届かなかったようだ。これはもう、どうしたらいいのかなぁ。うーん。うーん。
「ここからは背負っていく。俺の足の方がはやい」
「まぁ、そういう事情なら仕方ないか。頑張れよ、お嬢さん」
抱っこが嫌なら、おんぶと来ましたか。仕方ないか。今の私ではただの足手まといになっちゃうもんね。しゃがんだアルさんの背中に覆いかぶさるようにして首筋にしがみつくと、しっかりと足を抱えて立ち上がられる。マントしててよかったな、これは。
「じゃあ、また後で」
そう言ってアルさんが走り出したので、私は門番さんには挨拶も出来ず、ひたすら舌を噛まずに振り落とされないことだけを考えて、しがみつき続けることに集中したのだった。
ギルドに付いて、受付のお姉さんと小声で話をした後、私たちはギルドの二階に通された。そこでようやく降ろしてもらって、私は一息つく。
「水、水」
バッグの中から水筒を取り出して、水を飲んでいるとアルさんが私の方を見ているのと目が合った。
「の、飲みます?」
「……いいの?」
はっ! これって間接キッスというやつでは?! というか、発言が古くさいぞ、私! 見た目通りの年齢ではないので、昭和発言もお許しいただきたいところだけれども。
「どうぞ」
水筒と形容はしたものの、これはただの金属製の筒に飲み口を付けたものである。私が飲みやすいように作ったもので、現実世界での飲み口付水筒をイメージしたものだ。中には冷たい水が入れてあって、走ったりして熱がこもった体には染み入る。
アルさんはちょっとためらってから口を付けた。うん。逆に恥ずかしがられると、何でもないことなのにすごく恥ずかしくなってくるね! なんでだ!
「美味しい。ありがとう」
「いえいえ」
ぺこぺこと二人掛けのソファで頭を下げあっていると部屋のドアが開いた。
「スタンピードだって?」
熊のような髭面をした大男がやってきて、分かりやすい感じのえらい人なんだなーなんてぼんやり考える。
「ギルド長、お久しぶりです」
「おう。挨拶はいい。見てきたものを教えてもらっていいか」
話がはやい人で助かるね。アルさんを色眼鏡で見ていないところも好感が持てる気がする。皆に平等にするのって難しいと思うんだけど、そういう雰囲気が伝わってくる。
「俺たちが受けた依頼はこれです。現れるはずのモンスターはホーンラビットとスライム。ですが、もっと森の奥に進まないと現れないはずのゴブリンに出くわしました」
「それで?」
「ゴブリンたちは恐らく3人一組。他にもいたのかもしれませんが、俺たちは出会っていません。全員弓装備。矢の先には毒の塗ってあるタイプでしたので、おそらく斥候。これから
すらすらと答えるアルさんを見つめながら、私は感心しているのとは別に胸の奥がちりちりと痛むのを感じた。これは、多分初めてではない。おそらく、何度目かの侵攻だ。
私がアルさんの横顔を見つめる視線に気づいたのか、ひげ面の熊男ギルド長は私の方を見て強く頷いた。
「お嬢ちゃんの思ってる通りだ。この街は、何度も侵攻に晒されている」
「……国は?」
この街も国に属していたはずだ。もっと大きい交易都市ならば独立していてもおかしくはないが、この街の規模ならそれはあり得ない。
「上の方々は戦争に夢中だ」
ぞわわっと鳥肌が一気に立った。思わず自分の両手で自分を抱きしめる。高騰しているポーション、足りない生産者。何かがおかしいと思っていたんだ。なるほど、そういうことなのか。
「腕が立つ奴らは独自に王都へ向かっちまってな、ここらには冒険者も少ない」
「……だから、スタンピードが起きる」
通常、こまめに討伐が重ねられていれば、スタンピードは起きない。魔物の大量発生は、通常澱んだ魔力が凝り固まって起きるものと、討伐されなかった魔物たちが徒党を組んで近隣の町や村を襲うものに分かれる。今回は恐らく両方の要因が重なったものだ。つまり、いつものものよりも更に魔物の数が多い可能性がある。
「頭の回転がはやいな。アルの彼女か?」
「違いま」
「いずれそうなったらいいな、とは思いますけど」
私が否定をしたその言葉に被せるようにそういうこと言うのはずるいなー。ずるいと思いますー。私は否定も肯定も出来なくて、ぐぬぬぬと口を閉ざすしかない。アルさんは何故かにこにこしている。
「一先ず先遣隊を派遣したいところだが、人数が足りんからな。防衛戦になるだろう」
嫌なことばかりが頭をよぎる。なんで、こんなに私の頭には悪い予想しか出てこないんだろう。
「昼も食べてないので、一度出てまた戻ります。すいません」
「そうなのか? 慌てて戻ってきてくれたんだな、すまなかった。お嬢ちゃんの顔色も悪い。少し休んだ方がいいだろう」
意外にも紳士的な熊男の提案に私は頷きながら立ち上がる。アルさんは私の額に手をあてて、心配そうにしている。
「ごめん。あまり気が回ってなかった。一度宿に戻ろう」
「はい」
ひんやりとしたアルさんの手が心地よいあたり、知恵熱でも出たのかな? 私たちは熊男のギルド長に見送られながら、一旦宿に戻ることにしたのだった。
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